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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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55/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 55

まったく、この葉問は、ウマいことを、言う…


 実に、ウマいことを、言う…


 私は、思った…


 イケメンで、口も、ウマい…


 しかも、ケンカも強くて、頼りがいがある…


 これでは、女にモテないはずがない(笑)…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 同時に、これでは、まるで、男版のリンダだ…


 リンダ・ヘイワースだ…


 あのハリウッドのセックス・シンボルだ…


 と、気付いた…


 そう言えば、あのリンダは、この葉問が、好きだった…


 この葉問に、恋をしていた…


 私は、今さらながら、それを思い出した…


 だから、


 「…葉問…」


 と、言った…


 「…なんですか? …お姉さん?…」


 「…リンダは、どうするんだ?…」


 「…どうすると、言うと?…」


 「…リンダが、オマエが好きなのは、知っているだろ? …オマエは、それを、どう思うんだ?…」


 「…どう、思うと、言われても…」


 「…オマエは、モテる…それをいいことに、あっちの女、こっちの女と食い散らかす…リンダも、その一人というわけか?…」


 「…それは、お姉さんのご想像に、お任せします…」


 葉問が、ディーン・フジオカのように、爽やかに、答える…


 「…私の想像だと?…」


 「…そうです…」


 …ウマい…


 …実に、ウマい…


 この葉問、肝心のことは、答えん…


 うまく、はぐらかす…


 この矢田の誘導尋問にも乗らん…


 これは、やはり、この矢田の敵う相手では、ないかも、しれん…


 ふと、気付いた…


 この平凡な矢田トモコの敵う相手では、ないかも、しれん…


 まあ、所詮は、この葉問は、幻…


 実際に、存在せん…


 葉尊の肉体を使った、もうひとつの人格に、過ぎん…


 いわゆる、多重人格のひとつに過ぎん…


 だから、こんな幻に、この矢田トモコが、振り回されるのも、おかしなことかも、しれん…


 なにしろ、ホントは、存在しない…


 実在しない人間相手に、実在する、この矢田トモコが、アレコレ、言うのは、死んだ人間に、なにか、言うのと、同じこと…


 それを、思えば、バカバカしいというか…


 アレコレ、葉問に、この矢田が言うのは、おかしなことだと、気付いた…


 なにしろ、実在しない人間だ…


 極端な話、空気か、なにかを、殴るようなもの…


 変な話、テレビやパソコンのモニターに映った相手を、真剣に、思いっきり、殴りつけようとするのと、同じだからだ…


 そして、それを、考えたときに、リンダのことを、思い出した…


 リンダも、また、ホントは、存在しない…


 なぜなら、リンダ・ヘイワースは、自称、性同一性障害…


 カラダは、女だが、心は、男というやつだ…


 だから、存在しない…


 ハリウッドのセックス・シンボルは、カラダは、女でも、中身は、男では、存在しないということだ…


 セックス・シンボルは、カラダも、心も、女でなければ、ならない…


 変な話、その美貌を武器に、男相手に、自分を売り込み、男を利用して、社会で、成功する…


 それが、セックス・シンボルのあるべき姿というものだ(笑)…


 が、


 リンダには、それが、できん…


 カラダは、女だが、心は男だから、できんのだ…


 なにより、リンダは、処女だと、以前、聞いた…


 ハリウッドのセックス・シンボルが、処女?


