35歳のシンデレラ 大道芸人編 78
「…安心して、私の元に預けることができただと? …どういう意味だ?…」
「…矢田さんは、優しい…矢田さんは、あったかい…矢田さんの元にいけば、きっと太郎を大事にしてくれると、思いました…」
「…」
「…動物は、敏感です…人間の子供といっしょです…簡単に正邪を見極める…とりわけ、この太郎は、頭がいい…いいひとには、簡単になつく…だから、矢田さんには、すぐになついた…思った通りです…」
「…殿下…私が、目的って、ホントなんでしょうか?…」
バニラが、聞いた…
きっと、ずっと前から、聞きたかったに違いない…
なにしろ、当事者だ…
聞きたいのが、当たり前だった…
「…それは…」
アムンゼンが、言葉に詰まった…
どう返答していいか、わからんかったに、違いない…
が、
そんなアムンゼンの態度が、バニラが、目当てだということの証明だった…
バニラが、目当てだという、偽りのない、本音だったのだ…
そして、そんなアムンゼンの態度を見て、ふと、気づいた…
もしや?
もしや?
このアムンゼン…
誰かのために、このバニラを欲したのでは、ないか?
ふと、そう思ったのだ…
自分は、バニラを欲しない…
が、
別の誰かが、バニラを欲している…
そう、思ったのだ…
だから、アムンゼンは、その誰かのために、このバニラの身柄を確保しようとしたのではないか?
そう、思った…
そして、そう、思いながら、バニラを確保することが、できなかったのではないか?
バニラを確保することを、ためらったのではないか?
そうも、思った…
なぜなら、バニラを確保するなら、とうに、バニラの身柄を拘束しているはずだからだ…
この豪邸に、バニラが、入った時点で、アムンゼンの私兵が、バニラの身柄を拘束すれば、良いだけだからだ…
バニラは、180㎝の大女…
おまけに、格闘技に精通している…
だから、強い…
けた外れに、強い…
が、
そんな、けた外れに、強い、バニラも、このアムンゼンの私兵には、叶わない…
一対一ならば、なんとかなるかも、しれんが、アムンゼンの私兵は、多い…
少なくても、二十名は、優に超えるだろう…
だとすれば、いかにバニラが、強くても、勝てん…
簡単に屈するに違いない…
が、
せんかった…
アムンゼンが、一言、配下の私兵に命じれば、バニラを簡単に確保できる…
が、
それを、せんかった…
やはり、その原因は、マリアか?
バニラの娘のマリアか?
私は、思った…
思ったのだ…
すると、だ…
マリアが、いきなり、
「…アムンゼン…アンタ…ママをどうにか、しようとしたの?…」
と、怒った…
怒ったのだ…
これは、娘のマリアにとっては、当然の反応だった…
が、
これも、当然のことだが、アムンゼンは、答えれんかった…
「…」
と、沈黙したままだった…
だから、代わりにというか…
母親のバニラが、オスマンを見た…
そして、
「…ちょっと、オスマン…どういうこと?…」
と、直球で、オスマンに聞いた…
これも、当たり前のことだった…
アムンゼンの甥のオスマンなら、すべて、知っているからだ…
「…答えなさいよ…」
バニラが、言った…
さすがに、アムンゼンには、言えんが、このオスマンには、言いやすいのだろう…
が、
これを、聞いたアムンゼンが、
「…オスマンに罪はない…ボクが、答えましょう…」
と、力なく、呟いた…
「…だったら、早く言いなさいよ…」
マリアが、怒った…
これも、当たり前だった…
「…すべては、父と兄の争いにあります…」
アムンゼンが、ゆっくりと、言った…
「…父と、兄の争いだと?…」
私は、言った…
「…どういうことだ?…そもそも、以前、オマエは、父と兄の争いを止めることができるのは、自分だけだと言っていたな…」
「…ハイ…言いました…」
「…それが、どうして、バニラと関係がある?…」
「…父は、バニラさんのファンなんです…」
「…なんだと?…」
私は、驚いた…
文字通り、驚いたのだ…
「…わ、私のファン? …殿下のお父様が?…」
「…そうです…」
アムンゼンが、力なく、答えた…
「…それで、私を、殿下のお父様に…」
と、バニラ…
が、
さすがに、それ以上は、言わんかった…
アムンゼンが、なにを、求めているか?
