第26話 壊れた道、立ち上がる民
安祥城の再編が始まった翌日、
雪斎は俺を呼び出した。
「若殿。戦は終わりましたが、三河の仕事はここからでございます」
その声は、戦の前よりも重かった。
「まずは、道を見に行かれよ」
雪斎はそう言って、俺に地図を渡した。
そこには、昨日まで戦が通った村々が印されていた。
◆
安祥から東へ向かう道は、
戦の跡がそのまま残っていた。
荷車の車輪で深く削られた土。
踏み荒らされた畑の端。
壊れた柵。
折れた枝。
昨日の戦の熱はもうない。
だが、戦の傷だけが残っていた。
村の入口で、年寄りが俺を見て驚いた。
「若殿……また来てくださったのですか」
「道を見に来た」
俺は馬を降り、土を踏んだ。
柔らかい。
踏み固められていない。
荷車が通れば、すぐに深い溝になる。
「ここは、商人が通る道だろう?」
「はい……ですが、織田の兵が来てからは、誰も通らなくなりました」
年寄りは俯いた。
「道が壊れれば、商人は来ない。
商人が来なければ、村は弱ります」
その言葉は、戦の勝敗よりも重かった。
◆
村の広場に人を集めた。
鍬を持つ者。
棒を持つ者。
昨日、雪斎の軍勢に加勢した者たちだ。
俺は言った。
「道を直す。今日から始める」
村人たちが顔を上げた。
「若殿……また、道を?」
「道が壊れれば、村が壊れる。
村が壊れれば、三河が壊れる」
俺は地面を指した。
「戦は壊す。
だが、俺たちは直す家になる」
その言葉に、村人たちの目が変わった。
「若殿……やります!」
「俺たちも手を出します!」
「三河を強くするなら、力を出します!」
◆
作業はすぐに始まった。
折れた枝を集め、
壊れた柵を直し、
荷車の溝に土を入れ、
踏み固める。
昨日まで戦っていた手が、
今日は鍬を握っている。
その姿は、戦よりも強かった。
俺も鍬を持った。
十一歳の手だ。
だが、民と同じ土を掘ることに意味があった。
「若殿、そこは俺がやります!」
「いや、俺もやる」
村人が笑った。
「若殿は……本当に三河の人だ」
◆
昼過ぎ、道の半分が整った。
村人たちが汗を拭きながら言った。
「若殿……商人は、また来ますかね」
「来る」
俺は断言した。
「道が整えば、商人は戻る。
商人が戻れば、村が強くなる。
村が強くなれば、三河が強くなる」
村人たちが頷いた。
「若殿……三河を頼みます」
「任せてくれ」
◆
夕暮れ、雪斎の陣に戻ると、
雪斎が焚き火の前で待っていた。
「若殿。道はどうでしたか」
「壊れていました。だが、直しました」
雪斎は静かに頷いた。
「戦は壊す。
政治は育てる。
そなたは、その両方を背負うことになる」
昨日と同じ言葉だった。
だが、今日の俺には、
その意味が少しだけ深く感じられた。
「若殿。三河は、そなたの手で変わります」
焚き火が小さく弾けた。
その音が、三河の夜に溶けていった。




