第6話 ③ 帰ってきた者たち
具材があらかた消費されたので、卵と白米が飛び込みおじやに変わる。大量の鳥の出汁を含んだ米の美味さを知らないのは、幼すぎて記憶が乏しいマドカと、犬だったので食べたことが無いドリンぐらいである。
『ん、まぁ~い!』
全員で茶碗一杯分を分けて食べるが、あっという間に空になってしまった。
『ごちそうさまでした!』
食後に緑茶と、お茶請けに通りもん、ひよ子饅頭、千鳥饅頭、筑紫もち、博多ぶらぶらなどの地元銘菓が並ぶ。
「人数分買って来たから」
これも懐かしそうに皆で食べる。
「んでサトルよぉ、明日からどうする?」
「ああ。みんなで二泊三日の旅行しようと思う」
その発言に全員の顔がさらに明るくなった。
「今はシーズンオフだし平日だからネットで明日の分も大丈夫みたいだから」
「わーい外出だワン!」
大喜びするドリン。
「ひっさびさに遊園地行きたいな!」
遠い目をするサトル。目的は違うのだが、話はしばらくそちらに引っ張られてしまう。
「そういや宇宙ランドはどうなった?」
「二年前に閉園したよ」
「あ」
「やっぱり」
「ええ~~!!」
マドカのみ反応が違っていた。
「そっか、マドカは賑わっていた頃しか知らないからな」
「なるほど」
「じゃ、じゃあ利口ランドは?」
近隣の温泉施設でウォータースライダーなどもあったのだが。
「十年以上前に力尽きてるよ」
現在はスーパー銭湯系に変わってしまっていた。
「愛の浦は?」
「そっちも」
こちらは海沿いのテーマパークだったのだが、マドカが没してからほどなく経営不振で閉園になっており、今は猪たちが泥浴びする廃墟と化していた。
「県外ならドリルワールドがあるぞ」
「わーい!だったら行こうよ!」
「あの、遊びに帰ってきたわけじゃ……」
マナは思い切り溜息をつく。
「じゃあ何のために旅行に行くんだ?」
カツミの疑問にナツキが察して答えた。
「イトナの発展の為のヒントを探しに行くのよね?」
さすが才女だと全員が感心した。
「ええ。主に歴史的な史跡を中心に見てまわろうと思ってます」
「そっか!社会見学するんだ!」
なるほどと手を打つミキ。
「そういうこと。いきなりイトナを今の日本みたいにできるわけじゃないけど、少しずつ改善していくならヒントや手本は昔の人から勉強するのが一番だと思う。特に昔の人が人力で作った施設は参考になると思うんだ」
うんうんと頷く一同。いきなり建設用の重機を持ち込んで運用できるわけはないので、まず参考にすべきは近代的な機械に頼らずに建設された建造物や用水路や堤防である。
「まあ、折角だからドリルランドには行こう」
『よっしゃぁ!』
かくして翌朝から全員で旅行に出ることが決まった。
食後。サトルは全員を連れてアビロスというモールに向った。日中にミキが家族の服を広げて使える服の確認を行い、取り急ぎの着替えを行っていた。しかし着られさえすれば良いというマドカ、カツミ、ドリンにはサトルの男物ぐらいしか使えず、ミキとナツキはどうせなら新調したいと希望が出たので買い出しに向ったのだ。
「本当なら天神で買い物したかったけど……」
「この時間ですもの。それに服の買出しはあくまで視察の為に必要なだけですから」
すでに時刻は20時を過ぎており、モールでなければディスカウント店しか選択肢が無い。しかしディスカウント店の品揃えは若者向けではないので、消去法でモール内の専門店が選ばれたのだ。
「ん~。ボクは別に安くてもいいんだけど」
「オレも別に作業服系でいいんだがなぁ」
「わんわん」
気乗りしていない三人だったが、ミキはそうはいかないと言う。
「あんまり酷い格好しかしないんだったら一緒に外に出るの恥ずかしいもの。だったら留守番してもらうから!もちろん一歩も家から出ちゃダメ!」
「そうよ。姫様の護衛なんだから、相応の格好しなきゃ」
