第7話 ⑥ お兄ちゃんの平定作戦
静かに案内された部屋は、貴人用の部屋として作られていたらしくかなり広めに取ってあった。そしてその奥には明らかに人間の成人らしい頭骨などが、ひびの入った安物のガラス玉や何枚かの金貨銀貨と共に飾られていたのだ。
「ノブゴブリンは突入前にごらんになったように、普通の得物は食い尽くしたらそこらに捨て、人間は威嚇のために縄張りに晒すものですが、相手が強敵だったならは身内に誇示するために飾り立てするのです」
つまり以前にこの巣を掃討しようとして挑んだ冒険者が、武運拙く討ち取られてしまっていたという事なのだ。
「しかしこれだけの規模の群れにも関わらず、雌はともかく子の姿をほとんど見ませんでしたので、隠し部屋にでも潜んでいるのかもしれません」
地下深い大洞窟なら水溜りの奥に潜んでいるかもしれないが、ここは岩山の中腹に掘られた人工物である。周囲の小さな通路はすでに全て潰してあるので、残るは子ゴブリンしか通行できないような隙間が存在しているとしか考えられなかった。
「閣下、それらしい場所があるようです」
案の定、壁面に空いた大きな亀裂が奥に繋がっているらしいと分かった。しかし外に隙間らしい隙間もないので、この奥に大量に避難していると思われた。
「見てみよう」
棒に取り付けたサーモカメラは、その奥に小さな個体が多数潜んでいる事を示した。
「ほぼこの奥に入っているみたいだね」
ハークは姿勢を正して確認してきた。
「放置すれば後に禍根を残しかねません。処理して宜しいでしょうか?」
「わかった」
「了解しました閣下」
討伐隊は発見した隙間にバリケードに使われていた岩を詰め込み、こちらからの脱出口を塞ぐ。
サトルたちが全員外に出たところで事前の打ち合わせどおりに村人たちが大量の燃料を持ってやってきた。制圧したこの巣を完全に焼き払い、小さな巣穴を埋めるために呼びつけられていたのだ。
「足労であった。直ちに準備を!」
村人たちはここ数年、絶えずゴブリンたちの襲撃に怯え、家畜だけでなく子供や妻を攫われ、食われてしまっていた者も多くいた。彼らの目には強い復讐心と、安堵の色が浮かんでいる。
彼らによって通路から広間にかけて薪が運ばれ、広間に薪がうず高く積み上げられ、通路まで満たされたところで火をつける隙間をのこして封印される。この空間を炭焼きにするのだ。
「よし、火をつけろ!」
点火してしばらくすると岩山の隙間から濛々と黒煙が吹き上がる。これで中に潜んでいたとしても、完全に蒸し焼きにされるのだ。
その様子を見ながらサトルとマナは合掌。二人とも、終始ノブゴブリンを皆殺しにする事に懸念を示す事は無かった。
貴人の中には討伐する相手に哀れみを持ってしまい、厄介な害獣相手でも見逃す事があるのを知っていただけに、ハークはゴブリンを完全に皆殺しにする事に、サトルはもちろんマナさえ何ら反対しなかった事に軽く驚いていた。
「ミヤイリガイの事がありますからね」
「ミヤイリガイ?」
聞きなれない名前だったので思わず問い返してしまうハークにサトルは答えた。
「私たちの故郷で昔、死の病気をばら撒いていた小さな貝がいました。それを祖父母の代に根絶したことがあるんです」
「なるほど」
マナの祖父母は供養碑のある土地の出身らしく、その話を聞かされて育っていたという。
撤収を終えると火が放たれ、入り口は厳重に封鎖された。ゆっくりと火が回り、やがて一週間ほど燃え続けることになるであろう。
「閣下、本当にありがとうございます!これでこれからは連中に怯えずに暮らせます……」
坑内に潜んでいたノブゴブリンの子供たちは、異変を察して脱出しようと右往左往。しかし非力な子供の力では広間に届くどころか、塞がれた割れ目を破ることすら不可能。ほどなく酸素が全て焼き尽くされて窒息し、肉体は炭化するまで蒸し焼きにされるのだ。
「炭はもちろんですが、ゴブリンの黒焼きは薬の材料になりますからな」
あまりにも僅かではあったが、後日回収されたゴブリンの黒焼きはこれまで略奪にさらされていた村の手当ての一部となったのだった。
ともあれこの一帯を苦しめていたゴブリンの掃討作戦は無事に終了した。
その後、ナツキから専門家による調査が必要との進言を受けて王家直属の魔術団が現場確認を行った。
「これは……」
ミキたちに報告がなされる。城塞の入り口を封鎖していた巨石に開けられていたゴブリン用の穴の跡を確認したが、その穴は熱によって削岩された痕跡が残っていたというのだ。
「つまり、何者かが巨石の封印を解いて、意図的にノブゴブリンが営巣できるようにしてあったというのですね」
「はい。この手口から見て、先の騒乱を引き起こした黒曜の魔術団の残党による犯行かと」
『黒曜の魔術団?!』
一同の驚きの言葉。その集団について知識があったのはナツキぐらいだった。
「黒曜の魔術団はイトナだけでなく周辺一帯で暗躍している、禁忌に手を染めた魔術師たちなの。本拠地は魔獣の門の向こうにあると言われていて、賞金も掛けられているんだけど、詳しい実態は未だ不明なのよ」
それを聞いてカツミが憶測を口にする。
「もしかすると、幽霊船団も連中じゃねえのか?」
「調査中ですが有り得る事ですな」
重臣たちも同意。しかし相手がそうだとしても、拠点も分からない以上は打つ手は限られていた。
「ともかく、災いは一つ一つ潰していこう」
サトルの発言に一同は同意。かくしてサトルたちはそれから一ヶ月を費やして、国内の治安を乱すノブゴブリンや山賊、オークなどを手分けして討伐し続けたのだった。




