第5話 ⑤ 魔獣の門と悪霊の海賊団
「それで戻ってきたら大勢になってたんだね……」
モフモフとしたドリンを撫でながら、兄からの報告を聞き終えたミキ。ドリンはミキが中学生の頃に飼いはじめた犬で、散歩の半分以上はミキが行っていたほど可愛がっていた。
「わーい!ミキさまミキさまぁ~」
まさかそのドリンが半人半狼として転生していたとは思いもよらなかったが、ミキもドリンも再会を心から喜んでいた。
「お初にお目にかかります姫様。このナツキ、必ずや我が国のためにこの身が果てるまでお仕え致します」
「はい!よろしくお願いします!」
彼女の父や後を継いだカイが出仕に気乗りしなかったので、今まで王宮に出仕した事がなかったナツキだったが、すでに執務に長けている上に長弓の腕も立つとの評判は立っていた。
だが前世での兄の初恋の相手にして初の彼女だったナツキが、前世での関係を持ち出してサトルの伴侶を宣言しているとも聞いていたので、実のところミキの心中は複雑であった。
「ハハッ!本当に髪と瞳の色が変わっただけで印象変わってないな妹ちゃん!いや失礼、お姫様!」
「ど、どうもお久しぶりですカツミさん……。そちらは随分変わられたみたいですね……」
「まあな!ご覧の通りさ!」
豪快に笑う女海賊に、釣られて笑ってしまうミキ。
前世では小学校時代は頻繁に会っていたものの、中学以降は近寄りがたくなっていたカツミが、中身はそのままだが外見が無遠慮に特盛りなセクシーさを振りまく女傑になっていたことに面食らっていた。
「とまあ、こんな次第で視察ついでに人材確保って訳だ」
サトルとしては、言葉通りに在野の有力な人材を確保してきたという意味だったが、ミキやマナの耳には別の意味にしか捕らえられないようだった。
「それでお兄ちゃんとマナちゃんは日本には帰せるけど……」
「ああ。取り急ぎ必要な物を調達してイトナに戻るよ。一週間ぐらい時間をくれればいい」
「本当に戻ってきてくれるの?!」
「当たり前だ。こんな状態、放置していいわけないだろ」
「お兄ちゃん。だったら私、試したい事があるの」
「試したい事?」
「うん」
その提案を聞いたサトルとマナは驚いた。本当に可能なのか、そもそも唯一の請っている王族がそんな事をしていいのか、さすがにサトルが懸念したが、ミキは頑として譲らなかった。
「わかったよ。ただ、必ず事前に皆に伝えておくんだぞ」
「うん!」
翌日。転移の儀式が行われる前に、重臣たちを集めた御前会議が開催された。国王ダイキが不在になってから現在まで暫定的に重臣たちが政治を行っていたが、それを改めて確認するためでもあった。
「お父様もお母様もお隠れになってしまいましたが、まだ本当に亡くなったと決まったわけではありませんが、いつまでも王が不在というわけにも参りません」
「ですから今後二年間、お父様がもしもお戻りにならなければ、その時に私が正式に即位します。それで宜しいでしょうか?」
『異議なし!』
ミキの発言に同意する一同。すぐにでもミキに即位して欲しいという意見も事前に出ていたが、ダイキが戻る望みを捨てていない事と、ミキがサトルの事を考えて時間をあけてくれたのだ。
「そしてこの度、私が前世での兄、今は摂政となったサトルを招聘することができました。さらに兄は前世でのお父様の形見を持ってきてくれました」
「ですので今度は私も向こうに一度赴き、改めてお父様たちの形見、即ち王家の遺産を取りに向おうと考えています」
『?!』
その言葉を聞いた重臣たちに緊張が走った。
「もちろん必ず帰ってきます。ですがこの国難に際して、前世での品は必ずや打開のために役立つのは間違いありません」
「しかし姫様……」
制止しようとする重臣たち。もしもミキまで戻らなかったら、この国は間違いなく崩壊してしまうからだ。
「お父様がここにご健在で、兄がこちらに物を持って来れた事を知れば、必ず一度は自ら確保しに向うでしょう」
『確かに……』
一同は頷く。
「では必ずやお戻り下さい」
「大丈夫です。私は必ず帰ってきます」
こうしてミキは一週間以内と期間を提示して帰還を約束したのだった。
かくして転送の儀式が行われる事に。しかしSUVには……。
「本当にみんな乗るのか?」
呆れて後ろを見るサトル。助手席にはミキが、後ろにはマナは当然としてマドカにナツキにカツミにドリンの姿まで。
「お師匠様からは私たちは転移できないかもしれないって言われたけど、誰も試した事がないから分からないって話だったから試してみる事にするの」
王位のほぼ唯一の継承者が国を空けるのはどうかと思うものの、ミキは一度帰ってあれこれやりたいと言って譲らなかった。
「それじゃあ始めるね。みんなしっかり捕まってて!」
ミキが呪文を唱え始めると、車全体が光に包まれていく。そして晴天に突如穴が開いて落雷が落ちると、SUVは綺麗さっぱり消えてしまったのだった。




