第6話 ② 帰ってきた者たち
その夜。サトルの自宅のリビングのテーブル中央に大きな鍋が鎮座していた。
『いただきます!』
この日の夕食は鳥の水炊き。“折角前世の故郷に帰ってきたのだから食べたい”という転生組の一致した要望に応えたのだ。なおこの巨大な鍋は父ダイキが大食漢だったために使われていたものである。
『ハフッ!ハフッ!!』
マドカとカツミは熱いのを強引に掻き込んでいるが、それをドリン以外は呆れて見ていた。
「貴方たち、もう少しこう……」
「悪い悪い!どうしても堪えきれなくてよ!」
「食べれる時に食べないと、次がどうなるかなんてわかんないし!」
海賊のカツミはともかく、騎士としてキチンとした教育を受けてきたはずのマドカまでマナー破りしていたが、サトルは仕方ないと言った。
「まあ、こっちはこっちだ」
購入した食材は家族四人揃っていた時とほぼ同等。いくらカツミが一般的な成人男性以上に食うといってもダイキのそれの六割に過ぎず、マドカは勢いこそあれカツミには及ばず。他は量が知れていたのでそれで十分だった。
「ドッグフード、久しぶりで美味しいわん!」
ドリンは床にしゃがんで昔の愛用の器に盛られたお気に入りのドッグフードを貪っていた。
「久しぶりにゑぞゑに行ったらさ、久しぶりですねって、すぐ出してもらったよ」
“ゑぞゑ”とはこの付近のペットショップで、鯉や金魚に熱帯魚などの魚類が扱いの主体だが、犬猫などの餌なども扱っている馴染みの店だ。一時は佐賀にあった本店がディスカウントにも手を出していたが地場大手に押されて失敗。結局ペットショップに特化していた福岡北区店のみが生き延びていたのだ。
「ゑぞゑのおじさん、お兄ちゃんの事おぼえててくれたんだね……」
納得して微笑むミキ。
「買出しに行ってる間、特に変わったことは?」
「うん。お隣のキミドリおばさんにばったり会ったから挨拶したよ」
ミキの言葉に思い切り噴出すサトルとマナ。
久しぶりに部屋にあった自分の服を来て玄関から出て郵便物を確認しに行ったところを、お隣のキミドリさんに見つかってしまったというのだ。
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「あら、もしかしてミキちゃん?」
「あ、はい!お、お久しぶりですキミドリおばさん!」
そこで別人だと言いつくろわず、つい昔の勢いで挨拶してしまったミキ。
「あら、でもミキちゃんは事故で亡くなったんじゃ……」
近隣住民は一家の葬儀にも出席してくれていたので当然の反応である。
「じ、実は……その……、い、生き返れたんです!」
「まあすごい!」
開き直ったミキは、父ダイキが知り合いの蘇生実験に首を突っ込んでいて、ミキも登録されていたと出任せを口にしたという。
「じゃあミキちゃんの髪とか瞳の色が変わっちゃったのも、もしかしてその副作用とかなの?」
「は、はい。そんなところです。私が先に成功したんで……」
それだけ聞くと、うんうんとキミドリは納得したように頷く。
「それじゃあダイキくんたちも帰ってこれるかもしれないって事なのね」
「あ、はい……」
キミドリは昔からミキに向けてくれていた笑顔を見せる。
「わかったわ。あんまり騒がれないように少し大人しくしてるのよ。だってもし保険屋にバレたら、サトルくんにお金返せってことになるかもしれないでしょ?」
「は、はぁ……」
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そんな次第で、近隣住民にはミキが帰ってきた事は初日で知られてしまったようだが、大した事態にはならなかったというのだ。
「そりゃそうだろ。北区の住民なんて、地区にもよるが元々どこで何して流れ着いたかわかんねえ連中が沢山いるんだ。死人が生き返ったぐらい、行方不明が気が付いたら帰ってきたぐらいの反応にしかならねえだろ」
カツミの言葉にナツキが大きく頷く。
「じゃあ他のみんなはどうする?」
『別に』
マドカはともかくナツキさえ特に気にしないという。
「だってこっちのお父さんとお母さん、もうずっと昔に引越ししちゃってどうなったか分からないんでしょ?それにもう十何年も経ってるんだよ。ボクは女の子に生まれ変わっちゃったし、いきなり生まれ変わりましたって出てきても、絶対二人とも困っちゃうよ」
マドカにとっての親はもはや転生後の方を強く認識しており、前世の方にはもう関心が無いという。
「私は前世の時からおばあちゃんしか残ってなかったし、そのおばあちゃんももう亡くなって聞いたから、お墓があったら一度お参りするぐらいよ」
ナツキの肉親はすでに祖母のみだったのだが、ナツキが事故死してから程なくこの世を去ってしまっていた。サトルはそれを知っていたので、ナツキと出会った日の夕餉にはその事を告げていたのだ。
「オレはくたばる前から親父もお袋も蒸発して居なかったから気にもならねえよ」
カツミの家庭環境は酷く崩壊していたというので調べる気にもならないという。
鳥の肉団子を口に放り込むカツミ。気になるとすれば肉親でなくかつての仲間なのだという。
「ま、ツレの事は調べておきたいけどな。まあどうせどいつもこいつもロクなことになってねえだろうけどよ」




