第7話 ③ お兄ちゃんの平定作戦
やがて一行は森の奥の岩山が見える場所まで来た。付近の木は乱雑に引き倒されており、ここから先が自分たちの縄張りであることを、全ての生き物に向って誇示していた。
一行が到着すると、巣からはギィギィと威嚇のうなり声と歯軋りの音が聞こえてくる。その音の発生源はあまりに多く、周囲の野鳥や小動物たちは恐れをなして逃げ出していく。
「この音量から察するに、雄がざっと百以上というところでしょうか」
襲撃者が極少数なら先制攻撃を仕掛けてくるというが、相手が目に見えて屈強だったり大人数だった場合は巣に篭って防戦するのがこの地のゴブリンの習性である。
後から来た斥候がこちらの総数を確認していたようで、こちらの数の少なさを見て打って出てきたようだ。
「最初から大勢出てきてくれたか」
サトルは淡々とした反応。
「幸先いいじゃねえか」
不敵な笑顔を浮かべるカツミ。
「よし、前進開始!」
ハークの指揮の下、大きな盾を持った十人ほどの部隊が前進を開始すると、ゴブリンたちが投石を開始した。あちこちから小さいものはピンポン玉ほど、大きいものは野球ボールほどの石のつぶてが雨のように降り注いでくる。
「構うな!前進しろ!!」
ゆっくりと前進するが、敵は増える一方。とにかくあちこちから大量に沸いてきたのだ。
「よし、後退しろ!!」
激しい抵抗を受けた部隊は前進をやめて後退を開始。ゆっくりと身を引き、やがて走って逃げ出すと、それを見たゴブリンたちは歓声をあげて一斉に追撃をかけてきた。
「よし!この線の後ろに早く!!」
サトルが事前に地面に引いた線の後ろに入ると兵たちは踵を返す。線の後ろにはサトルたちが機材の組み立てと設置を終えていた。
「やっほー!きたきた!」
マドカは敵の大群を前に余裕の表情。
「そろそろ始めるぞ!」
『了解!』
腹ばいになって黒々とした鉄の筒の機械を構えているのはカツミとナツキ、そしてマナ。
「よし、攻撃開始!!」
三人がミニミ軽機関銃の引き金を引くと、それぞれの銃口から毎分700発以上の速度で5.56x45mmNATO弾が吐き出された。
『!!』
巣から飛び出してきた上に、周囲の木々を切り倒していたゴブリンたちに情け容赦なく銃火が浴びせられる。火縄銃さえ存在していないこの世界に突如出現した機械文明の暴力を前に、ゴブリンたちは次々と血肉の塊になって大地に転がっていった。
「こいつは凄いな……」
雷鳴のような音が鳴り響く中、ハークもまた絶句していた。百以上出てきたゴブリンたちが瞬く間に壊滅してしまったのだから無理もない。
「これが機関銃っていうこの武器の威力だよ。人間でも鎧ごと二、三人まとめて撃ち抜く威力の金属の弾を一秒で11発、一分間で700発以上撃ち込むんだ。よほど分厚い鉄板か魔術防護つき、あとそれぐらいの強度の皮膚じゃないと防げるものじゃない」
一分ほどで射撃は中断。無傷や軽傷だったゴブリンは何とか巣穴になんとか逃げ延びていたが、大半のゴブリンはすでに絶命するか致命傷を負って、辺り一面に無造作に散らばっていた。
「なるほど。こいつに突っ込むのは間違いなく自殺行為ですな」
「ああ。それが分からずに大勢死んだからね」
機関銃が大々的に持ち出されてからの戦争が、人員の大量消費になったことは歴史を勉強すれば知ることである。
再度、投石を防ぐ為に一畳ほどの大きさの盾を持った巨躯の兵たちが壁になり、一行はゆっくり前進していく。古代ローマ軍の歩兵戦術のテストゥドのように正面と上に掲げた大きな盾を密着させて飛び道具を防ぐのだ。
「じゃあはじめよう」
まず手始めに登り口の付近にあった穴に向ってサトルは炎を水のように流し込んでいく。
「これはすごい!!」
サトルが持ち込んだのは火炎放射器だった。
北区のホームセンターで販売されている芝焼き機は燃料を長く飛ばす事はできない仕様になっているのだが、ホースとノズルを強化された正規部品と交換し、燃料のガソリンにナパーム剤を添加。それをボンベを装着して完全な火炎放射器に改修したのだ。
火炎放射器を持ち込んだのは、洞窟の規模を問わずに掃討ができるからだ。
小さな洞窟であれば、奥底まで炎を注入して焼き払う事が可能。深い洞窟であっても炎を流し込めば中の酸素を一気に消費して酸欠状態に追いやる事ができるので、直接相手を焼く事ができなくても命を奪うことができるのだ。
ゴーゴーと音を立てて炎を流し込むと、奥から炎を払い除けてかすかに悲鳴らしい声が聞こえてくる。しかし連中は村を襲撃し女子供を餌食にした上に、その遺体を意図的に野に晒しているのだから情けなど無用である。巣穴の奥で絶命させて土に還すほかにないのだ。
「仕上げ……だ!」
今度はピンを抜いて手榴弾を穴に投げ込む。奥に転がったところで炸裂し、爆風が入り口から噴出してきた。
手榴弾も北区では花火の一種として比較的容易に入手できる道具である。今回は巣穴の数を考えて6ダースほどを昔なじみの玩具店“おもちゃコロシアム エンジェル”から調達していた。
「多分これでこの穴は大丈夫だと思う」
火炎放射器で洞窟を焼き払い、手榴弾を投げ込んでトドメを刺す。サトルはノブゴブリン討伐のために、米軍が旧日本軍の立て篭もる洞窟の掃討で編み出したトーチランプ&栓抜き戦法を用いたのだ。




