35歳のシンデレラ 大道芸人編 74
が、
すでに、言ったように、この場で、マリアを叱ることは、できん…
アムンゼンとバニラの目があるからだ…
だから、出来ん!…
出来んのだ!…
私が、悩んでいると、アムンゼンが、
「…矢田さん、バレバレですよ…」
と、私に声をかけてきた…
「…なにが、バレバレなんだ?…」
「…矢田さん…マリアを叱ろうと思っているでしょ?…」
「…なんだと?…」
「…ごまかさなくても、わかります…」
「…なにが、わかるんだ?…」
「…今、マリアを、凄い目で、睨んでいたでしょ?…」
「…」
「…といっても、矢田さんのことです…マリアに対して、たいしたことは、しないでしょ? …せいぜい、当分の間、遊ばないことぐらいです…」
アムンゼンが、断言した…
ずばり、この矢田の心の中を見抜いた…
見抜いたのだ…
そう、言われると、どうして、いいか、わからんかった…
自分でも、どう対応していいか、わからんかった…
わからんかったのだ…
実は、この矢田トモコ…
アムンゼンの言う通り、たいしたことは、できんかった(涙)…
マリアを叱ろうとは、思ったが、やはり、3歳の子供相手に、35歳の矢田トモコが、本気で、怒るのは、大人げない…
だから、せいぜい、当面の間、マリアとは、遊んでやらん!…
と、思ったのだ…
が、
このアムンゼンは、呆気なく、それを、見抜いた…
やはり、アラブの至宝…
ただ者では、ないのかも、しれんかった(笑)…
が、
それを、聞いたマリアが、
「…矢田ちゃん、マリアと遊んでくれないの?…」
と、いきなり、叫んだ…
私は、どう答えていいか、わからんかった…
「…そうさ…遊んでやらんさ…」
と、いうのが、私の回答だが、それを、口にすれば、アムンゼンの言葉を認めることになる…
この矢田が、3歳のマリア相手に、激怒したことを、認めることに、なるからだ…
だから、困った…
困ったのだ…
すると、だ…
それまで、存在を忘れていた太郎が、いきなり、アムンゼンの前に行き、アムンゼンの口を、自分の手で塞いだ…
私は、驚いた…
驚いたのだ…
が、
アムンゼンは、怒ることは、なかった…
黙って、太郎の手を握って、
「…そうですか?…言い過ぎましたか?…これは、失礼しました…」
と、太郎に、詫びた…
そして、
「…太郎さん…ありがとうございます…」
と、アムンゼンは、太郎に礼を言った…
このアムンゼンは、太郎に優しい…
実に、優しい…
何度もいうように、小人症のアムンゼンは、太郎に自分を投影しているのだろう…
太郎は、優れているが、猿…
所詮は、猿に過ぎない…
それと同じで、このアムンゼンもまた、いかに優れた頭脳の持ち主でも、所詮は、小人症…
外見は、3歳にしか、見えない…
だから、同病相哀れむではないが、アムンゼンは、太郎に優しい…
そういうことだ…
が、
そんな太郎を見て、またしても、マリアの顔色が、変わった…
明らかに、気分が、悪くなったようだ…
その様子を見た、バニラが、慌てた…
「…どうしたの? …マリア?…」
と、慌てた…
が、
そんなバニラを見て、オスマンが、
「…その猿のせいだろう…」
と、冷静に指摘した…
「…さっきも、そうだが、このマリアは、猿が苦手だ…今も、さっきと同じように、この猿が、叔父さんの口を塞いだ…だから、だろう…」
「…そんな…」
バニラが。力なく、答える…
「…誰もが、苦手なものは、ある…問題は、それを、どうやって、克服するか、だ…」
「…」
「…この猿は、利口だ…驚くほど、頭がいい…きっと、この猿が、いつか、マリアを助けてくれるかも、しれない…」
「…マリアを、助けて?…」
「…もちろん、そう、思っただけだ…別段、深い理由はない…」
オスマンが、慌てて言った…
が、
私には、実に、意味深に聞こえた…
たしかに、太郎は、驚くほど、利口だ…
ハッキリ、言えば、猿にしておくのが、惜しい…
それほど、頭がいい…
が、
太郎が、マリアを助けると、なると、話は、別だ…
そもそも、どうやって、太郎が、マリアを助けるというのか?
