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第7話 ① お兄ちゃんの平定作戦

 ミキが前世世界から帰還して真っ先に行ったのは、父母の帰還を祈る儀式であった。


「これは前世においてお父様たちが常に指にしていた指輪です」


 それはこの世界では未だ見つかっていないプラチナ製の結婚指輪であった。さらに母が愛用していた大粒真珠のネックレスを見せると、家臣たちからどよめきの声が挙がった。


「さすが両陛下。前世にあられてもご夫婦だったばかりか、高貴な家にお生まれであったか……」


 この世界において、真珠はとてつもない貴重品であった。何せ真珠を産出する貝自体が希少な上に、形はいびつであるのが当たり前。しかしミキが前世世界から持ち帰ってきたネックレスの大粒真珠はサイズは完全な球形であり、それも驚くほど大粒だったからだ。


「あとこれはお父様のトロフィーです」


 それはダイキがクロスカントリーの大会で優勝した際に貰ったクリスタルトロフィーオーナメントであった。美麗に加工されているだけでなく、レーザー加工でクリスタル内部に立体的に彫刻と文字が刻まれている品で、この世界では魔術師であってもとても製造できないようなシロモノであった。


「これは水晶の中にレーザー光線、つまり鉄でも焼き切る光で彫刻と文字が刻まれているんだ」


 サトルの説明に誰もが仰天した。


「光を用いて彫刻……。正に神の御技だ」


「これぞ正に王者の資格!」


 こうしてダイキのトロフィーは国宝にしてイトナの王位の証として玉座の後ろに飾られることに。


 ともあれミキがイトナに持ち込んだ自身と父母の形見はそのどれもがこの世界では作り出せない品だったこともあり、疑いなく受け入れられたばかりか王権を高めるものとして丁重に扱われる事になったのだった。


 同じ頃、サトルは医師や技術者たちを集めていた。まず医師たちに開陳されたのは図面や写真が多く掲載された数々の書籍やその写しであった。


「これはオレが持ち出せた医学の書物だ」


 集められた医者たちに示されたのはフルカラーの身体の解剖図などが掲載された医学書だった。それを見た医師たちは驚きの声を隠せない。想像通りこれまでここには正確な解剖図そのものが存在していなかったのだ。


「もしかしたら違いがあるのかもしれないが、同じ人間だから大差は無いと思う」


 さらにサトルが見せたのは聴診器と水銀式の血圧測定器などだった。


「この聴診器は体に当てて患者の体の音を聞く道具だ。こっちは血圧測定器で……」


 専門家ではないと前置きした上で実際に操作法を教えて扱わせてみると、医師たちから今度も驚嘆の声が漏れた。これまでは直接手で触って診察するしか方法がなかったからだ。


 医師たちへの提供が終わると、サトルは土木技師たちにも資料を提供した。特に治水を推進していた技術者たちには自宅で試しに作ってみた人造石を材料と共に見せた。


「この砂に石灰を混ぜて作ったのがこの人造石なんだ。水に強くて頑丈に、それも自在な形で作れるんだが、似たような砂はこの国で手に入るかな?」


 それを見た技師の一人が答えた。


「この砂は我が国の西方で大量に手に入りますし、石灰も近郊で容易に手に入れることができます」


 真砂土は花崗岩が風化したものである。花崗岩の形成には水の関与が必要で、この世界にも大量の水、即ち海の存在するので、マナが想像していたように花崗岩も、それが風化してできた真砂土も大量に存在していたのだ。


「でしたらこの加工が自在な人造石も大量に作ることができますね」


 サトルはそこで人造石を用いた日本の建築物の写真を見せた。大半が修羅の国から遠い愛知県などの中京地区にあったのでネットでみつけた写真ばかりだったが、石と石の間に分厚く盛ることで隙間を埋めて水を浸透させない作りは読み取る事ができ、また出来て百年以上持ち応えていることを教えると、さらに期待の声が挙がった。


「いきなり最先端は不可能ですが、少しずつ技術を向上させていきたいと思っています」 


「私が読み上げ、書記たちに筆記させて翻訳しますから、大いに役立てて下さい」


 ナツキが主に翻訳を請け負うと聞いて、集まった者たちは大いに歓喜。


 このイトナはダイキが建国して十数年しか経っていない国であり、宗教の力より世俗権力が優越していた。さらにダイキもミサも前世の記憶がかなり鮮明に残っていた事もあって、よほどの内容でない限りは学問や技術の開発・研究を自由に行わせ、かつ保護・補助も行っていたので、小国にも拘らず多くの知識人や技術者たちが集っていたのだ。


 しかしこれで一気に国力が充実できるわけではない。課題は数多いが、特に真っ先に解決しなければならない問題があった。


「まず、治安の回復しなきゃだよね」


 マドカの指摘はそこだった。首都近郊さえ大規模なノブゴブリンの集団が跋扈し、悪質な山賊や魔物の出没も報告が相次ぎ、何より海の交易路は閉ざされているのだ。


「ああ。魔獣の門は国軍に任せるしかないけど、国内の治安は少数で一気に片付けないと」

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