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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ 大道芸人編 59

「…なあ、葉尊…」


 翌朝、私は、葉尊に言った…


 「…なんですか? …お姉さん?…」


 葉尊が、返答する…


 「…葉尊…オマエの裏の顔が見てみたい…」


 と、ホントは、言いたかったが、さすがに、言えんかった…


 だから、


 「…今朝の食事は、ウマいな…葉尊…」


 と、当たり障りのない、話題をした…


 すると、葉尊は、笑みを浮かべ、


 「…お姉さんは、料理がうまいです…」


 と、私を褒めた…


 だから、私は、つい、調子に乗って、


 「…当り前さ…私は、なんでも、できる女さ…」


 と、言ってから、


 「…なっ、太郎…」


 と、太郎にも、声をかけた…


 太郎は、私と葉尊から、少し離れた場所で、食事をしていた…


 ホントは、私と葉尊と同じテーブルで、食事をしても、良いのだが、葉尊が、嫌がると、思ったのだ…


 だから、太郎だけ、少し離れた場所で、食事をしていた…


 そして、太郎は、私の声に反応して、


 「…キー…」


 と、鳴いた…


 そして、嬉しそうに、私の方を見た…


 私は、嬉しかった…


 実に、嬉しかった…


 太郎が、私を嬉しそうに、見たからだ…


 そして、そんな私を見て、葉尊が、


 「…お姉さんは、実に、あの猿が、好きなんですね…」


 と、実感を込めたように、言った…


 私は、即座に、


 「…当り前さ…」


 と、答えた…


 「…自分を好きになってくれれば、誰もが、嬉しいだろ? それは、人間も猿も、いっしょさ…」


 「…人間も、猿も、ですか?…」


 「…そうさ…太郎が、猿じゃなく、犬や猫でも、同じことさ…自分が、犬からでも、猫からでも、好かれていれば、気持ちがいいものさ…」


 私が、言うと、葉尊が、考え込んだ…


 考え込んで、食事をする手を休めた…


 「…どうした? …葉尊?…」


 私が、聞くと、葉尊が、


 「…お姉さんというひとは、つくづく、誰からも、好かれますね…」


 と、ひどく実感を込めた言い方だった…


 「…羨ましい…実に、羨ましい…」


 と、おおげさに、首を横に振って、言った…


 が、


 私は、葉尊の気持ちが、わからんかった…


 私にとっては、いつものことだったからだ…


 だから、


 「…そうか? …葉尊…私には、いつものことだが…」


 と、言った…


 事実、いつものことだった…


 なぜか、この矢田は、好かれた…


 それは、人間も、そうだが、動物にも、だ…


 なぜか、わからんが、好かれた…


 犬や猫でも、大抵は、すぐに仲良くなった…


 なぜか、わからんが、私になついた…


 だから、太郎が、私になついたのも、わかると、言えば、わかる…


 が、


 さすがに、身近に猿は、いなかった…


 だから、戸惑った…


 が、


 太郎が、猿だということを、除けば、いつものことだった…


 いつものことだったのだ…


 すると、


 「…お姉さんが、羨ましい…実に、羨ましい…」


 と、葉尊が、続けた…


 何度も、繰り返し、続けた…


 私は、それを、見て、なんと言っていいか、わからんかった…


 なんと、答えて、いいか、わからんかった…


 すると、


 「…きっと、お姉さんが、この猿にも、好かれるのは、お姉さんの本性が、この猿には、わかるからでしょ…」


 と、葉尊が、悔し気に言った…


 「…私の本性?…」


 「…そうです…動物は、人間以上に、敏感です…日本でも、動物的直観という言葉が、あるでしょ? つまりは、人間なのに、動物並みに、直観が優れているということでしょ?…」


 葉尊が、うまく説明する…


 私は、そんなものかと、思った…


 が、


 褒められて、嬉しくないわけはない…


 だから、


 「…いつものことさ…葉尊…気にするな…」


 と、声をかけた…


 「…いつものこと?…」


 「…私は、なぜか、好かれるのさ…でもな、葉尊…」


 「…なんですか? …お姉さん?…」


 「…それで、得をしたことは、ないさ…」


 「…得をしたことはない? …どうして、ですか?…」


 「…たしかに、私は、ひとに好かれるかも、しれんさ…でもな、葉尊…」


 「…なんですか? …お姉さん?…」


 「…私は、就職もできんかったさ…」


 「…それは、以前、聞きました…でも、それが、なにか? 日本の景気が悪かったから、仕方がないことじゃ、ないんじゃないですか?…」


 「…そう言われば、そうだが、私が一目見て、そんなに好かれるなら、いかに、景気が悪くても、私を採用したはずさ…」


 「…」


 「…それから、私は、就職がうまくいかなかったものだから、派遣や、バイト、契約社員で、食いつないできたさ…でもな、葉尊…」


 「…ハイ…なんでしょうか?…」


 「…派遣か、バイトで、入った会社で、正社員にならないかと、誘われた経験は、ほとんど、なかったさ…」


 「…なかった? …お姉さんが?…」


 「…実際には、あったさ…でも、それは、正直、職場の居心地が悪かったり、仮に、職場の居心地が、良くても、会社の待遇が悪かったり、会社の規模が、小さかったり、ろくでもない会社だったさ…」


