第6話 ⑤ 帰ってきた者たち
次の日はドリルランドで半日遊ぶ事に。地方の遊園地なので、平日は待ち時間ほとんど無しで各種の遊具を楽しむ事ができる。
「やっぱり平日だとヒーローショーやってないよね……」
残念がるマドカ。
「隣の光の巨人ランドも展示ぐらいかな」
「うん!それでもいいよ!後で行こう!」
国民的巨大特撮ヒーローの展示とショー中心の遊園地も隣接されているので大はしゃぎのマドカ。
「でもこれで時間潰していいんでしょうか?」
率直な疑問を口にするマナ。
「せっかく前世に、それも技術が未発達の世界から戻ってきたんだ。これぐらいいいさ」
バニラ味のソフトクリームを食べながら返事するサトル。イトナでは甘味はハチミツが精々でサトウキビやサトウダイコンに相当する作物は無く、砂糖の甘味を味わう事はできなかったのを思い出す。
「砂糖ひとつ取っても、糖分が取り出せる植物を見つけるところからはじめないといけないし、見つかっても栽培できるか、栽培できたら品種改良していかなきゃいけない」
「地球の作物がそもそも持ち込めるかわからないし、できたとしても土に合うかどうか、病害虫はどうなのかわからないですもの」
抹茶ソフトを食べているのはナツキ。
「転移できるのは命が無いものか、転移できる特定の命だけってお師匠さまからは言われてるの。だから、作物とか動物とかはたぶんダメだと思う」
イチゴ味のソフトを食べているのはミキ。
「なるほど。だったら行き来しても病気持ち込む心配はいらねえってことか」
チョコ味を食べているのはカツミ。
「その代わり、作物や家畜を持ち込んで生産性をあげたりはできないってことですね」
イチゴとバニラのミックスを食べているのはマナ。
「だから農業は劇的に改善とはいかないってわけだ。農業用水関係と肥料関係、あとは品種改良を地道にやっていくしかないだろうな」
こうしてサトルたちは農業に関して作物の持ち込みは断念した。随分と遠回りになるが、こればかりは仕方がないのだ。
その後、光の巨人ランドでマドカを遊ばせて、ドリルランド一帯から撤収。イトナには全く存在していない遊園地のアトラクションを堪能した一行は昼食に向った。
昼食には薪のうどんを選ぶ。麺にコシが無く、とにかく出汁を良く吸うので食べても食べても減らないのが特徴で、他にも“かしわめし”が絶品と評判の修羅の国のローカルチェーン店の一つである。
他にも北部の一大勢力である“助さんうどん”や、全域に安定して出展している“イースト”など、修羅の国はラーメンが全国的には有名だが、地元的にはうどんの方が店が多いのが特徴である。
ともあれ座敷でうどんをすすりながら午後の予定を確認する。
「予定通り、北区に戻ってから買出しをしようと思う」
『異議なし』
「使えそうな技術書なんかは、一度帰ってから目星をつけて、それから本格的に探しましょう」
「ですね」
「おいおい、ネットで調べれば一発じゃないのかよ?」
カツミの疑問にサトルが力なく返事する。
「まだそこまでネットは便利じゃないんだ。ネットで検索した情報には詳しい事まで書いて無いのが殆どなんだよ……」
サトルは昨夜に携帯端末から気になった情報をいくつか検索してみたが、概略は掲載されていたが、肝心の材料の配合や、詳細な図面などについては具体的なものを見つけることができなかったのだ。
ネット上に存在している情報、特に専門的なものは、タイトルと概略が分かる程度の情報しか無いのがほとんど。手に入れようとしても電子化されているのは稀で、殆どの場合は新品古本問わず現物を購入するか、図書館を探すしかないのだ。
「なるほどなぁ。異世界に携帯端末持ち込んでも、いきなり何でもできるって訳にはいかねえってか」
「そういうことなんだ」
さらに実際に作る時には事前に専門家を招聘しておかない限り、書かれている通りにできるわけではなく、些細な材料の違いで仕上がりが大きく異なることになる。
現地の地道な技術開発のみよりは劇的に進歩するのは間違いないが、それでも数百年、ものによっては千年もの格差を瞬時に埋めることなどできるわけがないのだ。
「とりあえずはイトナで用意できる材料と人員でできる事を優先して、開発とかはおいおいやっていくことになるだろうな」
「そうだよね。今のイトナでいきなり車を作ったりなんてできないもんね」
「だからまずは手がつけられるところからやっていこう」
こうして社会見学を終えた一行は、北区に戻って買出しを開始した。




