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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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87/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 87

「…国王の狙い? …どういう意味だ?…」


 「…あのお姉さんといることで、アムンゼンは、邪悪な心を失う…国王の座を狙うことも、諦める…」


 「…」


 「…アムンゼンは、あのお姉さんを評して、あのお姉さんと、葉尊を、結婚させたのは、葉敬のたくらみだと、見抜いた……葉尊の邪悪な心をなくす、たくらみだと、喝破した…でも、自分のことだと、あのアムンゼンも気づかないようね…」


 「…」


 「…あのお姉さんといっしょに、いると、おおげさに言えば、魂が浄化される…世俗にまみれた心が、すっきりと、洗われる…だから、あのお姉さんといる限り、悪いことは、できない…」


 リンダの言葉に、


 「…」


 と、オスマンが、言葉を失った…


 「…」


 と、答えんかった…


 だが、少しばかり、時間を置いて、


 「…リンダ…オマエ…」


 と、呟いた…


 「…リンダ…オマエ…国王陛下と繋がりがあるのか?…」


 「…私を誰だと、思っているの…」


 リンダが、答える…


 「…私は、リンダ・ヘイワース…ハリウッドのセックス・シンボルよ…」


 リンダが、堂々とした口調で、言った…


 それから、少しばかり、間があった…


 「…そうか…そういうことか…」


 オスマンが、呟いた…


 「…そうか…リンダ…オマエ…国王陛下とも、繋がっていたのか…」


 なぜか、楽しそうに、言った…


 「…さすがは、リンダ・ヘイワース…ハリウッドのセックス・シンボルは、伊達じゃないな…色気だけじゃなく、おつむもあると、いうことだな…」


 「…そういうこと…」


 リンダが、答えた…


 「…リンダ…オマエは、あらかじめ、国王陛下とも、繋がって、オレたちの動静を窺っていたわけだ…」


 「…」


 「…いや、その様子では、本物の前国王とも、繋がっている可能性も、高いな…」


 「…それは、ご想像に、お任せするわ…」


 リンダが、笑いながら、言った…


 が、


 次に、オスマンが、言った言葉に、そのリンダの笑いも、凍った…


 「…リンダ…」


 「…なに、オスマン?…」


 「…あまり、調子に乗らない方が、いい…」


 「…どうして、そんなことを、言うの? …私は、調子になんて、乗ってないわ…」


 「…だったら、言葉を変えよう…あまり、やりすぎない方がいい…」


 「…ちょっと、どういうこと? …オスマン…アナタ…顔色が、変わって…」


 「…アラブの至宝と呼ばれた叔父さんは、おそらく、すべてを、見抜いている…」


 「…アムンゼンが?…」


 「…そうだ…たぶん、見て、見ぬふりをしているだけだ…」


 「…ウソ?…」


 「…叔父さんは、狡猾だ…以前、オレを、国王にして、サウジアラビアの実権を握るクーデターを起こしたと、言っても、オレも、それが、ホントなのか、今もって、よくわからない…」


 「…なんですって?…」


 「…叔父さんは、結果的に、サウジアラビアを追放されて、この日本のセレブの保育園に、やって来た…だが、そこで、叔父さんは、この日本にいる、世界中のセレブの子弟と、関係を築くことができた…知り合うことが、できた…サウジアラビアにいては、できないことだ…」


 「…」


 「…だから、今では、それが、叔父さんのホントの目的だったのかも、しれないと、思い直しているところだ…」


 「…ウソ?…」


 「…リンダ…オマエも、叔父さんを甘く見ないことだ…そのきれいな顔も、見事なカラダも、叔父さんが、本気で、怒り出せば、どうなるか、わからないゾ…」


 「…だったら、私が、オスマン…アナタと、密かに繋がっていたことは…」


 「…当然、気づいているだろ? …ただ、見逃してくれているだけだ…」


 「…」


 「…叔父さんが、オレや、リンダ…アンタを見逃して、くれているのは、おそらく、あのマリアや、あのお姉さんのおかげだ…」


 「…マリアやお姉さんのおかげ…」


 「…マリアは、正真正銘の3歳の子供…その3歳の子供が、保育園で、叔父さんをしっかりと、面倒を見てくれようとする…だから、叔父さんは、マリアに感謝して、気持ちが優しくなった…それに、なにより、マリアの母親のバニラさんや、バニラさんと繋がりがある、リンダ、アンタに、厳しく接することが、できなくなった…」