それが、謎だった…
もちろん、このオスマンが、なにげなく、言ったに過ぎんかも、しれんが、謎だったのだ…
私たちが、そんなことを、考えている間にも、クルマは、走り続けた…
いつのまにか、走っていたのだ…
私たち、いや、私は、会話に夢中になり、クルマが、走っていることすら、すっかり、忘れていた…
そして、やがて、アムンゼンの豪邸に着いた…
以前、一度だけ、来たことがある、アムンゼンの豪邸に着いた…
私は、一度、来ただけだが、やはりというか…
その豪邸に、あらためて、驚いた…
が、
初めて、見る、バニラや、マリアは、もっと、驚いた…
当たり前だ…
「…凄い…お屋敷…」
バニラが、絶句した…
すると、隣にいる、オスマンが、
「…オイルマネーの力だ…」
と、笑った…
その言葉を、聞いて、バニラが、無言で、頷いた…
その通りだと、思ったのだろう…
が、
それは、マリアには、通じんかった…
3歳のマリアには、通じんかったのだ…
「…オイルマネーって、なに?…」
と、聞いた…
誰にともなく、口にしたのかも、しれんかった…
「…石油の力さ…マリア…」
アムンゼンが、答える…
「…石油の力?…」
「…今、乗って来たクルマもガソリンで走る…元は、原油といって、それが、ボクの国では、たくさん出る…それで、ボクも、こんな凄い家に住めるんだ…」
「…これって、アムンゼンの家なの?…」
マリアが、驚いた…
「…そうだ…」
「…アムンゼン…アンタ…大人だけれども、子供にしか見えないカラダだから、こんな大きな家は、いらないんじゃないの?…」
もっともな、言い分だった…
だが、それを、口にすることは、できんかった…
また、笑うことも、できんかった…
だから、困った…
困ったのだ…
すると、
「…ママのように、カラダが、大きければ、必要かも、しれないけれど…」
マリアが、続ける…
それを、聞いて、間髪入れず、オスマンが、
「…オレも、この家に住んでいるんだ…」
と、言った…
「…オスマンも、この家に?…」
「…オレも、マリアのママと同じく、カラダが、デカいから、家は、デカい方が、いい…だからさ…」
「…そうなんだ…」
マリアが、オスマンの言葉に、納得した…
すると、ホッとしたように、バニラは、オスマンを、見た…
「…ありがとう…オスマン…」
「…別に、ホントのことを、言っただけだ…」
オスマンが、ぶっきらぼうに、答える…
私は、それを、聞いて、それが、ホントか、ウソかは、わからんと、思った…
たしかに、このオスマンは、現国王から、オスマンの監視を命じられている…
だから、いっしょに、住むのは、都合が、いいが、それが、ホントか、どうかは、わからない…
監視される、アムンゼンが、嫌がる可能性が、高いからだ…
だから、それが、ホントか、ウソかは、わからない…
が、
いずれにしても、その言葉が、マリアを納得させたのは、確かだった…
「…オスマンも、この家に住んでいるんだ?…」
と、マリアが、聞く…
「…そうだ…」
「…たしかに、カラダが、おっきいから、家もおっきい方が、便利だね…」
「…その通りだ…」
「…なんだ…そうだったんだ…」
マリアが、納得する…
「…でもな、マリア…」
オスマンが、続ける…
「…大は小を兼ねるということわざが、この日本にあるそうだ…」
「…大は小を兼ねる…」
「…大きければ、小さいものも、兼ねるということだ…」
「…どういう意味?…」
「…例えば、そうだな…その猿だ…」
「…この…お猿さん…」
「…そうだ…」
「…このお猿さんが、どうしたの?…」
マリアが怯えながら、言った…
太郎が、怖いのは、明らかだった…
「…マリアが、その猿の家を作るとする…そしたら、小さな家になるだろ?…」
「…ウン…」
「…その猿のカラダの大きさに合わせるから、当然だ…でもだ?…」
「…でも、なに?…」
「…その小さな家に、このオレや、マリアのママは、住むことは、できないだろ? …カラダが、大きすぎる…」
「…」
「…でも、真逆に、大きな家なら、この猿も、オレも、マリアのママも住むことができる…そうだろ?…」
「…ウン…」
「…つまり、それが、大が小を兼ねるということさ…大きければ、カラダが、ちっちゃくても、おっきくても、住める…だから、便利だ…」
オスマンが、マリアに説明した…
なぜ、こんな大きな家に、小さなカラダのアムンゼンが、住むのか、うまく、納得させた…
それを、聞いて、実に、ウマい説明だと、思った…
が、
アムンゼンは、そうは、思わなかったらしい…
明らかに、怒った顔で、オスマンを見ていた…
やはり、自分のカラダにコンプレックスがあるのだろう…
それを、他人に指摘されるのなら、まだしも、身内の人間に指摘されるのは、嫌に違いない…
「…さあ、中に入りましょう…いつまでも、ここにいても、仕方がない…」
ぶっきらぼうに、アムンゼンが、呟いた…




