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第9話 ③ お兄ちゃんの国土改造計画 資金調達編

 一方、謁見後すぐに開放されたサトルたちは、賑わう市場を抜けて御用商人と共にこの港町最大の宝石商の大店舗に足を運んでいた。入り口に身奇麗な同じ服を着て、腰に金属製の警棒を下げた二人の屈強そうな男が立って周囲を見張っている。


 客として入店すると、店内にも目立つところに一人、陳列の奥にも控えが待機しているのが気配で理解できる。宝石を扱うので当然といえば当然の警備である。その上、店先には商品を並べておらず、商品は客に応対する手代が持ってきてくれる運びなのだという。


「これはこれは!イトナの、海の英雄の皆様が早速起こしとは!」


 事前に御用商人の丁稚がアポイントを取っていた事もあり、入店するとすぐに番頭でなく店主が自ら顔を出した。一帯を荒らしまわった幽霊船団からの戦利品の売却なのだろうと踏んでいたのだ。


「残念ですが連中が奪っていた財宝はほとんどが失われておりました……」


「なんと!」


 それは半分嘘で半分は事実だった。幽霊船団、即ち黒曜の魔術師たちが略奪していた財宝のうち、魔術に関わる品々はすでに消費されるか呪術に用いる為に表に出ていたので、上陸戦の際に炎に飲まれて燃え尽きていた。


 しかし純粋な金銀宝石類の財宝は別の洞窟に保管してあったので、イトナが接収して国庫に入れていたのだ。今回いきなり売却しなかったのは出来る限り持ち主を特定し、時価で引き取ってもらうためだった。


「なるほど、それは残念です。しかしそれではどういったご用件で?」


 いぶかる宝石商。するとサトル咳払いを一つし注意を向ける。そしてマナに目配せするとマナはふかふかのマフラーを解いて、首に下げていたネックレスを見せ付けた。


「こ、これは?!」


 仰天する宝石商。マナが掛けていたのは真珠のネックレスだった。ぐるりと隙間無く真珠が繋がっているだけでなく、その中央にはビー玉より少々大きい粒が鎮座していた。


「実はこちらを売却したくて……」


 マナがネックレスを外すと宝石商は武者震いを起こしながらそれを手に取る。


「ま、間違いない……。本物の真珠……。それも真円でこれほど大きく、それも揃っている!!」


 異変を察して専属の鑑定士も駆けつける。


「お預けしますのでごゆっくり眺められて下さい」


 サトルが許可を出したので、鑑定士と店主は急いで店の奥、中庭に出た。天日の下で真贋を確認する為であろう。


「旦那様、やはり本物に間違いありません!」


 鑑定士も腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「こ、これを入手されたのですか?!」


「うん。連中からの戦利品じゃなく、新しく開拓した我々だけが使えるルートで入手したんだ」


 そういってサトルがさらに見せたのは真珠のネックレスで冠婚葬祭用の一粒8ミリのもの。それを佃煮を入れるための少し大きな桐の木箱一杯に入れていたのだ。


「お、おおおっ!」


 さらに仰天する宝石商たち。これらはサトルが日本で購入した本物の真珠であった。


 サトルが持ち込んだのは、現代日本ではありふれた品質の“養殖真珠”なのだが、この世界では真珠貝の養殖という発想そのものが無く、全て天然から入手するしかないのだ。


 さらにこの世界の真珠は希少性もさることながら、真珠を産出する貝が多く生息する海は地球同様暖かく穏やかな場所になのだが、そこには地球以上に獰猛な海の怪物たちも数多く生息しており、生身の人間では採取は極めて困難であった。


 そのため真珠の採取が可能なのはマーマン族に限られてしまうので、現地のマーマン族が真珠を独占しており、人間たちに出回る量は極めて限られていたので、現代の地球では比較的容易に手に入る8ミリサイズでさえとてつもなく希少な上に、見事に整った真円のものはまず市場に出回らないのだ。


「こ、これほどのものを……」


「ああ。今回はあまり持ってきていないけど」


 その発言にさらに驚愕する宝石商たち。サトルたちの態度が揺るがないのを見て、その言葉に嘘が無いと見たのだ。


 言うまでも無くサトルとマナは故郷に戻れば真珠の入手が容易なので余裕綽綽。なお、安物の人造真珠を売りつけるという手もあるのだが、さすがにそれはマズいだろうという良心の呵責あって、今後持ち込むものも本物の真珠にするのを決めていた。


 そこへ大勢の煌びやかな護衛を引き連れた一団が来店してきた。その団の長は金銀の糸で刺繍された賢覧豪華な衣装に身を包み、全ての指に大粒の宝石付きの指輪を嵌めた中年の女性であった。


「こ、これはバラバさま!ようこそ!」


 宝石商はすぐにその婦人に最上の礼を行う。見るからにこの店一番の上客のようだった。


「旦那様、あちらがこの周辺国でも屈指の財力を誇るバラバ婦人です」


 御用商人がサトルに言うには、彼女はある国の大領主の妻だという。素人のサトルの目にも、その婦人が身を着飾るための宝飾品を買い求めに来た事は即座に理解できた。各地の貿易が再開したと聞いてすぐに足を運んだのであろう。


「やはり目新しいものは無いようね。残念だわ……」


 品揃えは貿易再開前と殆ど変わっていなかったのであろう。落胆している婦人を見て何とか気を引こうとする主人だが、すでに婦人の足は店の出口に向っていた。

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