あの曲の名前は――
「遅かったじゃないか。なにかあったか?」
先に行っていた正樹が不思議そうな顔で聞いてくる。
「少し向日葵と話をしていたんだ」
「緊張でついに植物と会話してしまうようになったか。大丈夫だ、俺はどんなお前でも友達だからな」
憐みの目でこちらを見つめてくる正樹を無視して俺は張り出されているクラス割の紙に目をやる。
「1学年8クラスか。えーと俺は、、4組か。正樹も一緒みたいだし入学早々ぼっちは免れそうだな」
「そりゃよかった。てか奏斗は普通にコミュ力があるんだから俺がいなくてもぼっちにならねぇだろ」
「お褒めに預かり光栄だ」
そんな他愛ない会話を交わしながら俺たちがこれから一年間を過ごすことになる教室へ向かう。
教室についた俺たちは自分の席を確認し座る。窓側の一番後ろの席、いわゆる主人公席というやつだな。今日は本当に運がいい。
「あれ?さっきのイヤホンの」
席に着くと隣からそんな言葉が飛んできた。おそらく自分に向けての言葉だろう。声のほうを見てみるとさっきぶつかった子がいた。
「やっぱり!さっきの人だ。偶然だね!これから一年間よろしく」
このとても晴れやかな笑顔を見ればほとんどの男子はイチコロだろう。実際俺も少しドキッとはした。
「本当に偶然だな。俺は南部奏斗よろしく。えっと、、」
名前を呼ぼうとしたがそういえば名前を知らないので言葉に詰まる。彼女は不思議そうに見てくるが、察してくれたのか名前を教えてくれた。
「私は高瀬 琴葉。よろしく南部君!」
「よろしく高瀬」
新しい環境にうまくなじめるか不安だったがとりあえずスタートは悪くはないのではないだろうか。そう考えているうちにあることを思い出した。
「なぁ、高瀬」
「ん?」
「朝聴いていた曲の名前教えてくれないか?どこかで聴いたことがあると思うんだが名前が出てこなくてな」
俺は胸の内に残っていた小さなもやもやを解消すべく質問した。それを聞いた高瀬はにやりと笑いながら
「ん~?新手のナンパかな?」
などと茶化すように言葉を返してきた。俺がそれに対してため息をすると彼女は少し笑って口を開く。
「あの曲の名前は――」
「おはようございます!」
その言葉の続きを遮るように大きな声が教室に響き渡る。声の出所は教壇の上にいる人物だった。おそらくこのクラスの担任となった先生だろう。高瀬との会話に意識をやっていたため、教室に入ってきたことに気づかなかった。灰色の長い髪と深い赤色の瞳をしている。この学校は髪染めやカラーコンタクトなどがOKなのか?
「あとで教えてあげる」
高瀬は俺にそう告げ、話すのをやめた。これは教えてくれるのはずいぶん先になりそうだ。




