35歳のシンデレラ 大道芸人編 85
まさに、血を吐くようなアムンゼンの告白だった…
私は、アムンゼンを誤解していた…
アムンゼンを、悪いヤツだと、誤って、思っていた…
だから、
「…すまんかったさ…」
と、アムンゼンに素直に詫びた…
すまんかったさ、と、言いながら、アムンゼンに頭を下げた…
「…オマエを誤解していたさ…」
私は、言った…
「…誤解ですか?…」
「…そうさ…オマエ、ホントは、いいヤツなんだな…」
私が、言うと、なぜか、
「…矢田さんに、褒められても、ちっとも、嬉しくありません…」
と、アムンゼンが、ほざいた…
「…なんだと? …なぜ、私に褒められて、嬉しくない?…」
「…矢田さんに、褒められると、なんだか、バカにされているような気がします…」
「…なんだと? …どうしてだ?…」
「…どうして、と、言われても…」
アムンゼンが、返答に困った…
だから、
私は、許せんかった…
実に、許せんかった…
この矢田が、褒めてやっているにも、かかわらず、素直に、
「…ありがとうございます…」
と、答えられない…
この小人症の男は、実に、性根が、ねじ曲がった男だと、思った…
この矢田の言葉に、素直に、礼を言えない、ダメ人間だと、思ったのだ…
が、
さすがに、それは、言えんかった…
なにしろ、この豪邸には、アムンゼンの私兵が、まだ、ごまんといる…
この矢田が、アムンゼンに、面と向かって、罵声を浴びせれば、急いで、この矢田を拘束するだろう…
そうなれば、あの前国王同様、アムンゼンの私兵に、拘束され、後は、どうなるか、わからん…
この矢田の首と胴が、真っ二つになるかも、しれん…
だから、私は、なにも、言わんかった…
ただ、ジッと、このアムンゼンを見た…
満足に、礼も言えない、ダメ男を、見たのだ…
すると、アムンゼンが、
「…なんですか? …矢田さん、その目は?…」
と、ほざいた…
…なんだと?…
…どういう意味だ?…
「…そんな細い目を、さらに、細めて、ボクを睨んで…」
アムンゼンが、不満げに、言った…
「…なんだと、貴様?…」
と、私は、怒鳴って、やりたかった…
ホントは、大声で、怒鳴ってやりたかった…
が、
言えんかった(涙)…
何度も、言うように、この部屋からは、出て行ったが、この部屋の向こう側には、アムンゼンの私兵が、いっぱいいる…
だから、言えんかった…
アムンゼンの私兵が、怖くて、言えんかったのだ…
私が、そんなことを、思っていると、マリアが突然、
「…アムンゼン…矢田ちゃんの目が細くても、大きくても、どっちでもいいの!…」
と、叫んだ…
「…矢田ちゃんは、面白いの!…矢田ちゃんは、楽しいの!…だから、目が細くても、いいの!…」
と、マリアが、叫んだ…
なんだか、私を褒めてるのか、けなしているのか?
よく、わからん言葉だった…
「…だから、目なんて、細くても、いいの!…」
マリアが、顔を真っ赤にして、怒鳴った…
だから、それを、見て、このマリアは、この矢田を擁護していると、思った…
この矢田に、肩入れしていると、気づいたのだ…
そして、それは、アムンゼンにも、すぐに、わかった…
「…わかったよ…マリア…」
と、急に、猫なで声になった…
「…ボクが、悪かった…この通り…」
と、なぜか、アムンゼンは、いきなり、マリアに頭を下げた…
35歳の矢田には、下げず、3歳のマリアには、頭を下げたのだ…
これは、許せんかった…
実に、許せんかった…
「…オマエ…アムンゼン…」
と、私は、言ってやった…
「…なんですか? …矢田さん?…」
「…どうして、私に詫びずに、マリアに詫びる?…」
「…いえ、矢田さんには、マリアの後に詫びようと…」
「…なんだと? 順番が、逆じゃないのか?…」
「…順番?…」
「…そうさ…」
私は、言った…
「いえ、これで、いいんです…」
「…なんだと?…」
「…矢田さんは、マリアの後で、いいんです?…」
「…どうして、いいんだ?…」
「…矢田さんは、剣道で言えば、大将です…一番、最後に出る大物です…矢田さんは、当然、マリアより、偉いわけですから、マリアの後に、ボクは、詫びようと、思いました…」
…コイツ、うまいことを、言う…
いかにも、見え見えのウソだが、それを、追及することは、できんかった…
なにしろ、このアムンゼンの私兵が、怖かったからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
しかし、
しかし、だ…
結局、今回の騒動…
最初から、最後まで、このアムンゼンに振り回されていた!…
この小人症のチビに振り回されていた!…
私は、思った…
思ったのだ…
この矢田も、バニラも、リンダも、皆、この小人症のチビに振り回されていた!…
あらためて、考えた…
そして、あらためて、このリンダを見た…
女をむき出しにして、フェロモンをムンムンにさせている、リンダ・ヘイワースを見た…
ハリウッドのセックス・シンボルを見たのだ…
私が、ジッと、リンダを見ていると、当たり前だが、リンダも私の視線に気づいた…
「…なに? …お姉さん…今度は、私をジッと見て?…」
と、リンダが、聞いた…
「…リンダ…オマエ…なんで、今日は、そんな恰好できた?…」
私は、聞いてやった…
このリンダは、性同一性障害…
カラダは、女だが、心は、男と、言っている…
