第10話 ① お兄ちゃんの国土改造計画 インフラ整備編
タイトでの取引と情報収集を終えたサトルたちは、受領できた売り上げの半分ほどを持ち帰って帰還した。
「ただいまミキ」
「おかえりなさいお兄ちゃん!」
貿易再開の第一便の帰還ということもあり、君主であるミキが直々に出迎える。それほど期待は大きかったのだ。
「成果はご覧の通りだ」
「やったぁ!」
続々と荷揚げされるのは、周辺国で貿易に最も使われている、一帯最大の国が発行していた金貨の詰まった木箱であった。
『おお!』
その光景に同席していた家臣たちもどよめいている。そして御用商人が告げた今回の利益はイトナの王家の年収にも匹敵するものであった。
「閣下の取り寄せられた真珠はやはり高値でお売りできました」
この世界では真珠自体が貴重なので、取れた様々な形の真珠はそれに合わせて装飾が施される事がほとんど。そんな中で完全な球形の真珠、それも滅多に見ないほど大粒のものが複数出た事で、真珠の取引市は騒然となったという。
「これからも真珠は極端に値崩れしないように量を加減しながら売り出そう」
ある程度値崩れするのは避けられないが、どのみち一個人で供給可能な量で市場の破壊など前近代とはいえ不可能な話ではある。それに真珠取引のギルドが動いたとしても、こちらは小国とはいえ国家をバックにしているので、易々と妨害などできないのだ。
ともあれ真珠の売却は莫大な利益をイトナの国庫にもたらした。
「よし。これで工事に着手できるね」
「ああ!」
サトルはイトナ王家の年収に匹敵するほどの利益の大半を、治水工事に振り向けるよう指示していた。
「クルクゴ川の流れを安定させれば洪水に脅かされる事も無くなるし、安定して取水できるようになれば収穫も安定する。だからこの臨時収入は治水工事に回す事にする」
かくして会議の席でサトルが治水工事に本格的に着手するのを宣言するが、サトルが自身の資金を供出したこともあって、反対する重臣たちは皆無であった。
「失礼ながら、あまりに堅実なので驚いた次第です」
「同じく。閣下は極めて高度な技術の品々を持ち込まれるので、てっきりそれらの生産工廠を作られるのではないかと思っておりました」
「うん。それをやりたいのは山々だけど、そのために必要な下地がこの国には全く整っていないし、必要に迫られてもいないからね。それよりも今は誰もがお腹一杯食べる事ができる国にすべきだよ」
サトルはイトナ国にいきなり産業革命を起こして工業国にしたり、特定の資源を大規模に開発して輸出する資源輸出国にするのではなく、農地を整備して安定した食糧生産を行える農業国を目指していたのだ。
「オレが教えてもらった限り、このイトナには多少の石炭と石灰ぐらいしかめぼしい資源は見つかっていないと聞いている。詳しく調査すればまだ何か出てくるかもしれないけど、存在自体が不確かなものには頼りようがないからね」
一同は無言で頷く。
「この国はかつて世界帝国が統治していた頃は、堤防や水路が完備されて、豊かな穀倉地帯だったとも聞いている。だからオレは、まずこの国は農業をしっかりする」
地球の歴史を見ても、特定の資源の売却に頼った国はその資源が枯渇したり価値が暴落したとたんに最貧国に転落している。故にサトルはイトナをそんな失敗国家にしない方法を模索していたのだ。
「オレの持ち込んだ物品収入はあくまで臨時だ。今後極端に値崩れすることだって有り得るし、持ち込み自体ができなくなるかもしれないから、いつまでも当てにはできない」
「確かに……」
「でもその収入があるうちに堤防や用水路を整えておけば、収穫が安定するし、増収だって見込める。その分で維持すればいい」
「まずは誰もが飢えずに食べられるようになって、余裕ができたら他所に売ればいい。商業・工業を軽く見るつもりは全く無いし、技術開発も進めなければいけないけど、最優先は何が起きてもみんなが飢えない国にする事なんだ」
サトルの示した方針に反対する者は皆無だった。翌日、全ての領主も集められてのミキの宣言で、これからの国作りの五ヵ年計画が示されると、一同は惜しみない拍手を送った。
「これからが大変ですね、お兄さん」
というものの笑顔を絶やさないマナ。
「だからマナちゃんにも協力してもらうよ。何せ堂々と地球で活動できる貴重な人材なんだからさ」
「はい!」
こうしてサトルたちはイトナ国の五ヵ年計画の支援を行う為に、ほとんど隠れ蓑として“異世界よろず堂”の営業を開始したのだった。
「異世界から仕入れてくるから、予告無くお店を休む事がありますがご了承下さい、かぁ」
それを読んで思わず笑ってしまうマドカ。
「オンラインショッピングも可能なので、休業日でも受付は可能な世の中ですから大丈夫ですよ」
実際、開店当初に友人たちが来てくれた程度で、あとは日に数人程度の客の入り。そのため売り上げは予想通りに店の賃料とマナへの給料を稼ぐので精一杯だったが、隠れ蓑としては十分だった。
「しかし北区だったら強盗の心配はいいのか?」
カツミの軽い心配にサトルは笑顔で答える。
「ナツキ先輩から店内に術を施してもらってるから大丈夫だよ」
「はい。実はすでに未遂がありました」
マナの話では、あからさまに場違いな雰囲気の男がカバンに銃らしきものを忍ばせて入店してきたが、入店した瞬間に顔の緊張が解け、わずかばかり店内を見渡した後にフラフラと立ち去ってしまったという。
「戦意を持った相手から、その戦意を奪う護符を仕込んだタペストリーを壁に貼っておいたの。他にもカーペットや台や飾りにも戦意喪失から緊急防衛まで色々仕込んでいるから防犯は心配しなくてもいいのよ」
異世界の魔術を見抜き打ち破る事ができる者は現世でも皆無ではないであろうが、少なくとも北区の物騒な手合いにはその手の専門家は皆無であろう。
ともあれ異世界よろず堂での雑貨・家具販売と銅スクラップ売却で得た利益で真珠を購入し、輸出して公共事業の資金を稼ぐサトルの計画は順調に進んでいたのだった。




