第7話 ⑤ お兄ちゃんの平定作戦
「前進停止!」
先頭の者たちが通路から広間に出ようとしているのを察したハークは、彼らの前進を停止させた。
「何か?」
「思ったより抵抗が弱い。おそらくこの先で待ち受けているかと」
ベテランのハークは注意を怠っていなかった。広間に隠れてやり過ごして逃げようとするものや、背後から逆襲しようとするものがいることを経験で知っていたからだ。
「確認しよう」
サトルは小型のサーモグラフィーカメラを棒の先に取り付けて突き出し、奥の広間の上を確認した。
「正面には反応は無いけど……」
今度はカメラを上に向ける。
「うん。ハークの読み通りみたいだよ」
携帯端末には壁面にへばりつく大量の熱源が映っていた。
「踏み込めば天井から襲われるというわけか……」
「私がやります」
踏み出してきたのはマナだった。
「貴女が?」
驚くハーク。こちらですでに武名を響かせていたマドカや、カツミやナツキではなく、物静かにしていた彼女が言い出したことに驚いていたのだ。
「わかったよマナちゃん。まかせるよ」
しかしサトルは特に反対する様子も無く許可。
「ありがとうございますお兄さん」
マナはスタングレネードを手慣れた様子で投げ込む。一行は事前に耳栓をして閃光にそなえてサトルたちは遮光ゴーグルを装着。他の隊員は目を隠したりして炸裂に耐えた。
「ギェェェッ!」
落下してきたのはゴブリンたち。壁面に張り付いていたが、強烈な閃光と爆音に目と耳を潰されてしまったのだ。
「いきます!」
マナは落下してきたゴブリンたちに躊躇なく短機関銃をフルオートで浴びせる。銃撃は的確に目標に命中しており、落下の衝撃と銃撃を浴びたゴブリンたちは瞬く間に絶命するか身動きできなくなっていた。
「仕留めるぞ!!」
ハークたちはマナの掃射が終わった直後に飛び込む。地面に転がってもがき呻くゴブリンたちの心臓に剣を突き立て、あるいは首を刎ねて確実に息の根を止めていった。
「しかしマナさまはこういった場に慣れておられるのですな」
「いえ。別にそういうわけでは……」
謙遜するマナだったがハークは感心と驚きの念を抱かずにはいられないようだった。
「ご謙遜を。至って冷静にご対処されますから」
(我が国に限らずこういった場に慣れた女はそうそういないものだが。それだけ閣下たちの故郷はこの地よりも荒れているという事か……)
異世界から召還された異邦人二人は、多彩な種族や魔物の存在に驚きこそすれ、戦闘そのものには一切躊躇なく冷静に捌いていく。
そのため、ハークだけでなく他の者たちも皆、二人が来た異世界では人間同士が互いに熾烈に闘争を続ける修羅の土地だと認識するようになっていたのだ。
「この奥が本丸みたいだな」
戸が朽ちてしまったためか開放されているらしい部屋の入り口には岩などが積み上げられてバリケードになっていた。
「閣下、例の玉をお渡し頂けませんか?」
カークから手榴弾を所望されたので、下げていたものを一つ渡す。
「全員下がれ!」
流石に眼前で威力と効果を見せ付けられていたので、部下たちも下がらせて手榴弾のピンを抜き、バリケードの奥に投げ込むハーク。やがて密閉空間に衝撃と轟音、そして煙が充満する。
「よし、突入しろ!」
ゴーグルと粉塵避けのマスクを装着した兵たちが、片手剣とバックラーを構えてバリケードの先に突入していく。手榴弾の炸裂で飛び散った破片で最後の部屋に篭っていたゴブリンの大半はすでに死傷しており、抵抗も僅かだったようだが。
「しまった!」
「逃げたぞ!!」
最深部の部屋から、ゴブリンにしては大きな影が飛び出してきて、真っ直ぐこちらに突っ込んできた。隙を突いて逃げようというのだろうか。
「任せろ!!」
影が向う先にはサトルたちが。だがサトルはすでに刀に手を掛けていた。
「イヤァ!」
サトルが横一文字に刀で居合い切りすると、大きな影は二つに分かれて転がった。
「さっすがサトルくん!」
「やるじゃねえか」
マドカはボスゴブリンの首を刎ね、カツミは額に銃撃を叩き込んでトドメを射す。
「マナちゃんはケガは無いね?」
「はい。大丈夫ですお兄さん」
マナを気遣うサトルにマナは笑顔を浮かべて返事する。
「お見事!」
身長1メートル程度の野生ゴブリンの中では特に大きい1.4メートルほどのボスゴブリンだった。だが、そのボスゴブリンをサトルは得意の居合いで一刀の下に切り捨てていたのだ。
ハークだけでなく手柄争いしていた者たちも、見事に上下に両断されていたボスゴブリンの死骸を見て感嘆の声を漏らしていた。
「馬鹿者ども!閣下の手を煩わせて何とする!!」
突入した者たちを一喝するハーク。
「で、何かあったのか?」
「これが……」




