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episode 21 対峙

 ――ルジェが死んだか。


 灰色の空から、そんな銃声と予感が伝わってきた。


 オンディは手を休めるでも、胸を締め付けられるでもなく、淡々と袋をナイフで切り裂き、その中の粉末を浄水池へ流し込んでいた。


 雨が降っていてよかった。風に舞った粉を吸い込んでは堪ったものではない。これならば、湿った粉を、どばっと放り込むだけである。


 雨粒が水面を穿つ人工池の遙か向こうに、誰かが霞んで見えた。


 オンディは最後の麻袋の腹を割いて、それを水に蹴落とすと、後ろに出来た水たまりでナイフと手をきれいに洗った。ナイフを鞘に戻すと、また別の水たまりで手を洗った。


 雨衣の隙間から指を突っ込んでシガレットケースを取り出す。が、中身は水に濡れ、ふやけた葉が飛び出していた。数本とも全部そうであり、彼はしかめ面をして捨ててしまった。


 影はまだ向こうの方をうろついている。寒いし、やることもやったし帰ろうか、と思ったが、濡れたついでである。せっかくここまでやってきたあのものを殺してやろう。オンディは銃を抜いて構えた。


 すると、彼の足下で銃弾が跳ねた。僅かに遅れて銃声が聞こえた。また弾が空を切るや、それに遅れて銃声が轟く。


 この距離で、しかも拳銃でこれだけ集弾させるとはなかなかの腕の持ち主だな。オンディは答礼のつもりか、そのものに向かって銃を放った。


 敵も銃弾が飛んできているのは承知しているはずなのに、怯む気配はまるでなく相も変わらず突進してきた。面白い敵である。


 興味が湧いたオンディは敵を近づけて、かつ撃たれないために、自分の胴ほどある幹の裏に身を納めた。


 敵の水を打つ足音が鮮明に聞こえ始めた頃、オンディはぱっと飛び出して、照準を合わせた。


 敵もそれを予測していたのか銃を構えていた。


 その距離は分厚い雲の下、息詰まるような小暗い夕方でも、お互いの顔がはっきり視認出来るほどだった。


「……おまえは、いつぞやの」オンディは呟く。


「……弾を買っていった」


 向こうもオンディに気づいたらしい。銃砲屋の店員はやはりただの店員ではない。


 銃は睨み合っていた。早く引き金を引いた方が相手を殺すことが出来る状態だった。


 二人とも引き金を引くタイミングを逸していた。


「――一体なにをしたんだ!?」厳しい口調で店員が問うた。


 オンディは一回鼻で笑った。


「毒を撒いた」


「どうしてっ!?」


「たまたまウスタル軍から分捕ったんだ。美しいレーメラに撒かれちゃ困るだろ? おまえらは年中、おれの国でこういうことをしている。だから、おまえらのその正義面を見ると心底腹が立つ」


 経験の差というのはものをいうのかも知れない。オンディの方が一枚上手であった。


 彼はごく自然に引き金を引いた。弾丸は正確に相手の拳銃をはじいた。


 店員はなにが起きたのか把握出来ないように、手を小刻みに振るわせてその場へ膝を突いた。


 オンディは正確に頭に狙いをつけていた。目の前にいる男を生かすも殺すも胸一つである。


 悔しそうに自分を睨んでいる男に対して、それこそ弾丸の種類を尋ねるが如くオンディは話しかけた。


「シュテインは来ているのか?」


「………」


「――来てるんだな」


 相手のちょっとした表情の変化から、彼はシュテイン奪還が失敗したことを悟った。


 さて、どうしたものか。オンディは無性に煙草が恋しくなった。煙を吸うように息を吸ってゆっくりと吐き出した。


 今このものを殺したら、シュテインはどうなるだろう。……緩衝材としてこのものをおいておいた方がいいかも知れない。


 殺そうと思えばいつでも殺せる。いつでも殺せると思うと、今殺すことに対する魅力が薄れてきた。煙草も、ないと無性に吸いたくなるものだ。


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