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【全11話・一挙公開】『退学になった俺だけが世界の脚本を読める。七日後に世界は終わるらしいので、モブ女子と最終話を書き換える』  作者: 鷹司 怜


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2/11

第二話 星乃紬と出会う


 翌朝。


 俺は教室の扉の前で深呼吸した。


 昨日見た文字が頭から離れない。


【最終話 世界終了】


【残り七日】


【世界を救う主人公 星乃紬(ほしの つむぎ)


 世界を救う主人公。


 そんな大層な肩書きが、あの少女に結びつかない。


 だが脚本は今まで一度も外れていない。


 ならば確かめるしかなかった。


 俺は教室へ入る。


 クラスメイトたちの視線が集まった。


 すぐに()らされる。


 もう慣れていた。


 事故や火災を言い当てたことで、俺は気味の悪い存在になっている。


「また予言者様だ」


「次は何が起きるんだろうな」


 小さな笑い声。


 聞こえないふりをする。


 俺の視線はただ一人を探していた。


 窓際の最後列。


 そこに星乃紬(ほしの つむぎ)はいた。


 朝の光を浴びながら本を読んでいる。


 相変わらず一人だった。


 誰とも話していない。


 スマホも見ない。


 ただ静かに本のページをめくっている。


 その姿は不思議なくらい教室に馴染んでいた。


 いるのに目立たない。


 まるで背景の一部みたいだった。


 だが。


 俺は気付く。


「……ない」


 思わず呟いた。


 頭上の文字がない。


 他の生徒には全員ある。


【第六話 告白】


【第八話 失恋】


【第十二話 転校】


 教師にも。


 用務員にも。


 校庭の猫にすらある。


 なのに。


 星乃紬だけ何も表示されていなかった。


 真っ白だった。


 空白だった。


 まるで脚本から消されているように。


「どういうことだ……」


 思わず見つめる。


 すると。


 ぱたり。


 本が閉じられた。


 星乃が顔を上げる。


 黒曜石のような瞳がまっすぐこちらを見た。


「なに?」


「え?」


「さっきから見てる」


 心臓が跳ねる。


 慌てて目を逸らした。


「いや、その……」


「退学になるんだってね」


 いきなり核心だった。


「知ってるのか」


「うん」


 星乃は小さく頷く。


「みんな話してる」


 苦笑した。


 まあそうだろう。


 今や学校中の有名人だ。


 悪い意味で。


「嫌だね」


 ぽつりと星乃が言う。


「何が?」


「助けた人が悪者になるの」


 俺は言葉を失った。


 初めてだった。


 誰も俺を信じない。


 誰も俺を理解しない。


 そう思っていた。


 なのに。


 彼女だけは違った。


「信じるのか?」


 気付けば聞いていた。


「未来が見えるって話」


 少しだけ沈黙。


 窓の外で風が吹く。


 そして。


「見えてるんでしょ?」


 当たり前みたいに言った。


 鳥肌が立つ。


「なんでそう思う」


「だって」


 星乃は微笑んだ。


 どこか懐かしそうに。


「あなたは昔からそうだったもの」


 時間が止まる。


「……は?」


 昔から?


 何の話だ。


 俺たちは友達ですらない。


 まともに会話した記憶もない。


「ごめん」


 星乃は首を振る。


「忘れて」


 そう言って再び本を開いた。


 だが。


 その横顔は少しだけ寂しそうだった。


 放課後。


 退学手続きの説明を受けた俺は校門へ向かっていた。


 空を見る。


 まだ文字は消えない。


【残り六日 二十時間四十二分】


 確実に減っている。


 世界は本当に終わるのだ。


 足が重かった。


 学校も。


 友人も。


 日常も。


 全部失う。


 そんな気分だった。


「冬月君」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 星乃だった。


 肩で息をしている。


 珍しく走ったらしい。


「どうした?」


 彼女は何も言わず、一冊の大学ノートを差し出した。


「見て」


 古びたノートだった。


 何度も開かれた跡がある。


 俺は受け取る。


 そして表紙を開いた。


 次の瞬間。


 全身が凍りついた。


【世界終了まで七日】


【冬月朔を見つけること】


 意味が分からない。


 さらにページをめくる。


【今回こそ助ける】


 嫌な汗が流れる。


 ページをめくる。


 めくる。


 めくる。


 すると最後のページに辿り着いた。


 そこには。


 俺の名前が書かれていた。


 冬月朔。


 冬月朔。


 冬月朔。


 冬月朔。


 冬月朔。


 冬月朔。


 冬月朔。


 冬月朔。


 びっしりと。


 何百回も。


 まるで忘れないように。


 まるで祈るように。


「なんだよ……これ」


 震える声で聞く。


 星乃は答えない。


 代わりに俺を見る。


 その瞳は揺れていた。


「覚えてないんだね」


「何を?」


「私のことも」


 意味が分からない。


 だが胸がざわつく。


 初めて会話したはずなのに。


 初めてまともに向き合ったはずなのに。


 なぜか。


 彼女の泣きそうな顔が苦しかった。


「星乃……」


 その時だった。


 風が吹く。


 ノートのページが勝手にめくれた。


 一枚だけ。


 最後の最後に隠されていたページ。


 そこには一行だけ書かれていた。


【世界救済失敗 127回】


 思考が停止する。


「百二十七回……?」


 そんな馬鹿な。


 意味が分からない。


 だが。


 もっと信じられないことを星乃が口にした。


「大丈夫」


 彼女は涙を堪えながら笑った。


「今回はきっと間に合うから」


 その瞬間。


 俺の視界に文字が浮かび上がる。


【第二話終了】


【ヒロインは主人公を覚えている】


【世界救済失敗回数 127】


 背筋を冷たいものが走った。


 俺はまだ知らない。


 世界が一度や二度ではなく。


 百回以上終わっていることを。


 そして。


 そのたびに忘れられてきた人間が誰なのかを。

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