↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今川氏真に転生した俺、滅びるはずの今川家を立て直します』  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/46

第17話 家中のざわめき

 三河の地図を描き終えた翌日、俺は義元のもとへ向かった。


 昨日描いた地図を持っていくべきか迷ったが、結局そのまま持っていくことにした。


 数字だけではなく、道や村の状態を“形”として見せる必要があると思ったからだ。


「入れ」


 義元の声がして襖を開けると、すでに数人の重臣が集まっていた。


 俺が入ると、彼らの視線が一斉にこちらへ向く。


 その空気が、いつもより少し重いように感じた。


「氏真、来たか」


「はい」


 義元の前に座り、地図を差し出した。


「三河の様子をまとめました。昨日見てきた道や村の状態です」


 義元は地図を広げ、じっと見つめた。


 その横で、重臣たちが身を乗り出す。


「……これは、道の図か?」


「はい。どこが荒れていて、どこで荷車が止まりやすいか。商人が避ける道も記しています」


 義元は静かに頷いた。


「なるほど。分かりやすい」


 その言葉に、少しだけ胸が軽くなった。


 だが――


「若殿」


 重臣の一人が、低い声で口を開いた。


「これは……戦のための地図ではございませぬな?」


「戦のためではありません。三河の暮らしのためです」


 そう答えた瞬間、部屋の空気がわずかに揺れた。


 別の重臣が眉をひそめる。


「若殿。三河は今、織田との争いの最中。まず考えるべきは兵をどう動かすかでありましょう」


「兵を動かすためには、道が必要です」


「道の修繕など、百姓の仕事でございます!」


 声が少し強くなった。


 俺は黙ってその言葉を受け止めた。


 予想していた反発だった。


「若殿は、米や道ばかり気にされているように見えます。戦は兵が戦うことで決まるのですぞ」


「兵が戦う前に、兵がそこへ行けなければ戦はできません」


 俺が静かに返すと、重臣たちの表情がさらに険しくなる。


「若殿は……戦を知らぬ」


 その言葉は、刃のように鋭かった。


 だが、俺は逃げなかった。


「戦を知らないからこそ、戦の前に何が必要なのかを見ています」


 重臣たちがざわめく。


 その中で、義元だけが黙って俺を見ていた。


 やがて、義元がゆっくり口を開いた。


「静まれ」


 その一言で、部屋の空気が止まった。


 義元は地図をもう一度見つめる。


「氏真の言うことは、戦を知らぬ者の戯言ではない」


 重臣たちが息を飲む。


「三河は疲れておる。道も、村も、商人もだ。兵を動かす前に、まず三河が動けるようにせねばならぬ」


 義元は地図を指でなぞった。


「この地図は、戦のためではなく、国のための地図だ」


 その言葉に、俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。


 義元は続けた。


「兵を出すことだけが支配ではない。支配した土地をどう育てるか。それを考えるのもまた、国を治める者の務めだ」


 重臣たちは黙った。


 反論できないのではなく、義元の言葉が“正しい”と理解したからだ。


 義元は俺を見た。


「氏真」


「はい」


「三河の道を整える案をまとめよ。どこを直し、どこに人を送り、どこを商人に使わせるべきか。兵を動かす前に、まず三河を動かす」


「承知しました」


 その瞬間、俺は初めて“家中の中で役目を与えられた”と実感した。


 ただの提案ではない。


 ただの意見でもない。


 今川家の方針として、俺が動く。


 部屋を出ようとしたとき、背後から義元の声がした。


「氏真」


「はい」


「そなたの考えは、戦とは違う。だが――国を守るためには必要な考えだ」


 その言葉は、父としてではなく、今川家の当主としての言葉だった。


 俺は深く頭を下げた。


◆


 廊下を歩きながら、俺は思った。


 今日の反発は、これから何度も起きるだろう。


 今川家は大きい。


 古いやり方も多い。


 変えるには時間がかかる。


 それでも――


 俺は地図を描いた。


 三河を見た。


 竹千代と話した。


 そして、義元は俺の考えを受け入れた。


 ならば、進むしかない。


 三河を育てるために。


 今川家を強くするために。


 そして――


 家康が今川家を離れない未来を作るために。


 俺は拳を軽く握った。


「まずは、道だ」


 その言葉を胸の中で呟きながら、俺は自分の部屋へ戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。