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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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54/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 54

私は、大声で、


 「…だったら、葉尊は、私が嫌いなのか?…」


 と、聞きたかった…


 が


 さすがに、聞けんかった…


 聞けんかったのだ(苦笑)…


 だから、悩んだ…


 なんて、言っていいか、悩んだ…


 すると、だ…


 いきなり、太郎が、


 「…キー…」


 と、鳴いた…


 甘えるように、鳴いたのだ…


 事実、太郎は、葉問に抱かれながら、葉問に、甘えていた…


 それは、私の目にも、すぐに、わかった…


 私の細い目にも、すぐに、わかったのだ…


 そして、葉問は、まるで、赤ちゃんをあやすように、太郎を、あやしていた…


 私は、それを、見て、


 「…葉問…オマエ、随分、太郎をあやすのが、うまいな…まるで、人間の赤ん坊をあやすように、あやすな…」


 と、言った…


 わざと、言ったのだ…


 すると、葉問が、


 「…ありがとうございます…」


 と、太郎をあやしながら、言った…


 その言葉を聞いて、私は、すかさず、


 「…オマエ、もしかして、人間の赤ん坊をあやした経験があるんじゃないか?…」


 と、言った…


 皮肉を言ったのだ…


 「…どういう意味ですか? …お姉さん?…」


 「…葉問…オマエは、女にモテる…あっちの女、こっちの女と、色々な女と、関係しただろ? となれば、子供もできるさ…」


 私は、力を込めて言った…


 が、


 葉問は、私の質問を軽く受け流した…


 「…赤ん坊は、マリアがいます…」


 「…なんだと? …マリアだと?…」


 「…マリアは、今、3歳…3年前に、生まれました…当時は、ときどきですが、マリアをあやしたことがあります…」


 葉問が、言った…


 まるで、ディーン・フジオカのように、爽やかに、言ったのだ…


 私は、それを、聞いて、


 「…ウソを言うんじゃ、ないさ…」


 と、言いたかったが、言えんかった…


 なぜなら、それは、たぶん、ホントのことだからだ…


 ホントのことだから、言えんかった…


 が、


 同時に、ウマいと思った…


 葉問の受け答えが、実に、ウマいと、思った…


 すると、だ…


 「…どうしました? …お姉さん?…」


 と、葉問が、聞いた…


 私の気持ちを逆なでるように、言った…


 なぜ、私の気持ちを逆なでるかと言えば、葉問が、軽く笑いながら、言ったからだ…


 まるで、私を挑発するように、笑ったからだ…


 だから、許せんかった!…


 許せんかったのだ!…


 「…その笑いは、なんだ? …葉問!…」


 私は、怒鳴った…


 葉問に対する怒りが、爆発した…


 「…私をバカにするんじゃないさ…」


 「…お姉さんをバカにする? …どうして、そう思うんですか?…」


 「…オマエが、女にモテモテだからさ…」


 「…それと、ボクが、お姉さんをバカにするのと、なんの関係が…」


 「…おおありさ…」


 「…なにが、おおありなんですか?…」


 「…オマエは、どうせ、美女とイチャイチャしてたんだろ? だから、平凡なルックスの私をバカにするのさ…平凡なルックスの私を下に見るのさ…」


 私は、怒鳴った!…


 怒鳴ったのだ!…


 だが、葉問は、冷静だった…


 憎いほど、冷静だった…


 太郎をあやしながら、


 「…お姉さん…」


 と、ゆっくり、私に話しかけてきた…


 「…なんだ?…」


 「…ボクは、なにも、言ってません…お姉さんが、勝手に、自分の妄想を口にしているだけです…」


 「…妄想だと?…」


 「…そうです…」


 「…妄想なんかじゃないさ!…」


 私は、怒鳴った…


 「…私の言っていることに、間違いは、ないさ!…」


 「…だったら、証拠はありますか?…」


 「…証拠だと?…」


 「…そうです…ボクが、なにを、思っているかの証拠です…」


 「…そんなものは、あるわけないさ!…」


 「…では、それは、お姉さんの一方的な思い込み…あるいは、妄想です…」


 葉尊が、断言する…


 理詰めで、断言する…


 私は、悔しかった…


 悔しくて、仕方がなかった…


 この葉問に言い負けたのが、悔しくて、仕方がなかったのだ…


 すると、葉問が、


 「…お姉さんにも、意外な面があったんですね…」


 と、意外なことを、言った…


 「…どういう意味だ?…葉問?…」


 「…お姉さんが、自分のルックスに言及したのは、初めて、聞きました…」


 「…」


 「…でも、安心しました…」


 「…なにが、安心したんだ?…」


 「…お姉さんも、普通のひとだと、わかったからです…」


 「…私は普通さ…ずっと前から、普通さ…生まれたときから、普通さ…」


 「…いえ、普通じゃ、ありません…」


 「…なに? …普通じゃないだと?…」


 「…普通の人間は、お姉さんのようには、いきません…」


 「…なにが、いかないんだ?…」


 「…誰からも、好かれること…リンダや、バニラのような世界的に有名な女優やモデルにも、葉敬やアムンゼンのような大物にも、好かれる…これは、お姉さん以外の誰も、できないことです…」


 「…」


 「…でも、そんなお姉さんが、自分のルックスにコンプレックスを持っているように、言う…それを、聞いて、安心しました…」


 葉問が、穏やかに、言う…


 それを、聞いて、私は、どう言っていいか、わからんかった…


 そもそも、この葉問が、私を褒めてるのか?