 「…」


 「…そして、なにより、あのお姉さんだ…あのお姉さんは、太陽…イソップ物語の北風と太陽の物語じゃないが、あのお姉さんと、接すると優しくなる…悪いことができなくなる…邪(よこしま)な心を、持つことが、できなくなる…北風が、吹けば、上着を掴んで、離さないが、太陽が、強烈に照りつけば、暑くて、上着を脱ぐのと、いっしょだ…脅しても、金を積んでも、口を割らない人間も、あのお姉さんと、いっしょにいると、簡単にしゃべりだす…つい、気を許す…なにより、あのお姉さんは、楽しい…面白い…3歳のマリアが言ったのが、本当だ…」


 「…」


 「…リンダ…アンタが、そんな色気たっぷりの恰好で、男をたぶらかすより、あのお姉さんと、いっしょに、いることの方が、男女とも、楽しくなる…いかに、外見が、美しくても、叶わない…この日本のことわざにあるだろ?…」


 「…どんなことわざ?…」


 「…美人は、三日で飽きる…」


 オスマンが、笑いながら、言った…


 そして、その言葉に、リンダは、絶句した…


 そして、


 「…ブスは三日で慣れる…」


 と、オスマンが、続けた…


 「…いえ、あのお姉さんは、ブスじゃないわ…平凡よ…」


 「…平凡?…」


 「…そう、絵に描いたように、平凡…私やバニラが、おかしいのよ…」


 「…なんで、おかしいんだ?…」


 「…自分で言うのも、なんだけれど、たまたま美人に生まれた…ただ、それだけ…」


 「…」


 「…オスマン…それは、アナタも同じ…」


 「…どう、同じなんだ?…」


 「…イケメンに生まれた…」


 「…」


 「…でも、それを、生かせる人間は、男女とも、ごくわずか…大抵は、男女とも、学校や、会社で、ちやほやされるだけ…私やバニラのように、そのルックスを生かして、有名になることができるのは、ごく一握り…この日本の宝くじで、一億円が、当たるようなもの…」


 「…」


 「…そして、それは、オスマン…アナタも同じ…」


 「…どう、同じなんだ?…」


 「…オスマン…アナタ…サウジアラビアの王室で、一番のイケメンでしょ?…あるいは、一、二を争う美形でしょ?…」


 「…なんだ? …いきなり? …それが、どうした?…」


 「…つまりは、アナタも利用されたのよ…」


 「…オレが、利用? …どう、利用されたと、言うんだ?…」


 「…サウジアラビアの国王にならないかと、アムンゼンに口説かれた…声をかけられた…」


 「…それが、どうした?…」


 「…国王になるには、一番、大事なのは、なに?…」


 「…なんだ? …いきなり?…」


 「…ルックスよ…見た目…能力じゃない…」


 「…能力じゃないだと?…」


 「…若く、背が高い、イケメンのアナタが、国王になれば、サウジアラビアの格が上がる…アムンゼンは、そう、思って、アナタに声をかけた…陰で操るのは、アムンゼン…それなら、能力は、必要ない…」


 「…それは、リンダ…アンタの想像だろ? …単なる妄想に過ぎない…」


 「…あら、そうかしら?…」


 「…証拠があるのか?…」


 「…アンナ…」


 リンダが、突然、言った…


 私は、その名前に聞き覚えがあった…


 あの太郎を飼っていた女だ…


 あの太郎と、この矢田が初めて会ったのは、マリアの通うセレブの保育園の遠足というか…


 セレブの通う保育園ゆえに、豪華なサロンバスを数台連ねて、動物園に見学に行った…


 そのサロンバスの車内で、私は、初めて、太郎に出会った…


 太郎は、猿…


 いきなり、サロンバスの中に、猿が現れたから、皆、驚いた…


 車内は、てんやわんやの大騒動になった…


 「…どうして、こんな場所に猿が?…」


 誰もが、思った…


 誰もが、口にした…


 そのとき、あのアンナが、現れ、


 「…申し訳ありません…バスケットの中に、いたのに、逃げ出して…」


 と、説明した…


 そして、


 「…今日は動物園に行くから、この猿を動物園に預かってもらおうと、今日、このバスケットに入れて、連れてきました…私も、先日、偶然、この猿に、街中で、出会って…」


 と、説明した…


 そして、私は、その説明を信じた…


 が、


 考えてみれば、怪しすぎる説明だった(笑)…


 街中で、偶然、猿に出会うだろうか?


