35歳のシンデレラ 大道芸人編 82
30歳の大人のアムンゼンの顔が、そこにあった…
「…では、矢田さん…お聞きしますが、矢田さんは、今、アラブの女神と呼ばれ、アラブ世界で、有名です…そのおかげで、矢田さんの夫の葉尊さんの会社、クールも、葉尊さんの父親の、台湾の台北筆頭の売り上げも、アラブ世界で、それまでとは、打って変わって、飛躍的に、売り上げが、伸びました…これを、どう、説明しますか?…」
「…どう、説明するか、だと?…」
「…そうです…いわば、ボクの力で、クールや台北筆頭の売り上げが飛躍的に伸びたのです…これを、どう説明しますか?…」
「…それは、この矢田を取り込むためさ…」
「…矢田さんを、取り込むため?…」
「…そうさ…危険な人物は、近くにいては、困るさ…だが、この日本さ…私を暗殺することは、できんさ…だから、仲良くなって、私を、仲間にして、取り込もうとしたのさ…」
私は、言った…
すると、だ…
なんと、アムンゼンが、笑った…
笑ったのだ…
そして、それは、これまで、この矢田が、見たことのない、アムンゼンの笑いだった…
いかにも、悪意に満ち満ちた、どす黒い笑いだった…
「…随分、ご自身の評価が、高いんですね…矢田さん…」
「…なんだと?…」
「…だから、きっと、矢田さんは、リンダさんと、バニラさんと、いっしょにいられるんです…」
「…なんだと? …どういう意味だ?…」
「…リンダさんも、バニラさんも、絶世の美人です…まともな神経の持ち主なら、この二人と、肩を並べて、平然と過ごすことなど、できません…まして、矢田さんは、同じ女性です…普通の神経では、ありえません…」
「…なんだと?…」
「…矢田さんは、少々、抜けているのでしょう…だから、なにも、気にしない…普通の人間では、ありません…」
「…ふざけたことを、言うんじゃないさ…私は、普通さ…普通の人間さ…」
「…いえ、普通じゃ、ありません…」
至極、真っ当な表情で、私に反論した…
私は、それを、見て、気づいた…
このアムンゼンのコンプレックスが、いかに、大きいかに、気づいたのだ…
だからか?
同時に、気づいた…
このアムンゼンが、権力に執着するわけに、気づいたのだ…
自分のカラダが、小さい…
だから、大きなものに憧れる…
大きなもの=権力に憧れる…
権力=他人様の上に立つということだからだ…
だから、ぶっちゃけ、自分は、子供のような容姿=ルックスだが、こんなに偉いんだ…
と、言いたいのかも、しれない…
他人様に、向かって、声を大にして、言いたいのかも、しれない…
そう、気づいたのだ…
そして、そう気づくと、以前、ネットで、読んだ、徳川家五代将軍の徳川綱吉に関する記事を思い出した…
徳川綱吉は、身長、わずか、124㎝だったと、言われている…
当時の日本人の男の平均身長は、155㎝…
当時としても、はるかに、小さい…
いわゆる、このアムンゼン同様小人症…
それゆえか、能を舞ったり、他人様に、講義をするのが、好きだったとも、言われている…
要するに、
…オレが、外見は、チビで、子供のようにしか、見えないけれど、こんなことも、できるんだ…どうだ? …凄いだろ!…
と、周囲に、アピールしているのだ…
だから、ハッキリ言えば、コンプレックスの裏返しに他ならない…
それと、このアムンゼンは、いっしょ…
カラダが、小さいというコンプレックスが、いっしょ…
だから、権力に人並外れて、執着する…
そう、気づいたのだ…
だから、
「…アムンゼン…オマエ、以前、国王の座を狙って、クーデターを、もくろんで、失敗したな…」
私は、わざと、言ってやった…
「…なんですか、矢田さん…いきなり…」
アムンゼンが、動揺した…
このアムンゼンのクーデター失敗は、アムンゼンにとって、黒歴史…
触れては、ならない、黒歴史だった…
「…オマエは、そこにいる、オスマンを、国王に、して、自分は、陰から、オスマンを操って、事実上の国王にならんとした…それを、見つかって、この日本に飛ばされた…そうだな…」
「…」
「…だが、オマエは、国王になることを、諦めて、なかった…権力を握ることを、諦めて、なかった…今回も、父や兄の争いを名目に、再び、国王になろうと、したんじゃ、ないのか?…」
私は、言った…
ずばりと、指摘した…
アムンゼンの顔色が、変わった…
それまでも、以前と、違って、真剣な表情になったが、それ以上に、真剣な表情になった…
「…どうなんだ? …アムンゼン? …答えてみろさ…」
私はアムンゼンを挑発した…
どう、返答するか、挑発した…
が、
その前に、
「…もう、いいんじゃない?…」
と、いう声が、どこからか、した…
私は、その声に聞き覚えがあった…
その声の主を知っていた…
私は、声のした方を振り返った…
そこには、リンダが、いた…
ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースが、いた…
「…もう、いいとは、どういうことだ? …リンダ…」
私は、聞いた…
「…もういいは、もういい…言葉通りよ…お姉さん…」
「…なんだと?…」
私は、言った…
言いながらも、どうして、このリンダが、突然、この現れたのか?
