第9話 ② お兄ちゃんの国土改造計画 資金調達編
時間軸はイトナの制海権を取り戻した直後に遡る。
「それじゃあお兄ちゃん、みんな、良い航海を!」
幽霊船団が壊滅したイトナからの貿易船が意気揚々と出港していく。今回は貿易船だけ送り出すだけでなく、ミキを暫定的に君主とした新体制が整った事を示す為にも外務大臣の各国歴訪が必要と判断され、使節団も伴っていた。
「そうなると当然護衛も必要だよな!」
幽霊船団が打倒されて間がないため、使節団の護衛の為の正規の海軍だけでなく、貿易船の護衛のためにカツミとその部下たちの元海賊たちが正式に海軍として組み込まれ同行していた。
「しかしまさか閣下まで同行なされるとは……」
身なりの整った中年の背が低い男(マナと同じくらいだが、この世界の一般人では全く持って平均的な身長なのだが)が恐縮していた。彼はイトナ王家の御用商人で、イトナの貿易関連は彼の商家が一手に握っていたのだが、姫君の婚約者であり摂政であるサトルが同行するというのだから流石に恐縮していたのだ。
「イトナ以外の様子も見ておきたいからね」
今回の貿易再開に当たって、サトルはイトナ外に向う事にしたのだ。
「なあに、今回は岸からあんまり離れないから心配すんなって!」
「わーい!クルージングだぁ!」
「わんわん!」
マドカにドリンは甲板ではしゃぐ。
「潮の香りはこっちもあまり変わらないんですね」
マナも同行。やはり彼女もイトナ以外の国や街がどうなっているのか見たいという。
ともあれ順風満帆に風を受けた事もあり丸三日ほど掛けて一行は、この一帯では最大規模の国際貿易港と謳われる都市国家タイトに到着した。
「なるほど。ここは大きいな……」
大きくCの字を描いた湾内には手漕ぎの漁船だけでなく大きな帆をかけた船も複数往来している。その船が向う先には城壁と大規模な港町が見えていた。背後には峻険な山が連なっており、海以外のルートでは接近さえ困難なので、都市国家として成立できているのだ。
『イトナから船団が来たぞ!』
『あの幽霊船団を全滅させた英雄たちだ!』
この海域は幽霊船団の跋扈によって海路はズタズタにされてしまい、港町からともし火が消えてしまうほど甚大な被害を受けていた。そのため幽霊船団撃滅の報せはマーマン族によって瞬く間に各地に伝えられ、それを成し遂げたイトナの勇者たちは各国の海に関わる者たちにとっても英雄視されていたのだ。
一行を誘導するのは赤い旗を掲げた手漕ぎの船。案内されたのは立派な石垣で護岸された岸壁の一角。船をロープで固定しようとすると、周囲はすでに人だかりができていた。
「おうお前ら!元気してるか?!」
カツミが笑顔で拳を突き出すと、怒涛のような歓声が沸きあがった。カツミは義賊として扱われておりすでに有名だったが、今回の活躍でさらに名を挙げていたのだ。他にも月光の騎士として知られていたマドカにも大歓声が送られる。
「凄いですね……」
「ああ。ここまで大歓迎されるなんて思わなかったよ」
摂政としてではなく若旦那と秘書としてやってきたサトルとマナにも歓声が降り注ぐ。そこへ立派な身なりの衛兵たちに護衛された貴人が姿を現した。
「ようこそイトナの勇者たち!我々タイトは貴方たちを歓迎します!!」
姿を見せたのはこのタイトを治める五大商家の一人、ツーラ家の大番頭だという。
「タイトの海軍を持ってしても返り討ちにされてしまった幽霊船団を撃滅したのは、イトナの新摂政閣下とお聞きしております。そのお使いが見えられたのですから当然の事です」
大歓迎を受けながら、この都市の中央政庁に案内される一行。使節団はもちろん、商人たちにいたるまで豪華な馬車に乗せられての国賓待遇だった。
「それにしても随分と盛大な歓迎ですね」
サトルとマナが乗せられた馬車に同乗していた侍従らしい青年に感想を呟くマナ。すると侍従は笑って答えた。
「そりゃあもう。今を時めくイトナのご一行が来たのですから歓迎するのは当然ですよ」
愉快そうに笑う侍従。周囲を峻険な山脈で囲まれたタイトは陸地からの侵攻には滅法強いのだがその分陸路からの輸送も困難なため食料品、特に穀物は外部からの輸入に頼っていた。
競合相手は多いとはいえ、イトナは距離が近いこともあって供給地の一つであり、イトナとの交易再開が大いに喜ばれた理由でもあった。
「これでようやくべらぼうに高い金払っても乾燥豆にしかありつけなかった日々とお別れなんですから、上から下まで喜ぶのは当然ですよ」
「なるほどね」
言われてみれば今回イトナからの積荷の大半は穀物が入った麻(に類似した繊維の)袋だったのを思い出す。長期に及ぶ貿易途絶で最も困窮し、かつ早ければ早いほど高く売れるであろう品を持ち込むのは商売人なら当然の事である。
ともあれ中央政庁に案内されると、使節団はもちろん、貿易商の一団にまでタイトを共同統治する五商家の党首たちと謁見する機会を得た。サトルの正体が見抜かれる事は無かったが、特にマドカとカツミには直々に賞金が授与されるなどの大歓迎を受け、それからはしばらく使節団とは別にタイトの海軍代表と会談の場が設けられたほどだった。




