第六話 脚本の正体
世界終了まで。
残り五日。
その数字は容赦なく減り続けていた。
そして俺は今。
誰もいない旧校舎の図書室にいた。
向かいには星乃紬。
窓から差し込む夕日が、本棚を赤く染めている。
静かな空間だった。
だが俺の心臓はうるさいほど鳴っていた。
「世界は百二十七回終わった」
昨日現れた文字。
あれが頭から離れない。
「教えてくれ」
俺は星乃を見る。
「もう誤魔化さないでくれ」
星乃は少しだけ俯いた。
長い沈黙。
やがて小さく息を吐く。
「……うん」
その返事だけで分かった。
彼女は全てを知っている。
「この世界はね」
星乃が静かに語り始める。
「本当は一度終わるはずだったの」
「一度?」
「うん」
頷く。
「百二十七回じゃなくて」
「最初は一回だけ」
意味が分からない。
だが続きを待つ。
「五年前」
星乃は窓の外を見る。
「ある実験が行われた」
「実験?」
「人類の未来を予測するための計画」
背筋が寒くなる。
嫌な予感がした。
「その計画は成功した」
「未来を予測できた?」
「違う」
星乃は首を振る。
「未来を書けるようになった」
その瞬間。
視界に文字が浮かぶ。
【脚本】
たった二文字。
だが。
胸の奥がざわつく。
「世界の脚本は予言じゃない」
星乃が言う。
「未来そのもの」
「未来そのもの?」
「そう」
静かに頷く。
「誰かが書いている」
全身に鳥肌が立つ。
誰かが。
世界を。
書いている。
まるで小説みたいに。
「じゃあ俺が見てるものは……」
「物語」
星乃が答える。
「私たちの人生」
息を呑む。
理解したくなかった。
だが。
思い返せば全て説明がつく。
事故。
火災。
転落。
全て脚本通りだった。
未来を予知していたんじゃない。
未来を読んでいたんだ。
「待て」
俺は眉をひそめる。
「じゃあ誰が書いてる」
その問いに。
星乃は答えられなかった。
「分からない」
「分からない?」
「私も知らない」
だが。
その目は何かを隠していた。
その時だった。
頭痛が走る。
「っ!」
視界が揺れる。
まただ。
最近増えている。
知らない記憶。
知らない光景。
知らない俺。
雪が降っている。
校庭だった。
俺と星乃がいる。
今より少し大人だ。
『失敗したな』
俺が笑う。
『うん』
星乃も笑う。
でも。
二人とも泣いていた。
空を見る。
そこには巨大な文字。
【世界終了】
次の瞬間。
全てが白く染まった。
「冬月!」
声で現実へ引き戻される。
息が苦しい。
汗が止まらない。
「今……見た」
星乃の顔色が変わる。
「どこまで?」
「雪の日」
その瞬間。
彼女の瞳が震えた。
「そう……」
まるで。
忘れていた思い出を共有したような顔だった。
「星乃」
俺は聞く。
「俺たちは何なんだ」
沈黙。
そして。
彼女は震える声で答えた。
「戦ってた」
「何と?」
「世界の終わりと」
その時。
図書室の窓が激しく揺れた。
突風。
いや違う。
世界そのものが震えている。
次の瞬間。
視界いっぱいに文字が浮かんだ。
【エラー】
俺は凍り付く。
今まで見たどの文字とも違う。
【観測者を確認】
【脚本外行動を確認】
【修正を開始します】
嫌な汗が流れる。
星乃も青ざめていた。
「まずい……」
「何がだ」
彼女は立ち上がる。
その顔から血の気が消えている。
「気付かれた」
「誰に?」
星乃は答えなかった。
その瞬間。
教室の窓ガラスが一斉に割れた。
轟音。
悲鳴。
校内が騒然となる。
そして。
空に現れる。
巨大な文字。
【第七話 世界の真実】
【排除対象 冬月朔】
思考が停止する。
排除対象。
それは。
まるで。
主人公ではなく。
異物を消すかのような言葉だった。
星乃が俺の腕を掴む。
「逃げて!」
「え?」
「今のあなたは脚本の敵になった!」
その言葉と同時に。
夕焼け空が真っ黒に染まった。
まるで世界そのものが怒っているように。
そして俺たちは知らない。
本当の敵が。
まだ姿すら見せていないことを。
世界終了まで。
残り四日。




