第10話 ④ お兄ちゃんの国土改造計画 インフラ整備編
農村部は言うまでも無く人口密度が低いので、衛生はそこまで問題になっていなかったが、人口密度の高い都市部ではすでに大きな問題になっていた。
領主の直轄都市はほとんどが数千人から一万人弱程度の規模であったが、都市に限らず小規模な農村に至るまで日本のように住宅地を無防備に開放しておらず、外敵に魔物や敵兵からの襲撃に備える為に周囲を城壁で囲うタイプの都市ばかりなので、必然的に住宅は密集しがちであった。
特に王都は約二万人の人口を抱えており、首都ゆえに国内からの往来も頻繁。それ故に疫病が各地から持ち込まれやすく、その逆に拡散の中心地ともなっていたのだ。
「疫病の流行を抑えるために、イトナ建国から行っている王都の定期清掃活動を強化する。大規模な工事も行うつもりだけど、すぐに取り掛かれる事を住民には徹底してもらう!」
こうしてサトルは足元の王都では、より徹底した教育と清掃運動が開始される事になった。
当然、全土で指導している清掃と手洗いの指導を行うが、王都は国内最大規模の都市人口を抱えている事と、各都市へのモデルケースにする必要があるため、特に念入りに行う必要があったのだ。
「具体的には住民には毎日自発的に家の周囲の清掃をさせて、路面は業者を使って清掃させるってところかしら。貨車は馬に引かせているから“落し物”の対策は絶対に必要よ」
「ですね。あとは家庭から出るゴミの回収も必要では?」
ナツキとマナの提案で王都内での馬の糞尿の回収を使用者に義務付ける事と、家の周囲の清掃を住民が行う事。そして定められた日にゴミの回収を業者が巡回して行うことが決められた。ゴミや汚物の路上投棄には罰金を取る事も決定される。
さらに月に一度は自身が住む区画のドブや公共トイレの清掃を自身で行うか、代理で清掃する人夫の賃金を負担する事も定められた。
「王都に入浴の習慣はあるのかな?」
「はい。王都では最下層や一部の種族はともかく、平民にまで沐浴は習慣化されております」
イトナの王都では身分を問わず夏季には冷水での沐浴が頻繁に、冬季では稀に蒸し風呂に入る習慣が出来上がっていた。
「それでは浴場の整備を改めて行いましょう」
かくしてミキの勅命で公衆浴場の再整備が行われることになった。浴場はこれまで一般と上級に分けられていたが、それを拡張。元々どちらも基本は有料だったが、定期的に一般浴場の無料開放が行われることに。無料開放は貧困層を含めて衛生状態を改善させることを主眼においたものである。
「浴場の定期清掃は必ず実施してくれ。間違っても疫病の温床にするような事がないように」
沐浴の水は基本的に水を掛け流しさせ、定期的に水を抜いて清掃を行わせることに。蒸し風呂も同様に定期清掃を徹底させる。
「湯屋については如何しましょうか?」
王都ではすでに沐浴や蒸し風呂が定着していたが、国王ダイキの趣味もあって温水浴も徐々に広まっていた。現在は王都でも複数の湯屋が中流以上の市民に利用されていた。
「お湯の再利用は無害化されたのが確認されない限り禁止する。違反した場合は営業停止処分にして限度を定めて超えたら王都から追放する」
温水はイトナでは塩素消毒ができないので、仕方がないが毎日お湯を入れ替えて、浴槽はかならず清掃を行わせることに。
さらに公衆浴場に限らず、公共トイレには排泄後のふき取りのために掌ほどの大きさになる作物の葉を用いさせた。こちらは箱に捨てさせ、肥料として再利用する為に回収させる事に。少なくとも手で拭いて済ませたり、間違っても拭き物を複数の者に使いまわしさせないように指導を徹底。
これらの指導は既存の役職者からは隠避されがちだったこともあり、新たに医療と衛生を扱う部署を設立して対応させる事にした。
この代表に名乗りを挙げたのは、王妃が着手していた身分・性別を問わず優秀な子供に教育を施して、適性に応じて官僚・軍人・医者・教師として登用する制度の第一期生の筆頭と目されていたウォッジという青年官僚だった。
「お任せ下さい。必ずや王都を世界一清浄な都にして見せましょう」
まるで磨き上げられた大理石のような清楚な青年が居並ぶ重鎮たちを前に堂々と宣言する。彼は専門の役人に市内を巡回させ、取り締まりを行う事を提言していた。
「さて、あまり潔癖すぎねば良いがな……」
重臣たちの冗談交じりの懸念であった。
「水清ければ魚棲まずとは言うけれど、疫病が発生するのは不潔な環境によるところが大きいのは間違いないからなぁ。あまりに厳しくあたり過ぎないように、加減は必要かもしれないな……」