 ありえん話だ(爆笑)…


 だが、リンダは性同一性障害だと、聞けば、それも、納得できる…


 カラダは、女でも、心が男のリンダが、男と寝るというのは、ありえん話だからだ…


 それは、一般の成人男子に当てはめれば、わかる…


それは、男に男と寝ろ! というのと、同じ…


 だから、リンダは、男と寝ることが、できん…


 だから、処女…


 29歳にも、かかわらず、処女だ…


 そう言われば、納得する…


 実に、納得する…


 そして、リンダと、この目の前の葉問は、同じ穴のムジナというか…


 共に、実在しない…


 だから、互いに、シンパシーがあるというか…


 要するに、互いに、同類だから、仲がいいというか…


 共にホントは、実在しない同士だから、仲がいいと、この矢田は、思っている…


 だから、ホントは、リンダが、この葉問を好きというのも、一般的な恋愛とは、ちょっとばかり、違うかも、しれん…


 いわゆる、単純な男と女との恋愛とは、ちょっと違う…


 ある意味、同士というか…


 ホントは、実在しない同士、仲がいいのかも、しれん…


 幻の存在同士、仲がいいのかも、しれん…


 私は、そう思った…


 そう、思ったのだ…


 すると、葉問もまた、なにか、考え込んでいるようだった…


 だから、


 「…葉問…オマエ、今、なにを、考えている?…」


 と、聞いてやった…


 「…リンダのことです…」


 と、葉問が、素直に言った…


 「…リンダのことだと?…」


 「…ハイ…」


 「…リンダのなにを、考えていたんだ?…」


 私は、直球で、聞いた…


 「…なにを、考えていたといっても…」


 曖昧に、言葉を濁した…


 「…葉問…オマエは、リンダと仲がいいからな…」


 と、私は、わざと、言った…


 ずばり、皮肉を言ったのだ…


 が、


 この葉問に、その皮肉は、通じなかった…


 「…ハイ…お姉さんの言う通り、リンダとは、仲がいいです…」


 と、あっさりと、告白した…


 「…だったら、リンダと、結婚すれば、いいさ…」


 私は、わざと、言った…


 すると、だ…


 「…いいえ、リンダと、結婚はしません…」


 「…どうしてだ? どうして、結婚しない? オマエは、ホントは、実在しないからか?…」


 「…それも、あります…でも、それだけじゃ、ありません…」


 「…だったら、他に、なにがある?…」


 「…ボクと、リンダは、気が合うんです…」


 「…気が合うだと?…」


 「…そうです…これは、誰でも、あるでしょ? 男同士でも、女同士でも、同じ…男と、女の間でも、同じです…単に、気が合う…話が合う…それだけです…」


 葉問が、リンダとの関係を説明する…


 私は、それを、聞いて、今さらながら、この葉問が、初めて、自分とリンダとの関係を説明したと、思った…


 この葉問と、リンダは、仲がいい…


 誰が見ても、恋人か、夫婦に見える…


 なにより、二人は、美男美女のお似合いのカップル…


 二人が、並ぶと、実に、絵になる…


 二人が、並ぶと、実にさまになる…


 が、


 二人のホントの仲は、わからん…


 もしかしたら、二人とも、わからんかも、しれん…


 なぜなら、一方は、こう相手を思っていても、もう一方は、そうは、思っていないかも、しれんからだ…


 この葉問の言葉を信じれば、この葉問は、リンダと、ただ気が合うだけだと、言った…


 が、


 リンダに聞けば、違うことを、言うかも、しれん…


 互いが、互いをどう思っているか、わからんからだ…


 私は、思った…


 だから、


 「…葉問…それは、オマエの意見に過ぎないんじゃないか?…」


 と、言ってやった…


 「…ボクの意見に過ぎない? …どういう意味ですか?…」


 「…リンダは、オマエに恋しているかも、しれんゾ…」


 「…それは、ないでしょう…」


 あっさりと、否定した…


 「…どうして、わかる?…」


 「…リンダは、性同一性障害…カラダは、女だが、心は、男です…だから、ボクも安心して、付き合っていられる…」


 「…安心? どうして、安心なんだ?…」


 「…ボクのカラダは、ボクのカラダじゃない…葉尊のカラダです…ボクは、葉尊にカラダを借りているに過ぎません…」


 「…それが、安心と、どういう関係がある?…」


 「…ボクが、リンダと関係するということは、葉尊が、リンダと関係するということです…カラダが、同じなんですから…」


 「…だから、ダメだと言うのか?…」


 「…そうです…ですが、それ以上に、もし、そんなことになれば、葉敬、葉尊、リンダ、そして、バニラのバランスが、崩れるかも、しれません…」


 「…バランスだと?…」


 「…ルパン三世が、いい例です…主人公のルパンは、峰不二子と、男女の関係が、あったり、なかったりしますが、他の二人、次元大介と石川五右衛門は、峰不二子と、なんの関係もありません…だから、あの4人は、仲がいい…チームでいられる…」


 「…」


 「…それと、同じで、もし、ボクが、リンダと関係すれば、葉敬、葉尊、リンダ、バニラの関係が、崩れるかも、しれません…だから、どんなことがあっても、リンダと、そんな関係には、ならないし、リンダもまた、それは、同じでしょう…ただでさえ、ギクシャクしかねない関係なのに…」


 「…ギクシャクしかねない関係だと?…ウソを言うな!…」


 「…ウソじゃ、ありません…ギクシャクしないのは、お姉さんが、いるからです…」


 「…私が、いるから? だと?…」


 「…お姉さん…考えて見て、下さい…」


 「…なにを、考えるんだ?…」


 「…葉尊は、29歳…バニラは、21歳です…」


 「…それが、どうした?…」


 「…自分の父親の愛人が、自分より、はるかに、年下では、関係が、微妙でしょ?…」


 「…」


 「…おまけに、バニラは、リンダをライバル視している…」


 「…ライバル視だと?…バニラは、リンダを尊敬しているんじゃ、ないのか?…」


 「…もちろん、尊敬は、しています…でも、リンダとバニラは、8歳も違います…バニラは、若い…だから、いずれ、リンダの今の地位を狙っているし、それを、リンダも、わかっている…だから、二人の関係も、また、微妙です…」


 「…」


 「…そして、葉敬…」


 「…お義父さん?…」


 「…葉敬は、以前、リンダに学費を提供していました…学時代は、リンダは父親が亡くなり、貧乏だったからです…だから、ずっと以前は、リンダに目をかけていました…男女の関係は、なかったですが、溺愛していた…でも、バニラが現れてからは、葉敬が、溺愛するのが、バニラに変わった…しかも、葉敬とバニラの間には、マリアも生まれた…だから、葉敬と、リンダ、バニラの関係も、また微妙です…」


 …そんなことが?…


 思っても、みんことだった…


 だが、たぶん、それは、真実…


 真実に違いない…


 そして、そう考えれば、あの4人の関係は、微妙…


 実に、微妙だ…


 私は、気付いた…


 私は、思った…


 「…そして、そんな微妙な関係の4人の間に現れたのが、お姉さんです…」


 「…私?…」


 「…お姉さんは、誰にも、好かれます…あの4人も例外では、ありません…お姉さんが、やって来たことで、あの4人のギクシャクした関係も、治まった…」


 葉問が、言った…


 仰天の事実を言った…


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