 「…」


 「…だから、私は、好かれるかも、しれんが、それほどでも、なかったさ…ホントに、好かれてるのなら、どこの会社でも、社員にならないかと、誘われたはずさ…それが、ないのが、私が、それほど、好かれてない証拠さ…」


 「…」


 「…もちろん、仕事の適性もあるさ…でも、私は、仕事ができんわけじゃ、なかったさ…もちろん、優れているわけでも、なかったさ…いうなれば、人並み…平凡…平凡の極みさ…だから、正社員にならないかと、誘われることも、なかったんだと、今になってみれば、思うさ…」


 私が、言うと、葉尊が、考え込んだ…


 なにやら、ジッと、考え込んだ…


 「…どうした? …葉尊? 私が、なにか、おかしなことでも、言ったか?…」


 「…いえ…」


 葉尊が、おおげさに、首を横に振った…


 「…だったら、なんだ? …なにを考えていた?…」


 「…お姉さんのことです…」


 「…私のこと?…」


 「…お姉さんは、自分を偽らない…」


 「…なんだと? …どういう意味だ?…」


 「…ボクは、自分で言うのも、おかしいですが、台湾の台北筆頭の創業社長、葉敬の息子に生まれ、今、日本の総合電機メーカー、クールの社長をしています…」


 「…それは、わかっているさ…」


 「…いえ、お姉さんは、わかっていません…」


 「…なんだと? …わかってないだと?…」


 「…そうです…」


 「…だったら、なにが、わかってないと言うんだ?…」


 「…お姉さんは、少しも、自分を大きく見せない…」


 「…私が、自分を、大きく見せないだと?…なぜ、私が、自分を大きく見せなければ、ならん?…」


 「…ボクは、さっきも言いましたが、台湾の大企業の創業社長の息子で、日本の総合電機メーカーの社長です…」


 「…それは、わかっているさ…」


 「…いえ、わかってません…わかっていれば、お姉さんは、少しは、自分を大きく見せようとするものです…」


 「…どうして、大きく見せようとする必要がある?…」


 「…こんなことを、言うのは、お姉さんに失礼かも、しれませんが、お姉さんは、日本の言葉で、言えば、玉の輿に乗ったわけです…だから、いかに、自分が、優れているか、熱弁しても、いいと、思います…」


 葉尊が、熱を込めた口調で言った…


 私は、内心、驚いた…


 驚いていた…


 葉尊が、私に対して、そんなことを、言ったのは、初めてだったからだ…


 だから、驚いた…


 と、同時に、初めて、葉尊の人間性というか…


 葉尊の隠れた性格の一端を見た気がした…


 葉尊が、普段、あまり表に出さない性格の一端を見た気がした…


 だから、


 「…葉尊…オマエの言うことは、わかるさ…」


 と、言った…


 「…でしょ?…」


 「…でも、そんなことを、しても、ダメさ…」


 「…どうして、ダメなんですか?…」


 「…メッキは、簡単に剥がれるさ…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…会社で言えば、経歴を詐称して、入社するのと、いっしょさ…例えば、東大を出たといって、入社したとするさ…でも、いっしょに仕事をしてみれば、コイツ、ホントに、東大を出たのか? と、すぐにわかるさ…」


 「…そんなに簡単にわかるものですか?…」


 「…わかるさ…東大は、言い過ぎだが、例えば、早稲田や慶応を出ているのに、簡単な英語ができなかったり、数学ができなかったりすれば、誰もが、怪しむものさ…それと、同じで、なんとなく、わかるものさ…早稲田を出ていると言っているのに、会社で、よく話す、親しい同僚は、高卒出身だったり、大学でも、それほど、偏差値の高い大学の出身じゃなかったりすれば、おかしいだろ? …普通は、頭が、同じレベルの人間同士、集まるものさ…」


 私は、言った…


 力強く、言った…


 「…だから、私は、自分を大きく見せようとしないのさ…」


 「…」


 「…いかに、自分を大きく見せようとしても、簡単にバレるものさ…そして、ウソが簡単にバレれば、アイツは信用できないと、周囲から、言われるものさ…だから、私は、小さなウソは、ついたことは、あるが、大きなウソは、ついたことがないのさ…」


 私が、言うと、葉尊が、またも、考え込んだ…


 なにやら、考え込んで、しばらく、口を利かんかった…


 難しい顔で、しばらく、考えこんでいた…


 「…だから、ですね…」


 葉尊が、納得したように、言った…


 「…お姉さんは、自分を、偽らない…自分を大きく見せない…だから、好かれる…だから、信用される…」


 葉尊が、考えながら、一つ一つ、言葉を選びながら、言った…


 「…正直、お姉さんが、羨ましい…実に、羨ましい…」


 と、言いながら、一枚の紙を差し出した…


 「…今日の昼間…会社で、秘書から、この紙を見せられました…」


 「…この紙だと?…」


 「…わが社にメールが、送られてきて、それを、紙に印字して、秘書が、ボクに、差し出しました…」


 「…メールだと? 一体、なにが、書いてあるんだ?…」


 「…お姉さんに、お会いしたいと?…」


 「…私に会いたいだと? …誰が、私に会いたいと言うんだ?…」


 「…サウジアラビア前国王…モハメッド・シンプソン氏です…」


 葉尊が、仰天の事実を言った…


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