 それとも、けなしているのかも、わからんかった…


 どっちだか、わからんかったからだ…


 が、


 私が、そんなことを、考えていると、葉問が、


 「…それで、いいのかも、しれません…」


 と、ポツリと呟いた…


 「…なにが、それで、いいんだ?…」


 「…お姉さんが、自分のルックスにコンプレックスを、持っていることです…」


 「…それが、どうして、いいんだ?…」


 「…誰もが、一番では、ありません…」


 「…一番じゃない? …なにが、一番じゃないんだ?…」


 「…ルックスや頭、それに、家柄等です…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…誰もが、大半は、平凡です…ルックスを例にとれば、仮に、この場に100人、女性が、集まっても、周囲が、目を、見張るような美人は、一人もいないものです…」


 「…葉問…なにが、言いたい?…」


 「…周囲が目を見張るような美人は、例えば、3千人、あるいは、5千人に、一人です…」


 「…3千人、5千人に、一人だと?…」


 「…そうです…」


 葉問が、自信たっぷりに言う…


 私は、それを、聞いて、


 …それは、本当かも、しれん…


 と、思った…


 たしかに、この矢田も、35年生きているが、この目の前の葉問の言う通り、美人は、3千人や5千人に、一人ぐらいしか、いない…


 要するに、街中や、ショッピングモールで、偶然、出会って、


 「…この子、カワイイ…」


 とか、


 「…このひと、キレイ…」


 とか、いうのは、その程度の割合だと、いうことだ…


 私が、そんなことを、思っていると、


 「…でも、それは、あくまで、顔だけです…ルックスだけです…」


 葉問が、続ける…


 「…ルックスだけだと?…」


 「…そうです…」


 「…だったら、ルックス以外に、なにがある?…」


 「…身長…生まれ…学歴、その他、色々あります…」


 「…色々だと?…」


 「…リンダや、バニラを見れば、わかるはずです…」


 「…リンダや、バニラを、見て、なにが、わかる?…」


 「…二人とも、お姉さんに憧れています…」


 「…私に憧れているだと? …ウソを言うな!…」


 「…ウソでは、ありません…」


 「…なんだと? …ウソじゃないだと?…」


 「…二人とも、言うまでもなく、美人です…だから、周囲の人間が、思う以上に、ルックスの威力を知っている…美人の持つ、力を知っている…」


 「…」


 「…ですが、そんな二人から見て、ハッキリ言えば、平凡なお姉さんが、どこでも、誰にでも、好かれる、愛される…これは、普通に考えれば、ありえないことです…しかも、本人に、なんの自覚もない…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…さっきも、言ったように、他人に気に入られようと、お姉さんは、思って、行動していない…にも、かかわらず、周囲の人間から、気に入られている…」


 「…」


 「…だから、二人とも、驚くと共に、お姉さんを、尊敬しているんです…」


 「…私を尊敬だと?…」


 …バカな?…


 …あのリンダと、バニラが、私を尊敬だと?…


 …リンダは、ともかく、あのバニラが、私を尊敬?…


 …ありえん!…


 …絶対、ありえん!…


 「…ふざけるんじゃ、ないさ…葉問…リンダは、ともかく、バニラが、私を尊敬するはずないさ…」


 「…いえ、尊敬しています…」


 「…ウソを言うんじゃないさ…バニラのどこが、私を尊敬していると、言うのさ…尊敬しているなら、どうして、あんな態度を取るのさ…」


 「…バニラは、お姉さんに甘えているんです…」


 「…私に甘えているだと?…」


 「…そうです…」


 「…ウソを言うんじゃ、ないさ…アレが、私に甘えている態度か? 違うだろ、葉問?…」


 「…だったら、お姉さん…バニラが、一度でも、お姉さんに、手を出したことは、ありますか?…」


 「…それは、ないさ…」


 「…でしょ? …もし、バニラが、本気で、怒れば、お姉さんと、カラダの大きさが、まるで、違いますから、下手をすれば、お姉さんは、殺されます…」


 「…なんだと? …この矢田が殺されるだと?…」


 「…バニラはヤンキー上がり…おまけに、格闘技の経験もあります…バニラが、本気になれば、大抵の男は、歯が立ちません…」


 葉問が、あっさりと、言った…


 そして、その言葉に、ウソは、ないと、思った…


 葉問の言葉に、ウソはないと、思ったのだ…


 現に、今さっきまで、バニラは、この場に、私を守るために、いた…


 この矢田を守るために、いた…


 バニラが格闘技に精通していたからだ…


 だから、この矢田を守るために、いた…


 ここに、いた…


 「…美人は、きっかけに、過ぎません…」


 と、葉問は、続けた…


 「…きっかけだと?…」


 「男なら、誰でも、大抵は、美人を見れば、憧れます…女もまた、しかり…イケメンを見れば、憧れます…でも、それは、最初だけ…」


 「…最初だけ?…」


 「…付き合えば、頭が悪かったり、性格が、悪かったり、家が、貧乏だったりすれば、気持ちが、萎えます…当初の気持ちが、冷めます…」


 「…」


 「…だから、美人も、イケメンも、入り口に過ぎないのです…」


 葉問が、力説する…


 私は、この葉問の言葉を聞きながら、ウマいことを、言うと、思った…


 言葉に説得力があった…


 が、


 それは、この葉問がイケメン…


 ルックスが、いいからだと、気付いた…


 なんだかんだ言っても、ルックスは、重要…


 やはり、イケメンが、


 「…ルックスは、入り口に過ぎない…」


 と、力説するから、説得力がある…


 ブザメンでは、説得力に欠ける…


 そういうことだ(笑)…


 私は、思った…


 思ったのだ(笑)…


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