35歳のシンデレラ 大道芸人編 55
まったく、この葉問は、ウマいことを、言う…
実に、ウマいことを、言う…
私は、思った…
イケメンで、口も、ウマい…
しかも、ケンカも強くて、頼りがいがある…
これでは、女にモテないはずがない(笑)…
私は、思った…
思ったのだ…
同時に、これでは、まるで、男版のリンダだ…
リンダ・ヘイワースだ…
あのハリウッドのセックス・シンボルだ…
と、気付いた…
そう言えば、あのリンダは、この葉問が、好きだった…
この葉問に、恋をしていた…
私は、今さらながら、それを思い出した…
だから、
「…葉問…」
と、言った…
「…なんですか? …お姉さん?…」
「…リンダは、どうするんだ?…」
「…どうすると、言うと?…」
「…リンダが、オマエが好きなのは、知っているだろ? …オマエは、それを、どう思うんだ?…」
「…どう、思うと、言われても…」
「…オマエは、モテる…それをいいことに、あっちの女、こっちの女と食い散らかす…リンダも、その一人というわけか?…」
「…それは、お姉さんのご想像に、お任せします…」
葉問が、ディーン・フジオカのように、爽やかに、答える…
「…私の想像だと?…」
「…そうです…」
…ウマい…
…実に、ウマい…
この葉問、肝心のことは、答えん…
うまく、はぐらかす…
この矢田の誘導尋問にも乗らん…
これは、やはり、この矢田の敵う相手では、ないかも、しれん…
ふと、気付いた…
この平凡な矢田トモコの敵う相手では、ないかも、しれん…
まあ、所詮は、この葉問は、幻…
実際に、存在せん…
葉尊の肉体を使った、もうひとつの人格に、過ぎん…
いわゆる、多重人格のひとつに過ぎん…
だから、こんな幻に、この矢田トモコが、振り回されるのも、おかしなことかも、しれん…
なにしろ、ホントは、存在しない…
実在しない人間相手に、実在する、この矢田トモコが、アレコレ、言うのは、死んだ人間に、なにか、言うのと、同じこと…
それを、思えば、バカバカしいというか…
アレコレ、葉問に、この矢田が言うのは、おかしなことだと、気付いた…
なにしろ、実在しない人間だ…
極端な話、空気か、なにかを、殴るようなもの…
変な話、テレビやパソコンのモニターに映った相手を、真剣に、思いっきり、殴りつけようとするのと、同じだからだ…
そして、それを、考えたときに、リンダのことを、思い出した…
リンダも、また、ホントは、存在しない…
なぜなら、リンダ・ヘイワースは、自称、性同一性障害…
カラダは、女だが、心は、男というやつだ…
だから、存在しない…
ハリウッドのセックス・シンボルは、カラダは、女でも、中身は、男では、存在しないということだ…
セックス・シンボルは、カラダも、心も、女でなければ、ならない…
変な話、その美貌を武器に、男相手に、自分を売り込み、男を利用して、社会で、成功する…
それが、セックス・シンボルのあるべき姿というものだ(笑)…
が、
リンダには、それが、できん…
カラダは、女だが、心は男だから、できんのだ…
なにより、リンダは、処女だと、以前、聞いた…
ハリウッドのセックス・シンボルが、処女?
ありえん話だ(爆笑)…
だが、リンダは性同一性障害だと、聞けば、それも、納得できる…
カラダは、女でも、心が男のリンダが、男と寝るというのは、ありえん話だからだ…
それは、一般の成人男子に当てはめれば、わかる…
それは、男に男と寝ろ! というのと、同じ…
だから、リンダは、男と寝ることが、できん…
だから、処女…
29歳にも、かかわらず、処女だ…
そう言われば、納得する…
実に、納得する…
そして、リンダと、この目の前の葉問は、同じ穴のムジナというか…
共に、実在しない…
だから、互いに、シンパシーがあるというか…
要するに、互いに、同類だから、仲がいいというか…
共にホントは、実在しない同士だから、仲がいいと、この矢田は、思っている…
だから、ホントは、リンダが、この葉問を好きというのも、一般的な恋愛とは、ちょっとばかり、違うかも、しれん…
いわゆる、単純な男と女との恋愛とは、ちょっと違う…
ある意味、同士というか…
ホントは、実在しない同士、仲がいいのかも、しれん…
幻の存在同士、仲がいいのかも、しれん…
私は、そう思った…
そう、思ったのだ…
すると、葉問もまた、なにか、考え込んでいるようだった…
だから、
「…葉問…オマエ、今、なにを、考えている?…」
と、聞いてやった…
「…リンダのことです…」
と、葉問が、素直に言った…
「…リンダのことだと?…」
「…ハイ…」
「…リンダのなにを、考えていたんだ?…」
私は、直球で、聞いた…
「…なにを、考えていたといっても…」
曖昧に、言葉を濁した…
「…葉問…オマエは、リンダと仲がいいからな…」
と、私は、わざと、言った…
ずばり、皮肉を言ったのだ…
が、
この葉問に、その皮肉は、通じなかった…
「…ハイ…お姉さんの言う通り、リンダとは、仲がいいです…」
と、あっさりと、告白した…
「…だったら、リンダと、結婚すれば、いいさ…」
