↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今川氏真に転生した俺、滅びるはずの今川家を立て直します』  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/43

第31話 桶狭間前夜

 永禄三年五月十八日。

 駿府の空は、夏の気配を含んだ重い雲に覆われていた。


 今川義元は、静かに甲冑を身につけていた。

 その姿は、武将というより“公家の将”のように整っている。


 氏真は、その背中を見つめていた。


 ――明日、父上は桶狭間へ向かう。

 ――史実では、そこで死ぬ。


 雪斎がいない今、

 その未来を知っているのは氏真だけだった。


◆


 義元は鏡の前で烏帽子を整え、

 ゆっくりと氏真へ向き直った。


「氏真。三河は任せるぞ」


 その言葉は、いつもと同じだった。

 だが、氏真には違って聞こえた。


 “遺言のように”聞こえた。


 胸が痛む。

 だが、表情には出さない。


「父上。上洛の道は、必ず開けます」


 義元は微笑んだ。


「そなたがそう言うなら、そうなるのであろう」


 その笑顔が、あまりにも穏やかで、

 氏真は一瞬、言葉を失った。


◆


 夜。

 駿府の本陣は静かだった。


 兵たちは明日の進軍に備え、

 槍を磨き、甲冑を整え、

 火の前で静かに語り合っている。


 氏真は雪斎の机を持ち出し、

 地図を広げていた。


 尾張。

 熱田。

 大高。

 丸根。

 そして――桶狭間。


 指で一点を押さえる。


「ここで、父上は討たれる」


 声に出すと、胸が締め付けられた。


 だが、未来は変えられる。


◆


 氏真は筆を取り、地図に線を引いた。


 義元の進軍ルート。

 兵の配置。

 補給の流れ。

 織田の動き。


 雪斎が教えた“制度”を、

 未来の知識で補強する。


「兵を分散させない。

 補給を切らせない。

 奇襲を許さない」


 筆が止まる。


「そして――父上を前線に出させない」


 史実の義元は、

 前線に出すぎた。

 油断した。

 家臣の諫言を聞かなかった。


 だが、氏真は知っている。

 その未来を変える方法を。


◆


 夜風が吹き込み、火が揺れた。


 氏真は静かに呟いた。


「雪斎様……俺は、未来を変えます」


 その声は、

 少年の声ではなく、

 国を背負う者の声だった。


 義元を死なせない。

 今川を滅ぼさない。

 桶狭間を“悲劇”で終わらせない。


 そのために――

 明日、氏真は父の側に立つ。


◆


 深夜。

 義元の本陣から灯りが漏れていた。


 氏真は静かに近づく。


 義元は一人、文を読んでいた。

 その姿は、戦の前夜とは思えないほど落ち着いている。


「父上」


 義元は顔を上げた。


「氏真か。眠れぬか」


「はい。……少し、お話を」


 義元は頷き、氏真を座らせた。


「父上。明日の進軍ですが――」


 氏真は地図を広げ、

 未来を変えるための“最初の一手”を口にした。


「父上は、前線に出てはなりません」


 義元は目を細めた。


「……理由を聞こう」


 氏真は静かに答えた。


「父上は、国の柱です。

 柱が倒れれば、国は崩れます」


 義元はしばらく黙り、

 やがて小さく笑った。


「氏真……そなたは雪斎のようだ」


 その言葉は、

 氏真の胸に深く落ちた。


◆


 桶狭間の前夜。

 氏真は未来を知る者として、

 初めて父に“歴史を変える言葉”を告げた。


 火は静かに揺れ、

 夜は深まり、

 運命の朝が近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。