 いや、


 もし、出会ったとしても、そんなに簡単に、捕まえられるものだろうか?


 普通に、考えれば、ありえない…


 最初から、誰かが、飼っていたに決まっている…


 いや、


 誰かではない…


 おそらく、あのアンナが、太郎の飼い主で、おかしくない…


 私は、あらためて、そう、気づいた…


 が、


 と、いうことは、どうだ?


 あのアンナという女は、アムンゼンの配下…


 アムンゼンの部下…


 いまさらながら、気づいた…


 なぜなら、太郎は、アムンゼンの飼っていた猿だからだ…


 だが、なぜ、あのアンナという女の名前が、リンダの口から出た?


 それが、わからんかった…


 が、


 その答えは、すぐに、わかった…


 「…リンダ…オマエ…アンナを知っているのか?…」


 と、オスマンが、直球で、聞いたからだ…


 「…かつての、モデル仲間よ…」


 あっけなく、リンダが、答えた…


 …それで、か?…


 私は、納得した…


 リンダは、今は、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれる女優だが、元は、モデル…


 バニラと同じモデルだ…


 だから、あんなにキレイだったんだ…


 と、私は、思った…


 それに、なにより、あのアンナは、おそらく、私と同じぐらいの年齢…


 歳は、35歳ぐらい…


 だから、29歳のリンダが知っていても、おかしくはない…


 真逆に、バニラでは、無理…


 バニラは、まだ21歳…


 だから、バニラが、35歳のアンナと同じモデル仲間でも、知っている可能性は、リンダよりも、低い…


 歳が離れすぎているからだ…


 だから、活躍する時期が、違う…


 それゆえ、余計に、リンダが、アンナを知っていたのは、納得した…


 「…そうか、そういうことか…」


 オスマンが、言った…


 オスマンが、納得した…


 「…それで、わかった…」


 「…なにが、わかったの?…」


 「…叔父さんは、リンダ…アンタのファンだ…だからだ…」


 「…なにが、だからなの?…」


 「…叔父さんは、あのルックスだ…だから、リンダ…アンタのような金髪碧眼の美女に、弱い…アンナも、同じタイプ…そういうことだ…」


 その言葉を聞いて、今度は、リンダが、絶句する番だった…


 「…そうだ…そういうことだったんだ…」


 リンダが、呟いた…


 「…なにが、そういうことだったんだ?…」


 「…突然、アンナから、私に連絡がきたわけ…」


 「…どういうわけだったんだ?…」


 「…あのアンナは、アムンゼンの命を受けて、私に、お姉さんと、あのお猿さんが、どうなっているか? 見張らせたかったんだと、思う…」


 「…見張らせたかった?…」


 「…アムンゼンの命を受けて、あのお猿さんを、お姉さんに預けたけれども、うまくいくか、心配だった…それで、私に様子を聞いて、うまくいったから、アムンゼンは、お姉さんと、合流した…」


 「…」


 「…つまり、最初から、私たち全員、アムンゼンの手のひらで、踊らされていたわけね…」


 リンダが、言った…


 納得したように、言った…


 「…さすがは、アラブの至宝と呼ばれた頭脳の持ち主…最初から、すべて、シナリオを書いて、その通りに、周囲を動かした…」


 「…いや、たぶん、それは、ない…」


 「…どうして、ないの?…」


 「…あのお姉さんだ…」


 「…あのお姉さんが、どうかしたの?…」


 「…あのお姉さんは、不確定要素だ…」


 「…不確定要素? どういう意味?…」


 「…あのお姉さんが、現れると、思いがけないことが、起こる…それが、一番、わかりやすいのは、あの猿だ…」


 「…あのお猿さんが、どうかしたの?…」


 「…あの猿は、叔父さんではなく、あのお姉さんを選んだ…」


 「…どういう意味?…」


 「…あの猿に、叔父さんと、あのお姉さんが、それぞれ別の指示を下せば、あの猿は、叔父さんではなく、あのお姉さんの言うことを聞くだろう…」


 「…お姉さんの言うことを聞く?…」


 「…あのお姉さんと、あの猿は、出会って、わずか、十日やそこらだった…それでも、数年前からの飼い主である、叔父さんよりも、あの猿は、あのお姉さんを選んだわけだ…叔父さんにとっては、ありえない屈辱だったに違いない…」


