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第8話 B-5 お兄ちゃんの幽霊船団退治

 サトルとカツミは同時に筒を頭目竜の眼前目掛けて投げつけた。


『!?』


 強烈な閃光と耳を劈く轟音が頭目竜の眼前で炸裂し、その目と耳を潰した。二人はスタングレネードを投擲したのだ。


『うぐおお!!』


 身もだえしながら後ろにひっくり返って火を吐き出す頭目竜。集落の火災はさらに激しくなり、島全体を燃やすかのような明るさになっていた。


『お、おのれ小癪なぁ!!』


 潰れた両目と耳が再生し、視力がゆっくりと戻ってきた頭目竜。その眼前には僅かに一丁、ブリッジの中から発砲し続ける自動小銃の火線が。


『鉄の船に隠れたところで何ができる!』


 頭目竜はそのまま巨体を鉄の船のブリッジにダイブさせる。轟音と共にブリッジは圧壊し、巨体は不審船に大きくめり込んでしまう。


『馬鹿め!』


 さらに腕を振り上げ叩きつけると脆くも前甲板に大穴が。だが上機嫌で船を破壊する頭目竜は、船尾からすでにサトルたちが乗ったボートが脱出していた事に全く気が付いていなかった。


「退避だ!退避!!」


「いやっほう!」


 サトルたちは全速力で不審船と頭目竜から距離を取る。夜の湾内に無灯火での航行は危険極まりないが、少しでも早く大きく距離を取らねばならないのだ。


「まあ明かりには困らねえけどな!」


 燃え盛る集落の火炎のお陰で視界は良好。


「アイツ、まだ気付いてないみたい」


「まあ、目的は船みたいだからな」


 モーターボートは炎上する集落の明かりからどんどん遠ざかっていく。ほどなく船も竜も拳ほどの大きさにしか見えなくなっていた。


「じゃあいくぞ!」


 カツミは満面の笑みを浮かべて無線機らしい装置を取り出した。


「いくぞ!3!2!1!」


 カツミが無線機スイッチを入れると、はるか後方の不審船から眩い閃光が走った。


『?!』


「総員退避ーー!!」


 遅れて爆風が背中を押す。


 この不審船には建造経緯から運用に至るまで極めて不審だったように、いざという時に船ごと証拠を隠滅させるための自爆用の高性能爆薬が大量に搭載。船はもちろん竜諸共に消し飛ばしてしまうほどの大爆発を起こしたのだ。


 その爆風がたちまちボートに追いつき追い越すが、全員伏せていたので、僅かにボートを加速させるだけで済んだ。


「よっし!」


「ざまあみやがれ!!」


 その光景はすでに沖合いに脱出していたマナたちや、迎えのためにクルーザーに乗っていたミキたちにも鮮明に見えていた。


「凄い!」


「お兄ちゃんは?!」


「お兄さんたちの脱出は確認してるから大丈夫!」


 その火柱は、さらに沖合いの船団ばかりか対岸の陸地からも確認できるほど凄まじかった。


「なんと凄まじい……」


 爆発は最初に自爆用の高性能爆薬の爆発によるものと、残っていた燃料に引火して発生した爆発の大きく二回発生。特に二度目は紅蓮の火柱を吹き上げ、天地を貫いたかに見えたほど。


「うひゃあ。船も竜も、派手に吹き飛んじゃった!!」


 やがて湾内に小さな水柱が多数上がる。粉々になった船体と頭目竜の破片が海面に落下してきたのだ。


「いくら自己再生できるからって、あれだけ派手に撒き散らされたんじゃあお仕舞いだな」


「ああ、そう願うよ……」


 その願いは叶っていた。この爆発で魔術師が魂を宿していた宝玉は竜の肉体諸共に跡形も無く四散してしまったため、この魔術師が再生する事はなく完全に絶命していたのだ。


 速度を緩め、一行は沖合いで合流する。


「お兄ちゃん!みんな!大丈夫?!」


「全員無事だ!」


 全員揃ってミキにサムズアップで返答。ミキからも喜ばしい報せが。


「幽霊船団は全部やっつけたよ」


「アクレイ島も見ての通りだ」


「じゃあ私たちの勝ちだね!」


「ああ!」


 煌々と燃え盛るアクレイ島を背に、サトルたちは勝鬨をあげる。


「じゃあ、今夜は一旦戻って!」


 かくして深夜に帰港した一行。


 港町は煌々と松明や明かりが燈されていて、まるで年越しのような熱気に満ちていた。深夜にも関わらず、町民たちや船乗りたちは総出でサトルたちを歓待してくれたのだ。


「こんな時間なのに凄いな!」


「無理もねえよ。これでみんな自由に海に出られるんだからな!」


 満面の笑みを浮かべるカツミ。その言葉の通り、海に生きる全ての者たちにとって、この作戦の成功は福音以外の何ものでも無いからだ。


 接岸して降りると、人々から一気に囲まれる。


『おお!早々とお帰りになられたぞ!!』


『姫様!摂政閣下万歳!!』


「後片付けはあるけど、今は素直に喜ぼう」


 こうして身体はすっかり疲れていたが、住民総出の歓待は夜明けまで続いたのだった。



 翌日。朝日が昇ると同時にイトナ海軍はアクレイ島に向い、あらためてアクレイ島の制圧を行った。


「こりゃ凄い……」


 サトル、カツミ、マドカ、ドリンは疲れと朝まで宴席に付き合い、朝から寝入っていたので、ナツキ、マナとハークらが上陸して状況を再確認していた。


 集落の火災は可燃物が完全に燃え尽きてしまったので鎮火済み。残っていたのは魔術師たちに亡き者にされた上に傀儡子にされていた多くの人々や獣たちの燃えて散乱した多数の亡骸ばかりだった。


 たんぱく質が焼けた独特の異臭が漂っているが、この世界では異世界人であるはずのマナが動揺する様子は無い。ただ静かにあちこちで手を合わせて冥福を祈っていた。


「現場検証と平行して遺体の埋葬をお願いします」


「承知しました」


 かくして上陸した部隊は残敵の掃討はゴブリンら最小限度の人員に留め、大多数は遺体の埋葬にあたったのだった。


「残念ながらアクレイ島の生存者は確認できず。現地で埋葬作業中です」


 昼前。マーマン族の急使の報告を聞いたミキは勝利の美酒に酔いしれた余韻覚めやらぬ一堂に向って、清らかな水を打つかのように凛とした声をあげた。


「みなさん!犠牲者に祈りを!!」


 ミキは立ち上がって島の方向に向って祈りを捧げる。周囲もそれに合わせて乱痴気騒ぎを止めてから黙祷を行うのだった。


「ともかくこれで漁業も貿易も安心してできるようになったわけだな」


 サトルは海の向こうを見ていた。


「そうだよお兄ちゃん。これでやっとみんな伸び伸びとできるんだよ!」


 満面の笑顔を見せるミキ。サトルもとびきりの笑顔で返す。


「ああ。今までの出費の回収なんて言わず、ミキたちを、このイトナのみんなをもっと豊かにしてやれる。いや、してやるさ!」


 決意を新たに右手を天に向けるサトル。異世界に姫君として転生してしまった妹のための奮闘は、まだ始まったばかりなのだ……。

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