良く分かっているからだ…
だから、言わんかった…
まあ、大人の事情というヤツだ…
お子様のマリアのいる前では、聞かせれん話だった(笑)…
が、
そのマリアが、
「…アムンゼン…アンタ…ママを、アンタのパパに、なにか、しようとしたの?…」
と、聞いた…
直球で、聞いた…
さすがに、大人には、できんことを、直球で、聞いた…
聞いたのだ…
アムンゼンは、困った…
「…」
と、困って、答えれんかった…
だから、黙った…
「…」
と、無言で、いた…
そのアムンゼンの顔を、太郎が、
「…キー…」
と、鳴いて、手で撫でた…
まるで、アムンゼンを慰めるように、撫でた…
それゆえ、アムンゼンは、
「…太郎…オマエは、いつも、ボクに優しいな…」
と、呟いた…
「…太郎…オマエは、ボクの宝物だ…バニラさんが、マリアを宝物と思っているように…」
と、続けた…
「…だから、できなかった…バニラさんが、マリアを宝物と思っているのが、よくわかる…だから、そのマリアが、悲しむことは、できなかった…」
アムンゼンが、吐露する…
「…まるで、核兵器のボタンを押すように、できなかった…ボクが、一言、命じれば、別室に待機している、ボクの私兵たちが、バニラさんを、確保することは、簡単にできる…でも、命令が、下せなかった…まるで、核兵器の発射ボタンを、押すようなプレッシャーがあった…」
アムンゼンが、沈痛な表情で、語った…
が、
やはりというか…
バニラは、それでは、納得せんかった…
当たり前だ…
そもそも、なぜ、バニラの身を拘束せねば、ならんのか?
それが、わからんかったからだ…
だから、
「…どうして…どうして、私を?…」
と、バニラが、呟いた…
当たり前のことだ…
が、
さすがに、アムンゼンに食ってかかることは、できんかった…
相手が、偉すぎるからだ…
だから、食ってかかることは、できん…
それゆえ、バニラは、まるで、独り言を言うように、ボソボソと、呟いた…
そして、その言葉を聞いて、アムンゼンが、
「…バニラさんが、戸惑われるのは、当然です…」
と、口を開いた…
「…すべての発端は、父と兄のケンカにあります…」
「…殿下のお父様とお兄様のケンカ?…」
と、バニラ…
「…みっともない話ですが、父と兄のケンカの原因は、リンダさんと、バニラさんだったんです…」
「…エーッ! 私とリンダが原因? 一体、なに、それ?…」
「…驚かれるのも、無理はありません…ですが、事実です…」
「…私とリンダが、一体、どうしたと、言うの?…」
「…二人とも、お美しい…でも、どっちが、より美しいかで、父と兄が、ケンカになって…」
「…ハァー?…」
バニラが、言葉にならない言葉を発した…
なんて、答えていいか、わからんかったに違いない…
「…私とリンダが、どっちが、美しいか?
なに、それ?…バカじゃないの?…」
バニラが、呆れた…
当然のことだった…
あまりに、低次元というか…
ありえん話だったからだ(爆笑)…
だから、
「…殿下…ウソでしょ?…」
と、バニラが、聞き返した…
「…ウソじゃ、ありません…ホントです…」
アムンゼンが、答えた…
「…父も兄も、お二人のファンなんです…」
そう言われると、バニラは、どう返答して、いいか、わからんかった…
「…それが、あるとき、二人が、食事をしていて、どっちが、キレイか、口論になって…それが、原因で、大喧嘩になってしまったんです…」
アムンゼンの告白に、空いた口が、塞がらんかった…
まさに、まさか? だ…
あまりの低次元な争いの原因に、なんと言って、いいか、わからんかった…
ただ、当事者のバニラだけが、
「…ウソでしょ?…」
と、一言、呟いた…
当たり前のことだった…
「…ホントです…」
アムンゼンが、断言する…
「…そして、ボクは、その騒動を、どう収めようか、悩みました…二人とも、超がつく、頑固者…滅多なことでは、自分から、折れません…だから、困りました…だから、悩みました…そしたら?…」
「…そしたら? …なんだ?…」
私は、聞いてやった…
「…そしたら、ふと、閃いたんです…」
と、アムンゼンが、言った…




