episode 15 朝の清掃
ガサガサと幽かな音が一階からしている。まだ朝は来たばかりだった。
トータツは伸びをすると跳ね上がり、そのまま一階まで降りた。
小さな陰が瓦礫の中から商品を拾い、それを拭いては崩れかけたカウンターに並べていた。
「おはよう」
丸まった少女の背にそう声をかけると、少女も振り返って、どこかはにかんだように、おはよう、と返した。
トータツも少女に倣い、商品を拾ってはほこりを払って並べ始めた。
「偉いな。朝から片付けなんて」
何気なく言った言葉だったが、少女には重く響いたようだった。
「……わたしのせいだから」
手を休めることはしなかった。それでも、思い出したくないことを思い出したように、身をすくめて申し訳なさそうにした。
「……ごめんなさい」
「――なんで謝るの?」
「だって、昨日の人はわたしになにか用があったのでしょ?」
「………」
「昨日の人、きっとわたしのことを呼んでいたんだわ。――だから、わたしは行くべきだった。例えわからなくても。なのに行かなかった。わたし最低……」
「行かなくてよかったよ」
悪い方へ転んだとしても、これだけは言っておかねばならなかった。
「仮にあいつらがアノンの知り合いだとしたって、あんな銃をぶっ放しながら入ってくるようなやつに渡すつもりはない」
少女は向こうを向いて小刻みに肩を振るわせていた。
また消えてしまうのではないか、不安がトータツの胸をよぎった。あんな連中が出現した以上、なおさら一人でどこかにやるわけにはいかない。
「この店直さないか? ミンツさんが退院して戻ってくるまで、この店を一緒に直そう」
少女はやはりこちらを向くことはなかったが、大きく頷いてそれに応えた。
一台の辻馬車が止まって、憔悴したチェスカが中から降りてきた。トータツと少女を見ると申し訳なさそうに目を垂れた。
「ミンツは大丈夫よ。今までの無理が祟ったみたい。でも二十日間くらいは安静にしていないとだって」
チェスカはそれだけ言うとアノンの前まで歩み寄り、いきなり少女を抱きしめた。
「昨日はごめんなさい。本当はあなたが一番つらいって知ってたのに」
アノンもチェスカを抱き返した。
「わたしのせいでみんなに迷惑かけて。本当はいちゃいけないのに」
「いけなくなんかない」
「……トータツもね、一緒にお店を直そう、って言ってくれたの」
「そう。トータツ君にしては気が利く。わたしからもお願いするね」
「チェスカ、わたしもう少しいてもいいの?」
「もちろん! 好きなだけいなさい。わたしの家じゃないけど。――ミンツだっていいって言うに決まってるんだから」
ようやく人々が起き始め、白い日の光が清澄な空気の中をどこまでも突き進む。破れた扉から入り込む涼気が、寝起きの肺腑に染み渡った。そんな朝の出来事だった。