私は、わざと、言った…
すると、だ…
「…いいえ、リンダと、結婚はしません…」
「…どうしてだ? どうして、結婚しない? オマエは、ホントは、実在しないからか?…」
「…それも、あります…でも、それだけじゃ、ありません…」
「…だったら、他に、なにがある?…」
「…ボクと、リンダは、気が合うんです…」
「…気が合うだと?…」
「…そうです…これは、誰でも、あるでしょ? 男同士でも、女同士でも、同じ…男と、女の間でも、同じです…単に、気が合う…話が合う…それだけです…」
葉問が、リンダとの関係を説明する…
私は、それを、聞いて、今さらながら、この葉問が、初めて、自分とリンダとの関係を説明したと、思った…
この葉問と、リンダは、仲がいい…
誰が見ても、恋人か、夫婦に見える…
なにより、二人は、美男美女のお似合いのカップル…
二人が、並ぶと、実に、絵になる…
二人が、並ぶと、実にさまになる…
が、
二人のホントの仲は、わからん…
もしかしたら、二人とも、わからんかも、しれん…
なぜなら、一方は、こう相手を思っていても、もう一方は、そうは、思っていないかも、しれんからだ…
この葉問の言葉を信じれば、この葉問は、リンダと、ただ気が合うだけだと、言った…
が、
リンダに聞けば、違うことを、言うかも、しれん…
互いが、互いをどう思っているか、わからんからだ…
私は、思った…
だから、
「…葉問…それは、オマエの意見に過ぎないんじゃないか?…」
と、言ってやった…
「…ボクの意見に過ぎない? …どういう意味ですか?…」
「…リンダは、オマエに恋しているかも、しれんゾ…」
「…それは、ないでしょう…」
あっさりと、否定した…
「…どうして、わかる?…」
「…リンダは、性同一性障害…カラダは、女だが、心は、男です…だから、ボクも安心して、付き合っていられる…」
「…安心? どうして、安心なんだ?…」
「…ボクのカラダは、ボクのカラダじゃない…葉尊のカラダです…ボクは、葉尊にカラダを借りているに過ぎません…」
「…それが、安心と、どういう関係がある?…」
「…ボクが、リンダと関係するということは、葉尊が、リンダと関係するということです…カラダが、同じなんですから…」
「…だから、ダメだと言うのか?…」
「…そうです…ですが、それ以上に、もし、そんなことになれば、葉敬、葉尊、リンダ、そして、バニラのバランスが、崩れるかも、しれません…」
「…バランスだと?…」
「…ルパン三世が、いい例です…主人公のルパンは、峰不二子と、男女の関係が、あったり、なかったりしますが、他の二人、次元大介と石川五右衛門は、峰不二子と、なんの関係もありません…だから、あの4人は、仲がいい…チームでいられる…」
「…」
「…それと、同じで、もし、ボクが、リンダと関係すれば、葉敬、葉尊、リンダ、バニラの関係が、崩れるかも、しれません…だから、どんなことがあっても、リンダと、そんな関係には、ならないし、リンダもまた、それは、同じでしょう…ただでさえ、ギクシャクしかねない関係なのに…」
「…ギクシャクしかねない関係だと?…ウソを言うな!…」
「…ウソじゃ、ありません…ギクシャクしないのは、お姉さんが、いるからです…」
「…私が、いるから? だと?…」
「…お姉さん…考えて見て、下さい…」
「…なにを、考えるんだ?…」
「…葉尊は、29歳…バニラは、21歳です…」
「…それが、どうした?…」
「…自分の父親の愛人が、自分より、はるかに、年下では、関係が、微妙でしょ?…」
「…」
「…おまけに、バニラは、リンダをライバル視している…」
「…ライバル視だと?…バニラは、リンダを尊敬しているんじゃ、ないのか?…」
「…もちろん、尊敬は、しています…でも、リンダとバニラは、8歳も違います…バニラは、若い…だから、いずれ、リンダの今の地位を狙っているし、それを、リンダも、わかっている…だから、二人の関係も、また、微妙です…」
「…」
「…そして、葉敬…」
「…お義父さん?…」
「…葉敬は、以前、リンダに学費を提供していました…学時代は、リンダは父親が亡くなり、貧乏だったからです…だから、ずっと以前は、リンダに目をかけていました…男女の関係は、なかったですが、溺愛していた…でも、バニラが現れてからは、葉敬が、溺愛するのが、バニラに変わった…しかも、葉敬とバニラの間には、マリアも生まれた…だから、葉敬と、リンダ、バニラの関係も、また微妙です…」
…そんなことが?…
思っても、みんことだった…
だが、たぶん、それは、真実…
真実に違いない…
そして、そう考えれば、あの4人の関係は、微妙…
実に、微妙だ…
私は、気付いた…
私は、思った…
「…そして、そんな微妙な関係の4人の間に現れたのが、お姉さんです…」
「…私?…」
「…お姉さんは、誰にも、好かれます…あの4人も例外では、ありません…お姉さんが、やって来たことで、あの4人のギクシャクした関係も、治まった…」
葉問が、言った…
仰天の事実を言った…




