35歳のシンデレラ 大道芸人編 86
結局、その後は、飲み会になった…
アムンゼンの目論見は、成功したわけだ…
無事、サウジアラビアの前国王の偽者を捕まえることが、できた…
だから、安心したわけだ…
だから、私も安心して、たっぷり酒を飲んだ…
いやというほど、酒を飲んだ(笑)…
昔から、
「…吐くまで、飲むのは、矢田ちゃんだけ…」
と、周囲の人間たちに言われていた…
だから、その本領をいかんなく発揮したわけだ(笑)…
私は、体力の続く限り、酒を飲んだ…
この矢田の159㎝のカラダでは、ありえんほど、酒を飲んだのだ…
当然、気分が、悪くなった…
あまりにも、大量に、酒を飲みすぎて、急性アルコール中毒になる、一歩手前だった…
倒れる寸前だった…
そんな私を見て、
「…ちょっと、お姉さん…大丈夫?…」
と、リンダが、私を心配した…
「…ぜ、ぜ、ん、だいじょう、ぶ…なんか、じゃない、さ…」
私は、言った…
酔っ払って、舌をもつれさせながら、言った…
思いっきり、カラダを揺らしながら、言った…
「…お姉さん…カラダが、ちっちゃいのに、私やリンダと、同じペースで、酒を飲むからよ…」
と、今度は、バニラが、言った…
「…な、なんだと? …ど、う、い、う意味だ?…」
「…私やリンダは、白人だから、アルコールに強いけど…日本人の、お姉さんは、アルコールに強くないから…」
「…な、ん、だ、と? …ど、う、い、う、意味だ?…」
「…日本人と、白人は、生まれつき、カラダが違うの…外見もだけれども、私たち白人は、生まれつき、アルコールに強い…真逆に、日本人は、アルコールに強くない…」
バニラが、指摘する…
事実、その通りだったのだろう…
眼前のバニラも、リンダも、私と、同じように、酒を浴びるように、飲んでいるが、ちっとも、酔っているようには、見えんかった…
まるで、水やジュースを飲むような感じだった…
たしかに、二人とも、少しばかり顔が、赤らんでいたが、それだけだった…
それに比べ、この矢田は、もはや、立っているのも、しんどかった…
フラフラとしているのは、自分でも、わかった…
「…矢田ちゃんの、カラダが揺れている…」
マリアが言った…
「…矢田ちゃん、大丈夫?…」
「…だい、じょう、ぶ…なんか、じゃない…さ…」
私は、言った…
「…も、う、ダ、メさ…」
私が、言うと、アムンゼンが、
「…矢田さん、別室で、休んで下さい…太郎の面倒は、ボクが、見ます…」
と、言った…
「…た、ろ、う、のめんどう…だと?…」
「…そうです…」
「…な、ん、で、そ、そんなことを?…」
「…だって、お姉さん…いつも、そのお猿さんのひもを、握っているじゃない…」
バニラが、言った…
「…別室で、休むのに、そのお猿さんまで、連れて行く気?…」
もっともな、言い分だった…
なにより、この太郎は、元々は、アムンゼンが、飼っていた…
だから、アムンゼンが、面倒を見るのが、当たり前だった…
「…そ…そうか、わかった…さ…」
私は、言った…
「…太郎を頼むさ…」
私は、言って、太郎の首に繋がった、ひもを、アムンゼンに渡した…
「…そ、ん、な、こと、より、アムンゼン…オマエは酒を飲まんのか?…」
「…ボクは、子供です…3歳の幼児のカラダしか、持っていません…だから、酒は、飲めません…なにより、サウジアラビアは、イスラム教徒…成人でも、酒は、飲みません…」
「…な、ん、だ、と?…」
「…もちろん、それが、原則ですが、建前でも、あります…隠れて、飲んでいるものも、多いです…」
「…そ、う、か…」
私は、言った…
言いながら、実は、気分が、悪くなった…
太郎をアムンゼンが、見てくれると、言ったので、ホッとも、したのだろう…
私は、まるで、スイッチが、切れたように、その場に倒れた…
いきなりだった…
自分でも、そんな自分に驚いた…
つまりは、そんな自分を冷静に見ている、もうひとりの自分が、いたわけだ…
さすがは、矢田トモコ…
自分で、自分を褒めた(笑)…
が、
そこで、一切の記憶が、途切れた…
意識が、なくなった…
私は、夢の中にいた…
私は、夢の中に、いたが、具体的には、どんな夢を見ていたのか、わからんかった…
ただ、なんとなく、気分が、良かった…
おそらく、現実に、事件が、終わったことが、大きかったのかも、しれない…
すべては、アムンゼンが、偽者の前国王を捕まえるために、仕組んだ、お芝居…
それも、前国王の偽者を捕まえたことで、終わった…
それで、私も、ホッとしたことが、大きかったのかも、しれない…
だから、内容は、よくわからんが、幸せな夢を見た…
そういうことかも、しれない…
夢は、現実を反映するというか…
現実に、不安があったり、不機嫌な目にあったりすると、それが、夢に現れることが、多い…
つまりは、夢の中にまで、嫌な目に遭った現実が続くわけだ…
