第5話 ③ 魔獣の門と悪霊の海賊団
視察を慰問を終えた一行は南下して海岸部に向かい、二日後には国内有数の港町ナツノに到着した。
しかしサトルやマナからみればヨットハーバー程度というか、長崎県にある現在は道の駅となっている、欧州の港町を模した元テーマパークのような規模にしか見えない。
「新摂政閣下、ようこそおいでくださいました」
出迎える町長。このナツノは王家直轄で、規模は周辺国と比較しても小さいが、イトナにとっては重要な貿易港だという。
「しかしどうにも景気が悪そうだね……」
町の規模はともかく、それなりの大きさの船には荷物も人も無く係留されたままで、漁船さえあまり動いている様子が無い。
町中も人が閑散としており、まるで郊外の大型ショッピングモールに客を取られてしまってシャッター通りと化してしまった小規模な商店街を見ているようだった。
「ええ。実のところ、両陛下がお隠れになったのと同時に正体不明の海賊が跋扈しはじめたもので……」
『海賊?!』
聞けば黒塗りの怪しげなガレー船のような大型の手漕船が多数出没し始めて、付近を航行する船を無差別に襲撃しているというのだ。
お陰で貿易船の往来は途絶え、漁船さえ沖合いに出ることができずに困窮しているというのだ。
「マーマン族でさえ、連中の正体がわからず困惑しているのです」
船に頼らず自身の泳ぎで大海をも駆け抜けるのが半人半魚のマーマン族。彼らは漁業だけでなく船の水先案内人になったり、海洋飛脚として手紙などを配達するなどして生計を立てているというが、その彼らにとってさえ脅威になっているというのだ。
「何とか生還した者たちは口を揃えて、死人が蘇って海賊になっていると言うのです」
その海賊たちは皆皮膚が蝋化したゾンビで構成されているというのだ。
「何にせよ海賊退治は根拠地を叩くのが一番確実なんだけどな」
その根拠地が不明な上に、発見できたとしても大軍を送り込んで制圧する必要があるわけだが、その軍勢を動員する余裕がイトナには無いのだ。
「国軍は魔獣の門から引き抜けないわけだし」
「国内は大河の制御や水利権。ゴブリンや海賊の跋扈が問題ってわけか……」
そこに急使が駆け込んできた。町長に報告なのだという。
「大変です!海賊の一団が上陸したとの事です!」
『上陸?!』
その報告を聞いてサトルたちも同行した。
「あ、あちらですお役人さまぁ!」
確かに漁師の指し示す先に怪しげな一団の姿が見える。
「でも様子が変ですね」
マナが一団の様子をみて訝しがる。
「うん。あれって攻めて来たっていうより、流れ着いたんじゃない?」
「ええ。あれはどう見ても漂着よね」
近づけばよくわかるが、船はオールがほぼ無い帆船であったが、船の帆は無残に破れ果て、船体の損傷も激しく離岸は不可能に見受けられる。
上陸してきた者たちは全員噂どおりに身なりはボロボロだが特に蝋化している様子はない。何とか船から這い出してきた様子だった。
「町長さん、俺たちで話を聞きに行くから、念のため水と食料の手配を」
「は、はぁ……」
サトルたちが武器を掲げながら接近すると、一団で動ける者たち、その頭目らしき人物が両手を上げて近づいてきた。
「おーーい!こっちに戦うつもりはないんだ!水とメシをくれ!!」
頭目の声は力強いが女性のもの。浅黒く日に焼けているが、炎のようなオレンジのぼさぼさの長い髪と、抜群のスタイルが目に付く。
「わかった!話を聞こう!!」
砂浜付近の街道沿いに生える大木の木陰で海賊の頭目から話を聞くことに。
「オレの名はカツミ。このファイヤーフォックスの頭だ!」
「ファイヤーフォックス?」
その名を、本人の名だけでなく海賊団の名を聞いたサトルは、すぐにある人物を思い出し頭を抱えてしまった。そして腰に差していたコルトパイソンを取り出して、眼前の女傑に見せた。
「カツミって言ったな?もしかしてこの道具に見覚えあるんじゃないか?」
弾丸は事前に抜いてあるので発砲の恐れは無い。彼女はその銃をしげしげと眺めて手に取ると、触れた直後に何かを思い出したように絶叫した。
「ちょ、ちょっと待てよ!こ、この“銃”はオレのコルトパイソンじゃねえか!」
やっぱりと、何度も頷きながらサトルは告げる。
「ああ。こいつはオレの小学校以来の友人の形見分けで預ったものだからな。中学からは一緒につるむことはほとんどなくなったけど、こいつの細工はオレが手配してやったんだが……」
「って、誰かと思ったらお前サトルじゃねえか!懐かしいじゃねえかおい!」
豪快に笑ってサトルを抱き締めて何度も両手で背中を叩くカツミ。これが前世からのカツミのサトルへの親愛の挨拶なのだ。
「そうだそうだ!思い出した思いだした!オレさ、バイクで事故って吹っ飛んじまってよ、気が付いたら女に生まれ変わってたんだよ!」
「じゃあキミも転生したクチなんだね」
「おお。そういうことみたいだ!しくじったぜ!アハハハハ!」




