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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ 大道芸人編  73

私は、どう答えて、いいか、わからんかった…


 それは、オスマンも、同じだった…


 このオスマンは、アムンゼンが、以前、国王の地位を狙って、クーデターを画策したことを、知っている…


 なにより、最初、このアムンゼンは、オスマンと、名乗っていた…


 つまりは、甥を演じていたわけだ…


 アムンゼンの父親である、前国王は、高齢なのだろう…


 そして、アムンゼンを産んだ、母親は、父親に比べて、はるかに、若いに、違いない…


 なぜなら、このアムンゼンと、オスマンの年齢は、ほとんど、変わらない…


 このアムンゼンは、30歳…


 オスマンも、また、それぐらいだ…


 が、


 オスマンのアムンゼンに、対する態度から、アムンゼンの方が、年上だと、考えられる…


 いかに、叔父と甥といえども、自分より、年下では、また対応も、違うと、思うからだ…


 また、なにより、前国王から、見れば、このアムンゼンと、オスマンは、子と、孫という立場…


 だから、繰り返すが、前国王は、高齢と思われる…


 なにしろ、自分の子供と、孫の年齢が変わらないのだ…


 だから、普通に考えれば、母親が、違う…


 要するに、アムンゼンの母親と、オスマンの祖母は、違うということだ…


 私が、そんなことを、考えていると、マリアが、


 「…アムンゼン…アンタ、誰かを裏切ったことが、あるの?…」


 と、ずばり、直球で、聞いた…


 まさに、子供ならでは、だった…


 まさに、子供ゆえに、直球で、聞いた…


 これは、さすがに、大人には、できない…


 大人である、この矢田には、できんことだった(苦笑)…


 「…どうなの? …アムンゼン?…」


 と、マリアが、アムンゼンに尋ねた…


 いや、


 圧をかけた(爆笑)…


 なぜなら、マリアは、腕を組み、アムンゼンに、迫ったからだ…


 「…答えなさい!…」


 マリアが、命じた…


 が、


 アムンゼンは、答えんかった…


 いや、


 答えられなかったのかも、しれんかった…


 3歳のマリアに、以前、国王の地位を狙って、クーデターを画策したことなど、説明しても、理解できんからだ…


 だから、なにも、言わなかった…


 そして、そんなマリアの行動を見かねた母親のバニラが、


 「…マリア…いい加減にしなさい…」


 と、娘のマリアを叱った…


 「…殿下には、言えないことも、あるのよ…」


 「…どうして、言えないことなの?…」


 「…それは…」


 今度は、バニラが、言葉に詰まった…


 そして、助けを求めるように、バニラは、オスマンを見た…


 すると、今度は、オスマンが、当惑する番だった…


 オスマンとて、どう答えて、いいか、わからんかったからだ…


 だから、私は、助け船を出すことにした…


 「…マリア…相手が答えに、窮したら、それ以上、追及しちゃ、ダメさ…」


 「…どうして、ダメなの? …矢田ちゃん?…」


 「…相手が、答えないというのは、答えられないということだからさ…」


 「…どうして、答えられないの?…」


 「…それは、マリア…オマエの母親と、同じさ…」


 「…なにが、同じなの?…」


 「…マリアも、母親のバニラから、言われているだろ?…」


 「…なにを、言われているの?…」


 「…マリアの母親が、モデルのバニラ・ルインスキーだって、言っちゃ、ダメだって…」


 私が、言うと、マリアが、黙った…


 答えられんかったのだ…


 「…それと、同じさ…」


 私が、断言した…


 すると、バニラが、


 「…お姉さん…スイマセン…」


 と、私に言った…


 だから、


 「…別に、バニラ…オマエが、謝ることじゃ、ないさ…」


 と、私は、バニラに言った…


 「…今、言ったのは、あくまで、例えさ…ただ、オマエを例に出しただけさ…」


 私が、言うと、バニラが、


 「…」


 と、黙った…


 そして、なぜか、この場の空気が、一気に、冷えたというか…


 凍った(苦笑)…


 今の発言で、あらためて、このバニラが、マリアの母親だということ…


 そして、バニラが、人妻で、あることが、わかったからだった…


 なにか、このバニラとオスマンが、いい雰囲気になりかけたところで、一気に、現実に戻ったというか…


 あらためて、現実に引き戻された(笑)…


 だから、ついさっきまでの、バニラとオスマンのいい雰囲気が、一気に、吹き飛んだ…


 そういうことだ…


 そして、そんな空気が、凍った場で、このアムンゼンが、あらためて、


 「…ひとを、裏切っては、いけません…」


 と、繰り返した…


 すると、オスマンが、


 「…オジサン…その話は…」


 と、制した…


 あえて、この場で、その話をする必要は、ないと、言いたいのだろう…


 「…いや、ぜひ、言っておきたいんだ…」


 アムンゼンが、言った…


 「…ボクが、生きているのは、すべて、父である、サウジアラビアの前国王と、兄である、現国王のおかげなのだから…」


 と、言って、アムンゼンが、切り出した…


 「…矢田さん…」


 「…なんだ?…」


 「…ひとを、裏切っては、ダメです…」


 アムンゼンが、繰り返した…


 「…どんなに、誠実で、信頼できると、周囲に思われている人間でも、過去に、一度でも、ひとを裏切れば、一生、そのことを、周囲から、言われます…」


 アムンゼンが、しみじみ、言った…


 「…ひとの信頼を得ることは、大変です…例えて、言えば、富士山に、登るようなものです…」


 「…富士山だと? …どういう意味だ?…」


 「…富士山の五合目、六合目まで、登って、初めて、信頼を得られるというか…信頼を富士山に例えれば、五合目、六合目まで、登るように、信頼を積み重ねることで、初めて、周囲から、信頼を得られます…」


