第10話 ⑦ お兄ちゃんの国土改造計画 インフラ整備編
貯水池から一段ほど下がった場所に長方形に整えられた池が複数作られていた。
「これが閣下の言われる浄水場の?」
「そう。“緩速ろ過”で水を浄化する浄水場の池がこれなんだ」
その池は学校に設置されているプールのような整った長方形のもので現在完成したものが二つ。そしてもう二つが建設途中であった。
ゆっくりと緩速ろ過池に向かう一行。しかしその池の様子を見て意外な感想が聞こえてきた。
「閣下、本当にこの池から泉水のような清らかな水が得られるというのですか?」
ろ過池まで視察に来たカイは、池の様子を見て驚きの声を漏らしてしまう。確かに眼下にある真四角の人工的な、学校のプールほどの池は、浄水場という割には泉水のように冷たく澄んでいるわけではなく、藻が湧き、小魚や虫が泳いでいたからだ。
「そう。この池の上張りの水は確かに飲み水には程遠い。だけどこの下から染み出した水はというと・・・・・・」
その次に案内したのはろ過池から下った大きな土管の上に建てられた小屋。ごうごうと音を立てて池のそこから染み出した水が流れていた。
「さあ、この水を飲んでみてくれ」
サトルはそこで汲んだ水を透明なガラスのコップに移し一同に見せた。それは間違いなく何の濁りもない清らかな水であった。
「もちろん飲めるよ」
眼前でサトルは一気に飲み干してみせると、他の者たちも飲まざるを得ない状況となり、次々と追従する。そして口々に感嘆の声を漏らしていった。
「これが新式の上水!」
「なんと美味な!まるで泉水のようだ!」
その賛辞は偽りではない心からのもの。
「閣下、この濁りなき浄水が本当にあの藻ばかりの池の水だったというのですか?!」
「もちろん」
試飲した重臣や領主たちが口々にその味を絶賛する。サトルが作らせた緩速ろ過方式の浄水場は大成功だった。
「緩速ろ過の浄水場ならこの世界の資材や技術の応用で作れるからね」
緩速ろ過とは薬品を使わずに水を飲料にできるほどまで浄化する方法である。その仕組みを説明するためにサトルは改めてろ過池まで上がり、その隣に作られていた三番目と四番目の池を見学させる。三番目は完成目前で、四番目は内貼りを終えてこれから敷き詰め作業開始という状態であった。
まず四番目に案内する。池は貯めた水を周囲に漏らさない、いや、周囲からの影響を受けないように、分厚く防水処理が施されていた。読者諸氏には学校に設置されているプール、その底を三倍以上深くしたものを想像していただきたい。
「まずはこの底に沢山の穴が開いた導水管を設置。その上に大きい砂利から順々に小さな砂利を敷き詰めて、最後に・・・・・・」
今度は完成寸前の池を見せる。
「砂地、でありますか?」
完成目前の池には一面に砂が敷かれていた。
「うん。この砂が大事なんだ。特に上辺がね」
サトルは稼動している池に大きなガラスの管に入ったサンプルを見せるように指示。
「これは?」
「完成している池から抜き取ったサンプルだよ。見ての通り、砂地の上辺に色が変わった層が薄いできているのが分かると思うけど、これが水に含まれる目に見えない瘴気や毒を餌にしているんだ」
それこそが緩速ろ過方式の鍵となる微生物が形成した層、即ち生物濾過層である。この層に生息する様々な微生物が人体に有害な病原体などを餌として捕食し除去してくれるのだ。
そしてそこから染み出す水には病原菌は除去されており、砂から砂利へと徐々に浸透していく水には微生物が繁殖するのに必要な栄養が消費され尽くしているので存在しておらず、当然病原菌も繁殖できない。このように砂の層を通過して微生物が除去された水が池の底に敷設された導水管から得られるという訳だった。
このような緩速ろ過は自然な浸透で水を浄化するので時間が掛かり、かつ定期的にろ過池の目詰まり清掃が必要になるため、大量の飲料水が必要になる大都市向けではない。
しかし、それほど高度な科学技術がなくても建設と維持が可能なので、現代でもあまり大人口を抱えていない地域や途上国では重宝されているのだ。故にサトルたちは王都の飲料水問題の解決に最善だと判断してこの方式を導入したのだ。
こうして浄化された水は、再建された水道橋を伝って王都に届く。王都では新たに上下水道の敷設が進められており、ほどなく一連の上水道設備の完成と開通を祝う式典が開催された。
「これが新しい飲み水か!」
「本当に泉水のようだ!」
王都への開通がされて半日後には全ての箇所から水が汲み上げできるようになったが、すでに評判が立っていた新式の水を飲んでみようと、式典会場の近傍は大勢の人がごった返していた。そして口にした者たちはその誰もが水を絶賛していた。
大きな屋敷には各々、庶民階層向けには十数軒単位の区画毎に一ヶ所ずつ手押しポンプ式で汲み上げる上水道が設置された。地下に埋設された水道管から区画ごとのタンクに送水し貯水。使用する際はサトルが導入し、イトナで製造した手押し式ポンプで汲み上げるという、江戸の上水と似た方式を採用していた。
一方、すでに試飲を済ませていた者たちが目を見張ったのは、式典会場でお披露目になった分水方法だった。