『は~い』
かくして閉店時間ギリギリまで品定めに。最終的にマナまで含めて一人三着以上購入する事に。
「結構買ったな……」
「お兄ちゃん、こんな事もあろうかと金貨はしっかり持ってきたから!」
そういうとニコニコ笑顔でがま口の財布からイトナの金貨を見せるミキ。転移の前にあらかじめ軍資金として金貨や延べ棒をしっかり持ってきていた。
転移前にミキの分の遺産金を取り崩すと話をしていたのだが、ミキはそれはすでに兄のものだし、なによりイトナのためなのだから転生した自分が出すのが当然だと言って聞かなかったのだ。
「ああ。素直に助かるよ」
こうして大量の荷物を抱えて一行は車に乗り込む。帰りに風呂の都合でスーパー銭湯に立ち寄ってから、優雅に帰宅の徒についた。
「さて、寝る前に部屋割りだな!」
湯上りの乙女たちの芳しい香りで充満する帰りの車中でのカツミの宣言に、サトル以外は皆頷いていた。
「ミキ姫さまは当然自室として、他よね……」
サトルの家で就寝できる場所はリビングと和室。二階はサトルとミキの個室と父母の寝室と書斎。クローゼット部屋に物置スペースという状況だった。
「なあ、めんどくさいから姫さまとマナちゃん以外は部屋固定無しにして、サトル、お前がダブルベッドの寝室に移れよ。そんでサトルが指名するか、順番決めて毎晩誰かがサトルと寝れば一人分部屋が浮くだろ」
『』
自信満々のカツミの提案に、サトルとミキとマナが唖然として言葉を失い、ナツキはその手があったかという顔になり、マドカとドリンは大喜びしていた。
「なあに、サトルみたいな野郎はな、一度でも徹底的に迫って理性吹っ飛ばしてやったら、もう躊躇なくなっちまうもんなんだよ。オレの前世がそうだったみたいにな」
小学校に上がる前に死んでしまったマドカならともかく、17まで男として生きてきたカツミの言葉だけに絶大な説得力があったので、皆は大きく頷いていた。
「まあ、サトルの意思はともかく、姫さまとマナちゃん次第だな」
「だよね」
運転のために車外の現実に集中しているサトル以外の全員の目がミキの方に向けられた。そして、ミキが絶叫した。
「あ、あの家は、わ、私の(元)家だから、そんな風に使わないで!!」
ここでミキは現代日本での常識的な事を発言。ここは北区と言えど日本の、何より彼女が生まれ育った自宅なのだ。後宮では無いのだ。
「それじゃあ部屋割りはくじ引きで決めましょう」
こうしてナツキの真っ当な提案が採用される事に。
「あ、マナちゃん、今夜は私の部屋でいい?」
「ほ、本当にいいの?!」
飛び上がって喜ぶマナ。昔泊まりに来ていた時のように、同じ部屋で二人で眠れる事に喜びを隠し切れなかったのだ。
「他の人たちはくじ引きで決めてね。それとお兄ちゃんへのお手付き禁止!お兄ちゃんも手を出しちゃダメだからね!」
「ああ、もちろんだ」
『ちぇっ』
安堵するサトルと残念がるカツミとマドカ。
「ドリンは久しぶりに小屋がいいワン!」
前世が犬だったドリンは食事のみならず生活まで前世に返りたがっていたのだが……。
「ドリン、今のお前の体じゃ外の小屋は入れないし、何よりその体で外で寝ちゃダメだ。せめて家の中で寝てくれ」
流石にたしなめるサトル。近所の人に女性が外の犬小屋で寝ているのを見られたら、いくら北区でも通報モノである。
「じゃあミキさまの隣はマナだから、サトルさまの部屋で一緒に寝るワン!」
「ドリン、それはダメ!リビングで寝ていいから!」
ドリンはもふもふとした犬耳に尻尾が生えている以外は、立派な乙女の肉体になっているのだ。さすがのミキもかつてのようにサトルと一緒の部屋に寝せるわけにはいかなかった。
かくして部屋がくじ引きで確定。父母の部屋はマナ、書斎はナツキ、クローゼット部屋がカツミ、和室がマドカと決まったのだった。