 「…」


 「…ですが、一度でも、裏切れば、その信頼も、あっけなく、消滅します…」


 「…」


 「…ボクが、富士山に例えたのは、そういうわけです…信頼をいくら積み重ねても、一度でも、裏切れば、その信頼も、消滅します…富士山に例えれば、頂上近く登っても、あっけなく、真下に転げ落ちます…」


 アムンゼンが、言った…


 実に、シミジミと、言った…


 私は、どう言っていいか、わからんかった…


 そして、それは、バニラも、オスマンも、同じだった…


 二人とも、黙りこくった…


 なんて、言っていいか、わからんかったに違いない…


 だから、黙った…


 そして、それは、同時に、この車内に、不気味な沈黙が、訪れたことを、意味した…


 正直、息をするのも、辛いような沈黙だった…


 だから、困った…


 この矢田も、バニラも、オスマンも、困った…


 そして、この不気味な沈黙を招いたアムンゼンは、そのことに、気付いた…


 自分が、原因であることに、気付いた…


 だから、


 「…スイマセン…こんな話をして…」


 と、私とバニラに詫びた…


 おそらく、オスマンとマリアには、詫びてない…


 オスマンは、甥…


 アムンゼンの甥だ…


 だから、詫びてない…


 すでに、アムンゼンが、今、話したことを、知っているからだ…


 同時に、マリアは、子供だから、マリアにも、詫びていない…


 3歳のマリアには、今、アムンゼンが、話した内容が、難し過ぎるからだ…


 だから、詫びてない…


 が、


 困った…


 この沈黙をどうして、いいか、困った…


 私が、そんなことを、考えていると、アムンゼンが、


 「…だから、ボクは、父と、兄に、恩があります…だから、今回の父と兄の争いを止めなければ、ならない…」


 と、力強く、言った…


 「…そして、それが、できるのは、ボクだけ…アラブの至宝と呼ばれたボクだけなんです…」


 アムンゼンが、激白した…


 アムンゼンが、吐露した…


 自分の思いを吐き出した…


 すると、だ…


 「…だったら、やんなさいよ…アムンゼン…」


 と、マリアが、いきなり、言った…


 これには、驚いた…


 途端に、マリアに視線が集まった…


 みんなの視線が、集まった…


 が、


 マリアは、子供…


 皆の注目が、集まったにも、かかわらず、その視線を気にすることは、なかった…


 大人には、できんことだった(笑)…


 少なくても、この矢田には、できんことだった(爆笑)…


 「…アムンゼン…アンタにしか、できないことでしょ? …だったら、やんなさいよ…」


 マリアが、続けた…


 が、


 さすがに、


 「…マリア…言葉を慎みなさい…」


 と、母親のバニラがたしなめた…


 「…殿下に向かって、不敬よ…」


 「…不敬ってなに?…」


 「…礼を失していること…」


 「…礼って、なに?…」


 「…とにかく、マリア…殿下は、お偉い方なの…マリアとは、身分が、違うの…」


 バニラが、言った…


 が、


 そのバニラを、真逆に、アムンゼンが、たしなめた…


 「…いいんですよ…バニラさん…」


 アムンゼンが、言う…


 「…ですが、殿下…」


 「…いえ、マリアは、これで、いいんです…」


 「…これで、いいって?…」


 「…ボクの身分など、気にしなくていい…」


 「…ですが…」


 「…ボクは、マリアと出会って、幸せです…」


 「…幸せ?…」


 「…サウジにいるときは、ボクの身分を考慮して、みんなボクに、遠慮していました…ですが、日本で、今の保育園に通って、誰もボクに、遠慮しません…皆、子供だからです…ですが、それが、嬉しい…」


 「…」


 「…なにより、みんな子供だから、性格に裏表が、ない…打算もない…だから、それが、嬉しい…」


 「…」


 「…ボクは、つくづく、この日本に来て、保育園に入って、良かったと、思います…マリアに会えて、良かったと思います…」


 「…殿下…」


 と、バニラ…


 「…そして、矢田さんにも…」


 …なんだと?…


 …なぜ、そこで、私の名前が出る?…


 「…矢田さんは、あったかい…実に、あったかい…矢田さんが、いることで、周囲の人間が、明るくなる…楽しくなる…まさに、稀有の人柄です…」


 アムンゼンが、しんみりと言った…


 が、


 それを、聞くや、


 「…当り前よ…アムンゼン…」


 と、マリアが、アムンゼンに言った…


 「…矢田ちゃんは、楽しいの…矢田ちゃんは、面白いの…だから、矢田ちゃんを好きなの…」


 マリアが、大きな声で、言った…


 すると、だ…


 バニラとオスマンが、


 「…プッ…」


 と、吹き出した…


 それを、見て、私は、頭にきた…


 マリア…許すまじ!


 マリア・ルインスキー…許すまじ!


 私の中で、再び、マリアに対する怒りに、火が点いた…


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