そして、その証拠に、普段は、いつも、男の恰好をしている…
プライベートでは、いつも、男の恰好をしている…
そして、男の恰好をしているときは、ヤンと呼んでくれと、いつも周囲の人間に言っている…
このリンダが、女の恰好をするのは、仕事のときだけ…
仕事=ビジネスのときだけだ…
ビジネスのときだけ、この女の恰好をする…
女をむき出しにして、色気たっぷりの恰好をする…
つまりは、ルパン三世のヒロインの峰不二子のようなものだ…
このリンダは、仕事のときだけ、女をウリにするのだ…
それが、わかっているから、私は、不思議だった…
なぜ、女の恰好をして、現れたのか、不思議だったのだ…
すると、リンダは、
「…だって、お姉さん…私は、あの男を本物のサウジアラビアの前国王と思っていたのよ…」
と、切り出した…
「…当然、私は、リンダ・ヘイワースとして、会わなきゃ、失礼でしょ?…」
リンダが、言った…
もっともな言い分だった…
反論できんかった…
たしかに、リンダが、普段のプライベートで、男の恰好をしているヤンの姿では、あの偽者のサウジアラビアの前国王も、幻滅だろう…
いかに、プライベートでも、リンダは、リンダ・ヘイワースの姿でならなくては、ならん…
それが、自分自身、一番わかっているのだろう…
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
このリンダは、自分が、よくわかっている…
自分のウリが、よくわかっている…
そう、思ったのだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…でも、偽者だったなんて…」
と、リンダが、肩をすくめた…
「…せっかく、気合を入れて、リンダ・ヘイワースの恰好をしてきたのに、これじゃ、なんのために、やってきたか、わからない…」
リンダが、愚痴をこぼした…
「…いえ、そんなことは、ありません…」
アムンゼンが、言った…
「…どうして、そんなことは、ないんだ?…」
と、私は、聞いた…
「…だって、リンダさんが、この屋敷にあの父の偽者を連れてこなければ、ダメだったわけですよ…」
「…それは、そうだが…」
私は、言った…
「…リンダさんが、いつも公に現れる、ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースとして、現れたから、あの男も油断したんです…あの男は、狡猾で、用心深い…滅多なことでは、油断しません…リンダさんが、その恰好で、現れたから、あの男も油断したんです…」
アムンゼンが、力を込めた…
すると、だ…
なぜか、突然、マリアが、怒り出した…
「…なに、アムンゼン…その目?…」
と、なぜか、いきなり、マリアが、アムンゼンに絡みだした…
私は、わけが、わからんかった…
どうして、いきなり、マリアが、怒り出したのか?
わけが、わからんかった…
「…リンダさんを、いやらしい目で見て…」
と、マリアが、続けた…
それで、わかった…
マリアは、リンダに、心を奪われているアムンゼンが、許せんかったのだ…
同じ女として、許せんかったのだ…
アムンゼンは、マリアが好き…
マリアも、それが、わかっている…
にも、かかわらず、たった今、このアムンゼンが、リンダに見とれていたことに、気づいた……
それが、許せんかったのだ…
いわば、アムンゼンに浮気=不倫をされたようなものだからだ…
だから、マリアは、怒った…
だから、マリアが、怒った原因は、嫉妬…
嫉妬だった…
わずか、3歳だが、嫉妬だったのだ(爆笑)…
そして、それに、気づくと、アムンゼンは、慌てた…
アムンゼンが、このマリアを好きなのは、事実だったからだ…
演技でも、なんでもないからだ…
アムンゼンは、ホントは、30歳だから、ハリウッドのセックス・シンボルである、リンダ・ヘイワースに憧れるのは、自然なこと…
当たり前だった…
また、アムンゼンは、以前、リンダのファンだと、公言したことが、ある…
さらには、リンダに、以前、サウジアラビアに、ぜひ、来てくれと、言ったこともある…
要するに、リンダを口説いたのだ(笑)…
が、
アムンゼンは、マリアを、好きなのも、また事実だった…
だから、
「…そんなことを、言うなよ…マリア…」
と、アムンゼンは、猫なで声で、マリアに、言い訳した…
「…つい…」
「…つい、なに?…」
マリアが、まるで、アムンゼンの奥様のように、怒り出した…
すると、慌てて、アムンゼンが、マリアの母親のバニラに、助けを求めた…
「…バニラさん…助けて下さい…」
と、バニラに助けを求めた…
すぐに、バニラは、アムンゼンの要求に、応じた…
「…マリア…殿下も、ああおっしゃっているのだから…」
マリアをとりなした…
が、
マリアは、頑固だ…
気も強い…
だから、母親のバニラの命令も聞かんかった…
「…ダメ!…許さない!…」
マリアが、断言する…
そのときだった…
なんと、太郎が、いきなり、マリアの前に立ったのだ…
「…キャー、なに?…」
マリアが慌てた…
マリアは、太郎が、苦手だったからだ…
が、
その太郎は、マリアの前で、なぜか、いきなり、ペコリと、頭を下げた…
まるで、アムンゼンの代わりに、マリアに詫びるが、如く、マリアに頭を下げた…
「…太郎…ありがとう…」
アムンゼンが、言った…
感激した様子で、言った…




