第6話 ① 帰ってきた者たち
イトナの祭壇場から転移の魔術を行い閃光に包まれた一行。やがて光が収まり、周囲の様子がゆっくりと見えてきた。
「……。どうやら成功したみたいだな」
気が付くと一行は車に乗ったまま埠頭の外れに。カーナビやレーダー、携帯通信端末の情報が一気に更新され、日時はほぼ同時間経過していたことが示されていた。
『いよっしゃぁ!!』
一同は車内で歓声をあげタッチを繰り返す。さっそく車から降りて空気を吸うと、あまりに懐かしい玄界灘の潮の香りが肺に一杯充填された。
「本当に……。本当に帰って来れたんだ……」
思わず涙しているマナとミキ。
「そういえばこんな空気だったわね……」
「いやぁ~懐かしいなぁ!」
「あ~~!思いだした思いだした!」
ナツキはしみじみと感じ入っており、カツミはカラカラと笑い、マドカとドリンは無邪気にはしゃいでいた。
「よし。みんな、悪いけどまずは俺の家に戻るぞ」
サトルの発言に対して、各人から反論はなかった。
「異議はないわ。どのみち他に拠点になるような場所なんて無いわけだし」
「ああ。今のオレたちが気兼ねなくタダで寝泊りできる場所は、サトルん家しかねえからな」
こうして一行は満場一致でサトルの自宅に向うことに。
「他のみんなはともかく、ミキはできるだけ他の人に見られないようにしてくれ」
「う、うん」
ミキは髪や目、若干肌の色が変わっているが、それ以外は前世とほとんど変化が無いので、近所の人に見られたら死人が生き返ったと思われて大騒ぎになりかねないからだ。
「ああ~!やっぱり見覚えがあるよこの道」
「ああ。マドカの住んでた家はもう建て代わってしまってるけど、その辺りだ」
窓から外を見ていたマドカが随分と興奮していた。彼女が彼として生きていた五年余りの間住んでいた場所を、かなり朧気ながらも思い出してきたのだ。
(……)
ほどなく自宅である。速度を落とすが、助手席のミキが明らかに肩を震わせているのがわかる。
バックで車庫に入れて、玄関の戸に向かう。思わずドリンがおおはしゃぎして跳ね回ろうとしていたので、サトルが強く宥める。
そして玄関の鍵を開けて戸を開いた。
「ただいま!」
「本当に、本当に帰ってきちゃったんだ!」
車庫から玄関に向う途中で震えが出ていたミキは、自宅の玄関を潜ると耐え切れずに泣き崩れてしまった。
「ああ。ここはお前の家だから。二年前には帰って来れなかったけどさ」
かろうじて立ち上がるとマナに連れられて自室に。
「私の部屋だ……。本当に私の……」
ベッドにうつ伏せになって泣きじゃくるミキの背中を擦って宥めるサトル。今度はサトルにすがり付いてしばらく泣き続けてしまう。
「まあ、兄貴を召喚しちまうほど未練が残ってたんだからこうなるのは当然か」
もらい泣きしているマナとナツキ。ドリンはミキの頬をペロペロと舐め、カツミは廊下からその様子を見守り、そしてマドカはサトルの部屋をしげしげと眺めていた。
ミキが落ち着いたところで、今度はサトルはマナを彼女の自宅に帰す事に。
「もともとマナちゃんを自宅に送ろうとしてる最中に召喚されたからな。今度こそちゃんと送らないと」
「……」
こうしてサトルはあらためてマナを帰す為に車を出すことに。
「ミキ、さすがにお前の通信関係は解約されちまってるから、リビングのPCからメッセージ送ってくれ」
「うん。何か必要なものがあったら連絡するね」
こうして転生組に留守を任せてマナを送る為に出発するサトル。
「あの……。今度は家まで送ってくれませんか?」
「もちろんそのつもりだよ」
マナは話があるからと、さらに自宅に案内する。
「どうぞ入ってください」
「おじゃまします……」
マナの自宅に足を踏み入れたサトル。家を空けて十日あまりなので、特に埃っぽくなった様子は無い。
(それにしても……)
サトルがマナの現在の自宅に入るのは初めてのこと。きちんと整っていたのだが、家具は必要最低限のものだけで、装飾らしいものは妹の部屋と比べても驚くほど少ないようだった。
「両親が亡くなった時に一気に処分しちゃったんです」
「……、そうか」
マナの両親は昨年、やはり交通事故で亡くなっていた。一人残されたマナは、当時北区の自宅も家具なども全て処分し、本島で生活していたのだ。
「不思議なんです。両親のは最低限しか残さなかったのに、ミキちゃんとの思い出のものは殆ど全部残していたんです」
「そうしたらミキちゃん、違う世界に生まれなおしていて……再会できて……またお話できて……」
「オレもまだ半信半疑だよ。それもミキだけじゃなくて、オレが関わってた人ばかり向こうに転生してたからさ……」
振り返るとサトルはそういった思い出の品を一切処分していなかった。もしかするとそれが引き合わせの要因になったのかもしれない。
しばらくミキと一緒に写っていた写真を眺めていたマナ。彼女はサトルに改めて尋ねた。
「お兄さんはこれからイトナの、いえ、ミキちゃんのために活動されるんですよね?」
「ああ。あれだけ関わったんだ。これから徹底的に関わるよ」
サトルは即答した。ミキだけでなくマドカ、ナツキ、カツミ、ドリンも居るのだ。もう関係ないという訳にはいかないと腹を括っていたのだ。
「お願いがあります!」
「?」
「私をお兄さんの家に住まわせて下さい!」
「?!」
「私もミキちゃんのためにできる事をしたいんです!」
その提案に驚愕するサトル。
「協力してくれるのは嬉しいけど、だからってオレの家に住む必要は……」
「いざという時に置いて行かれたくないんです!」
マナは本気のようだった。転生したミキは前世の兄サトルを頼って召喚したわけだが、前世の親友であるマナはサトルの転移に巻き込まれただけなのだ。だから次に何かあったときには危険だからと何も告げられずに置き去りにされてしまうのではないかと彼女は考えていたのだ。
「近所はともかく、周りから変な勘繰りされるかもしれないけど」
サトルの懸念は、マナがいらぬ誤解を受ける事だった。近所はともかく、彼女の、あるいは共通の友人知人たちからは、交際が発展して同棲に至ったと受け取られるだろうと考えたのだ。
だが当のマナは全く気にしていないという。
「気を使いすぎですよお兄さん。私はミキちゃんのためですから、事情を知らない人からの誤解ぐらいは気にしません。それに……」
「それに?」
「イトナだと私もお兄さんの婚約者扱いですから、だったらいっそ既成事実化してもいいかなって!」
くるりと振り向いてにこやかな笑顔を浮かべるマナを見て思い切り噴出してしまうサトル。そんなサトルを見て大笑いするマナ。
「やだ、そっちは冗談ですよ!」
こうしてマナの転居が決まった。引越しはすこし間をあけるが、サトルの家に泊まるのは確定なので、スーツケースに衣類と生活用品を詰め込んで、再度マナは家を出たのだった。