それを、考えた…
なぜなら、このアムンゼンの豪邸は、アムンゼンの屈強なボディーガードたちに、囲まれている…
だから、普通に考えれば、簡単に、ここまで、やって来れるわけがないからだ…
私は、考えた…
が、
その考えが、すぐに、間違いであることに、気づいた…
色仕掛けか?
と、気づいたのだ…
今、目の前にいるのは、リンダ・ヘイワースだが、いつもの、私といる、リンダ・ヘイワースではない…
まるで、映画で、見る、リンダ・ヘイワースそのものだった…
パンツが、見えそうな短いワンピースを着て、色気ムンムンだった…
オッパイも丸出し寸前だった…
これでは、アムンゼンの警備のボディーガードたちも、イチコロだったに、違いない…
絶世の美女が、色気ムンムンで、警備のボディーガードたちに、
「…お願い…ここを通して…」
と、でも、言いながら、お願いするのだ…
これでは、いかに、アムンゼンのボディーガードたちも、たまったものじゃない…
きっと、リンダに気に入られるために、喜んで、中に、入れたに違いないからだ…
そう、気づいたのだ…
だから、
「…アムンゼン…相変わらず、詰めが甘いな…」
と、アムンゼンに、言ってやった…
「…詰めが甘い?…どういう意味ですか? …矢田さん?…」
「…私には、このリンダがいるのさ…」
「…矢田さんには、リンダさんが、いる…それが、どうかしたんですか?…」
「…アムンゼン…オマエの私兵は、全員、男さ…筋肉ムキムキの屈強な男たちさ…」
「…それが、どうか、しましたか?…」
「…北風と太陽さ…アムンゼン…」
「…北風と太陽?…なんですか、いきなり?…」
「…北風と太陽の物語といっしょさ…」
「…なにが、いっしょなんですか?…」
「…北風と、太陽の物語の中では、旅人の上着をどっちが、先に脱がすことができるか、北風と太陽が、勝負する…北風は、北風を思いっきり、吹かせる…すると、旅人は、上着を飛ばされまいと、必死になる…だから、上着を脱がすことは、できない…」
「…それが、どうか、しましたか?…」
「…真逆に太陽を、照らすと、旅人は、暑くて、上着を脱ぎだす…それと、同じさ…」
「…どう、同じなんですか?…」
「…アムンゼンの私兵は、屈強な男たちさ…だから、力では、大抵の男は、勝てない…でも、色気には、弱い…ハリウッドのセックス・シンボルのリンダ・ヘイワースが、色気たっぷりに、頼めば、イチコロさ…」
私は、断言した…
断言したのだ…
そして、それは、眼前のアムンゼンにも、わかった…
「…なるほど…色気ですか?…」
アムンゼンが、力なく、呟いた…
「…それは、考えていませんでした…」
アムンゼンが、がっかりしたように、続けた…
「…たしかに、リンダさんの色気は、半端じゃありません…ボクの私兵たちも、リンダさんに、その姿で、色気たっぷりに、言い寄られれば、簡単に、この部屋まで、通すでしょう…」
アムンゼンが、力なく、言った…
「…どんな屈強な男も、リンダさんの色気の前には、形無しです…まるっきり、歯が立ちません…」
アムンゼンが、言った…
屈服したように、言った…
この言葉を聞いて、あらためて、このアムンゼンは、男…
30歳の立派な成人男子であることを、思い知らされた…
いかに、外見が、小人症で、3歳の幼児にしか、見えなくなくても、ホントは、30歳の成人男子であることを、思い知らされた…
なぜなら、このリンダの魅力が、わかるのは、成人男子に限られるからだ…
どんなことがあっても、3歳の幼児に、リンダの魅力がわかるわけがないからだ(爆笑)…
だから、あらためて、このアムンゼンが、立派な大人であることが、再認識された…
と、同時に、なぜ、このリンダが、いきなり、この場所に現れたか?
考えた…
私は、まずは、バニラを見た…
バニラとリンダは、仲がいい…
二人とも、仲がいい…
だから、バニラが、リンダに知らせた可能性が、高い…
それとも?
それとも、このリンダ・ヘイワースの持つセレブの情報網か?
そう、気づいた…
このリンダは、セレブの情報網を持っている…
あのイギリス王室のウィリアムズ皇太子を筆頭とする、セレブの情報網を持っている…
だから、その情報網を使って、ここにやって来たのか?
そう、思った…
そして、それを、考えたとき、以前、私が、太郎といっしょに、ネットカフェから出てきたときに、このリンダが、突然、現れたことを、思い出した…
あれは、もしかしたら、このリンダの持つ、セレブの情報網から、私の居場所を掴んだのかもしれんと、気づいたのだ…
あのとき、このリンダは、私が、
「…どうして、この場所が、わかった?…」
と、聞くと、
「…蛇の道は蛇ということよ…お姉さん…」
と、答えて、ごまかした…
それを、思い出した…
が、
当然、あのとき、私の居場所をリンダに知らせた人間が、いる…
問題は、それが、誰かと、いうことだ…
私は、考えた…
考えたのだ…
が、
私が、そんなことを、考えていると、リンダの後から、誰かが、入って来た…
高齢の大柄な男だった…
肌の黒さから、その男が、日本人でないことは、一目でわかった…
そして、その人物を一目見るなり、アムンゼンが、
「…パパ…」
と、叫んだ…