 「…」


 「…そして、だからこそ、あのお姉さんは、叔父さんにとって、不確定要因なんだ…あのお姉さんの行動で、結果が、どうなるか、さっぱりわからなくなる…」


 「…」


 「…もっとも、だからこそ、叔父さんは、あのお姉さんに、心惹かれるのかも、しれない…」


 「…どうして、心を惹かれるの?…」


 「…先が、読めないからだ…叔父さんの頭脳をもってしても、あのお姉さんの行動が、読めない…だから、惹かれるんだ…」


 「…」


 「…しかし、そう考えると、この先が、面白くなってくるな…」


 「…なにが、面白くなってくるの?…」


 「…叔父さんは、アンタやアンナのような金髪碧眼の美女が好き…叔父さんは、いっちゃ、悪いが、あのカラダだから、アンタのような長身の美女に惹かれる…それが、一転して、あのお姉さんに、心を奪われるなんて…面白すぎだろ?…」


 オスマンの言葉に、リンダは、


 「…」


 と、絶句した…


 「…」


 と、言葉もなかった…


 「…つまりは、このリンダ・ヘイワースとあのお姉さんを秤にかければ、アムンゼンは、お姉さんを選ぶというわけね…」


 リンダが、落胆した口調で、言った…


 「…そうなるな…」


 「…美人は、三日で飽きる…ブスは、三日で慣れる…けだし、名言ね…」


 …なんだと?…


 …この矢田が、ブスだと?…


 …ふざけて、もらっては、困る!…


 …たしかに、リンダから、見れば、ブスかも、しれんが、この矢田トモコ、35歳…


 これまで、数え切れないほど、男からコクられた経験がある…


 いや、


 数え切れないといえば、言いすぎだが、何度かは、ある…


 それを、ブスとは?


 許さんゾ!!


 許さんゾ、リンダ!


 今に見てろさ!!


 その伸びきった高慢ちきな鼻を、この矢田トモコが、へし折ってやるさ!…


 私は、そう、心に誓った…


 天地神明に、誓った…


 が、


 声が、出んかった…


 カラダも、動かんかった…


 とにかく、飲みすぎたのだ…


 いや、


 カラダは、動いたが、少しでも、動かせば、途端に気分が悪くなった…


 だから、ホントは、二人のやりとりを聞きながら、うっすらと、目を開けて、二人を見たかった…


 もしかしたら、私と、同じ部屋には、いないかも、しれんが、見たかったのだ…


 が、


 できんかった(涙)…


 そんなことを、すれば、今にも、吐きそうだったからだ…


 そして、そんなことを、考えていると、いつのまにか、睡魔に襲われ、眠ってしまった…


 そして、今度は、目が覚めると、すっかり、昨日の出来事を忘れていた…


 いや、


 全部は、忘れていないが、二日酔いで、頭が、痛すぎた…


 だから、覚えていることも、あるが、覚えていないこともある…


つまりは、全部を覚えているわけでは、なかった…


 ただ、私が、目が覚めて、しばらくすると、


 「…矢田さん…大丈夫ですか?…」


 と、アムンゼンが、太郎を連れて、私が、寝ている部屋にやって来た…


 「…大丈夫さ…」


 私が、言うと、太郎が、嬉しそうに、


 「…キー…」


 と、鳴きながら、私に抱き着いてきた…


 私は、嬉しかった…


 涙が、出るほど、嬉しかった…


 太郎が、私になついていることが、なにより、嬉しかった…


 すると、それ以外のことが、すべて、どうでも、よくなった…


 昨夜、リンダとオスマンが、なにか、しゃべっていたようだが、そんなことは、どうでも、よくなった…


 とにかく、太郎が、私の胸に抱き着いてくれたのが、嬉しかったのだ…


 「…太郎は、幸せです…矢田さんに、好かれて…」


 アムンゼンが、言った…


 その声には、若干、嫉妬が、含まれていたように、感じた…


 が、


 気にせんかった…


 私にとって、太郎が、一番だからだ…


 だから、リンダも、オスマンのことも、気にならんかった…


 そして、それは、バニラも、マリアも、だった…


 昨日もことも、そうだが、この先のことも、同じ…


 なすが、ままというか…


 なるようになれ、だ!…


 私は、ただ、太郎が、かわいかった…


 かわいかったのだ…


 だから、ほかのことは、どうでもよかった…


 ただ、太郎といる、今が、いい…


 今が、幸せ…


 それだけだった(笑)…


<了>


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