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第8話 A-1 お兄ちゃんの不審船強奪作戦

 ノブゴブリンの巣を討伐してから約一ヶ月。サトルたちは修羅の国から持ち込んだ様々な銃火器や特殊装備を駆使して、イトナ王国内で跋扈していたノブゴブリンや徘徊する魔物たち、山賊などを少数のチームで次々と討伐していった。


 かくして国内の治安や物流は回復し、何とか国王夫妻消失前までの状況に戻っていた。


『摂政閣下直々に選ばれた精鋭は何と強い』


『正しく疾風迅雷だ』


 国内の混乱を沈静化させていくサトルの手腕に庶民からも賞賛の声が挙がる。だが、難題が一つ残っていた。


「海が問題だな……」


 陸路での交易は馬車程度しか使えないので細々としたものになるが、船なら一度に大量に安く運搬できるので、前近代ならなおのこと海路は重要である。


 しかし海路は依然として漆黒の悪霊団が支配しており、かつ具体的な打開策を見出す事ができないでいた。


「マーマンたちからの報告によりますと、沖合いのアクレイ島に魔術師らしい集団が拠点を構えて船団を操っているとのこと。船員は殺した海賊や漁師たちをゾンビにして操るため、反応は鈍いのですが倒すのが困難とのことでした」


 最初は数隻の船を従えていた魔術師たちは、漁港として栄えていたアクレイ島を制圧して住民たちを全員殺害して傀儡化。周辺海域を航行していた船を襲撃しては乗っ取り、勢力を拡大していたのだ。


「だから放置すればするだけ、敵は強大になるってことだ」


「早急に討伐しないと厄介ね」


「船を何とかしないとな……」


 しかし船の調達が困難なことは最初からわかっていた。


「イトナの船大工が作れるのはあまり大きくない木造の帆船が限度だ。これじゃあ決定的な優位は取れねえぞ」


 カツミは建造していた船を眺めながらぼやく。船についてはこの国に限った事ではなく、この一帯で建造可能な船は最大でも30m程度のオールと帆の併用船なので、機動性で相手に優位に立てないのだ。


「やっぱりエンジン付きの船が無いとキツいんじゃないかな?」


 マドカも同意する。しかしサトルの表情は厳しいまま。


「オレもそう思うよ。でも今の資金だと中古の漁船だって買えない。親父の知り合いから借りるにしても沈めるわけにはいかないからな……」


 確かに不要になった漁船などの動力を調達する事は可能だった。しかしエンジンやスクリューなどを装備する為の改装工事を行う技術は誰も持ち合わせていないのだ。


 ならばモーターボートや水上バイクを購入するのも手だが、一隻に積み込める武装は手持の武器が限度。少数が相手ならまだしも、漆黒の悪霊団が繰り出す大船団を相手にするのは無謀に過ぎた。


「お兄ちゃん!こういうときは悪い人から頂戴しようよ!」


 悩むサトルにミキはあっけらかんと前世世界からの窃盗を提案した。


「ああ。それも考えていたところだけど、船はなぁ……」


「お兄ちゃん。どうせ玄界灘には反社とか外国の悪い船がたくさんいるんでしょ?それならいけるんじゃない?」 


 その言葉に、その手があったかと手を打つサトル。


「確かにその手があるな」


「おう。それなら連中はどうせ大量に武器持ってるぜ。ついでに頂いちまおう」


 カツミも思い切り笑みを浮かべて同意。マナは呆れていたが、他に不安を浮かべる者も無かったので特に反対意見は出さなかった。


「よし、それじゃあ日本に戻ろう」


 こうしてサトルたちは日本に戻ってきた。


「それでお兄さん、当てはあるんですか?」


 マナの質問にカツミが笑って返事した。


「蛇の道は蛇さ」


「はあ……」


 何やらカツミには当てがあるらしい。


「なあ先輩、確か催眠術を使えたよな?」


「ええ。耐性が無ければ思うままよ。何ならサトルくんに試してみる?」


 この国、この地域一帯において魔術は上層階級の嗜みの一つという位置付けであった。習得には血統による影響が大きかった事と、上に立つ者には相応の実力が求められていたからだ。


 在野の魔法使いは人々の尊敬を集めていたし、上位の魔法使いともなると各国の王家から貴重な材料を贈呈されるなどの支援を受けたりしており、その対価として子女への教育や、相談役として意見を求められる事もあるほど。


 ナツキは領主の娘の嗜みとして、身の危険の回避に関する術の手ほどきを受けていた。サトルの母も領主の娘に転生していたので魔術を使うことができたというし、ミキは王族の生まれとなったので特に高度な教育を受けていたので、サトルとマナを召還する事ができたのだ。


「いや先輩、いつでも転がせるサトルよりもコイツに使って欲しいんですよ」


 カツミは笑いながら写真を示した。


「オレのチームの元メンバーで、反社に転んだバカがいたんで、そいつに少しお願いしますよ」


 カツミは先日、自分の没後に仲間たちの消息を調べた際に、反社会勢力に行ってしまった者を見つけていたのだ。


「じゃあやってみましょう」


 情報を得てコンビニに向ったナツキ。その男がコンビニで買い物をしていた際に擦れ違いざまに催眠を仕掛けた。


「そんなわけで情報を提供するよう暗示をかけておいたから。成功すれば公園にメモを置いてくれるはずよ」


 数日後。男は暗示の通りに手書きのメモを指定された公園の一角に残してくれていた。


「というわけで成功よ」


 ミキの召喚魔術が成功することからも不安は無かったが、ナツキの魔術もまたこちらでも十全に機能していたのだ。


「なるほど。明後日の夜に取引があるのか」


 かくしてサトルたちの船舶調達(奪取)作戦の決行日時が決まった。

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