真逆に、現実が、楽しいと、夢の中にまで、その楽しさが、反映される…
要するに、楽しい夢を見るわけだ…
だから、私は、浮かれていた…
寝ていて、意識はないが、なんとなく、浮かれていた…
が、
どこからか、声が、聞こえてきた…
「…ちょっと、どういうつもり?…」
という声が、聞こえてきたのだ…
私は、その声に、聞き覚えがあった…
私は、その声の主を知っていた…
その声の主は、リンダだった…
ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースだった…
「…なんだ?…」
と、男の声…
私は、その声にも、聞き覚えがあった…
あのアムンゼンの甥のオスマンの声だった…
「…あの男が、サウジアラビアの前国王の偽者だったなんて、聞いてなかったわ…」
「…敵を騙すには、まず味方からというだろ?…」
「…」
「…最初から、あの男が、偽者だと、知っていれば、リンダ…アンタの行動にも、現れる…」
「…それは、どういう意味?…」
「…偽者だと、知っていれば、それが、態度に現れるだろ?…」
「…」
「…当たり前のことだ…」
私は、その声を聞きながら、ある謎が、解けたと、思った…
このリンダが、あのサウジアラビアの前国王の偽者と、いっしょに、このお屋敷にやって来たのは、オスマンが、関与したわけだ…
つまりは、リンダの持つ、セレブのネットワークでは、なかったわけだ…
そして、それを、考えると、以前、私が、アムンゼンと、いっしょに、太郎を交えて、大道芸人の旅をしているときに、いきなり、このリンダが、やって来たわけが、わかった…
あのとき、
「…どうして、ここが、わかった?…」
と、私が、リンダに聞くと、
「…蛇の道は蛇というやつよ…お姉さん…」
と、答えて、リンダは、ごまかした…
が、
それは、ウソ…
当然、私が、アムンゼンと、太郎と、ネットカフェに泊まっていることを、誰かに、聞いたに違いない…
誰かに、教えてもらったに違いない…
そして、それを、リンダに教えたのが、オスマンだったわけだ…
考えてみれば、当たり前だった…
このオスマンは、アムンゼンの甥にして、アムンゼンの最側近…
いつも、行動を共にしている…
それは、アムンゼンを護衛するのが、一番の任務だからだ…
なぜなら、叔父のアムンゼンは、小人症で、30歳にも、かかわらず、外見は、3歳の子供にしか、見えないからだ…
だから、誰にでも、簡単に誘拐されてしまう…
それゆえ、常に、アムンゼンのそばにいる…
が、
あのときは、いなかった…
私と太郎とアムンゼンが、ネットカフェに泊まって、大道芸人の旅をしているときは、いなかった…
私は、それを、思い出した…
私が、そんなことを、考えていると、
「…ああ言えば、こう言うね…オスマン…」
と、リンダが、笑った…
続けて、
「…ねえ…オスマン? …あの前国王…ホントに偽者だったの?…」
と、仰天のセリフを言った…
…なんだと?…
…偽者じゃない、だと?…
…だったら、アレは、本物?…
…本物の前国王?…
私は、驚いた…
私は、ビックリした…
「…バカな…どうして、そう思う?…」
「…権力欲よ…以前、アムンゼンは、クーデターを起こして、オスマン…アナタを国王にして、自分が、陰から、アナタを操ろうとしたでしょ?…」
「…」
「…だからよ…」
リンダが、告げる…
すると、オスマンが、
「…叔父さんは、バカではないよ…」
「…どういう意味?…」
「…機はまだ熟していないと、思っている…」
「…」
「…天の時、地の利、人の和が、揃ってないと、思っている…」
「…」
「…だから、いずれ、時が来れば…」
「…それは、無理…」
リンダが、断言した…
「…どうして、無理なんだ?…」
「…あのお姉さんよ…」
「…あのお姉さん…矢田さん?…」
「…そうよ…」
「…彼女が、どうかしたのか?…」
「…あのお姉さんが、いる限り、無理?…」
「…どうして、無理なんだ?…」
「…あのお姉さんの前で、悪いことは、できない…」
「…悪いことは、できない…どうしてだ?…」
「…あのお姉さんは、根っからの善人…」
「…それが、叔父さんとなにか、関係あるのか?…」
「…おおありよ…オスマン…アナタ…あのお姉さんの前で、悪人になれる?…」
「…それは…」
オスマンが、言葉に詰まった…
「…でしょ?…」
「…善人の前では、悪人になれない…」
「…うまいことを、言うな…」
「…誰しも、善の部分と悪の部分を持っている…私も、オスマン…アナタも、同じに持っている…」
「…」
「…でも、あのお姉さんの前では、決して、悪の部分は、見せれない…善の部分しか、見せれない…」
「…」
「…だから、アムンゼンも、あのお姉さんといっしょにいる限り、善人を演じるしか、ない…クーデターを起こせない…案外、それが、国王の狙いかも…」
リンダが、仰天の事実を言った…




