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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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53/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 53

私は、不安になった…


 目の前の葉尊が、言葉も発せず、考え込んでいたからだ…


 私は、どうしていいか、わかんかった…


 わからんかったのだ…


 だから、つい、隣の太郎を見た…


 意味は、ないが、つい、太郎を見たのだ…


 すると、太郎が、私に、


 …心配するな!…


 と、いうような目で、私を見た…


 ホントは、太郎は、猿だから、言葉が発せない…


 だから、ただ、私が、そう思っただけかも、しれない…


 が、


 私は、そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、それは、間違ってなかった…


 葉尊が、口を開くと、ただ、


 「…お姉さんが、羨ましい…」


 と、呟いた…


 呟いたのだ…


 が、


 ただ、呟いただけではない…


 その口調には、悔しさというか…


 私に対する嫉妬というか…


 とにかく、そんなものが、含まれていた…


 だから、ただ、単に、私が、羨ましいといっただけでは、なかった…


 私が、そんな思いで、葉尊を見ていると、


 「…お姉さんは、労せずして、他人に好かれる…」


 と、実に、悔し気に、葉尊は、続けた…


 「…私が、労せずにだと? …どういう意味だ? …葉尊?…」


 「…ひとは、誰でも、好きになった人間に気に入られるために、なにかをするものです…」


 「…なにかをするって、なにを、するんだ?…」


 「…男が、好きになった女に、高価なプレゼントを贈ったり、または、真逆に、女もまた、好きになった男に、高価なプレゼントを贈ったりして、相手の気を惹くものです…でも、お姉さんには、それがない…」


 「…どういう意味だ? …葉尊?…」


 「…お姉さんは、ただ、相手に接する…でも、それだけで、お姉さんは、相手に、気に入られる…しかも、そこに、身分の差はない…年齢の差もない…お姉さんは、ただ、好かれる…」


 葉尊が、言った…


 実に、悔しそうに、言った…


 私は、驚いた…


 ただ、驚いた…


 私は、今まで、こんな葉尊を見たことが、なかったからだ…


 だから、どうしていいか、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 だから、さっきと、同じように、太郎を見た…


 太郎が、私に、


 …安心しろ!…


 と、目で、励ましてくれることを、期待したのだ…


 が、


 その太郎も、動揺していた…


 さっきと、違い、明らかに、落ち着きがなく、動揺していた…


 さらには、驚いたのか、太郎が、


 「…キー…」


 と、鳴き出したことだ…


 もはや、私は、どうしていいか、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 万事休す!…


 そんな言葉が、私の脳裏に浮かんだ…


 この矢田の脳裏に浮かんだのだ…


 私は、恐怖のあまり、つい、目を閉じた…


 私の細い目を閉じた…


 もはや、葉尊が、怖くて、見ていられんかったからだ…


 ホントは、目を閉じれば、この場から、逃げ出すことが、できんから、目を閉じるのは、しては、いかんのだが、つい、目を閉じて、しまった…


 すると、だ…


 今度は、太郎が、以前にも、まして、


 「…キー、キー…」


 と、鳴いた…


 鳴いたのだ…


 まるで、私に助けを求めるように、鳴いたのだ…


 まるで、悲鳴のように、鳴いたのだ…


 太郎の危機!…


 私の息子の危機だった!…


 太郎は、猿だが、私の息子だった!…


 私の息子同様の存在だった!…


 だから、その太郎の危機に、私は、いてもたっても、いられんかった…


 だから、急いで、私の細い目を開けた…


 葉尊が、太郎に、なにかを、したかと、思ったからだ…


 だから、目を開けると同時に、


 「…葉尊…太郎になにか、しちゃダメさ!…」


 と、怒鳴った…


 「…太郎に、手を出すのは、ダメさ!…」


 と、怒鳴った…


 が、


 それは、私の思い過ごしだった…


 目を開けると、太郎が、葉尊に抱かれていた…


 嬉しそうに抱かれていた…


 …これは、一体、どういうわけだ?…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 さっき、葉尊が、太郎に、


 …こっちに、来い!…


 というように、人差し指を上に向けて、ちょいちょいと、動かしても、太郎は、反応しなかった…


 それが、今は、嬉しそうに、葉尊に抱き着いている…


 …これは、一体、どういうことだ?…


 私は、思った…


 思いながら、目の前の葉尊を見た…


 ジッと見た…


 すると、思いがけないことに、気付いた…


 気付いたのだ…


 「…オマエは、葉問!…」


 私は、大声で、叫んだ…


 「…葉問!…」


 と、大声で、繰り返した…


 すると、葉問が、太郎を抱きながら、


 「…お久しぶりです…お姉さん…」


 と、言った…


 言ったのだ…


 私は、それを見て、太郎が、鳴いた理由が、わかった…


 葉尊から、葉問に変わったから、太郎は、鳴いたのだ…


 太郎は、猿だが、鋭い…


 頭がいい…


 眼前の葉尊の中身が、入れ替わったことに、気付いたに違いない…


 だから、驚いて、鳴き出したのだ…


 私は、思った…


 が、


 それ以上に、驚いたのは、この葉問が、太郎を抱いていることだ…


 太郎は、葉尊には、決して、そんな態度を見せなかった…


 むしろ、葉尊を警戒していた…


 それが、葉問には、甘えている…


 葉問に抱き着いて、甘えている…


 これは、ありえんことだった…


 ありえんことだったのだ…


 が、


 それ以上に、大切なのは、どうして、今、この場に葉問が、現れたかと、いうことだ…


 どうして、いきなり、葉尊から、葉問に変わったかと、いうことだ…


 だから、私は、


 「…葉問…どうして、ここに現れた?…」


 と、聞いた…


 もっと、言えば、


 …どうして、このタイミングで、葉尊から、葉問に入れ替わった?…


 と、聞きたかった…


 が、


 さすがに、そこまでは、言えんかった…


 すると、葉問が、


 「…どうしてと、言われても…」


 と、笑いながら、言った…


 「…この葉問は、自由人…行きたいところに行き、出たいときに、出ます…」


 と、答えた…


 答えたのだ…


 私は、それを、聞いて、うまい答えだ…


 と、思った…


 同時に、気付いた…


 おそらく、この葉問が、突然、現れたのは、葉尊を救うためだと、気付いた…


 葉尊は、この矢田に、嫉妬した…


 この矢田が、労せずして、他人に、気に入られる…


 そう、この矢田を指摘して、この矢田に嫉妬した…


 私が、他人に気に入られるか、否かは、置いておいたとしても、他人に嫌われたことのないことは、事実…


 これは、間違いがない(笑)…


 他人に嫌われる人間は、どこでも、誰にでも、嫌われるものだ…


 それは、協調性がなかったり、自分勝手だったり、する場合が、多いが、もっと言えば、単純に性格が、悪い場合が多い(爆笑)…


 だから、周囲の人間に嫌われる…


 もっとも、そういう人間は、数が少ない…


 大抵は、そこまで、いかなくても、数人の敵を作るだけだ…


 例えば、以前、言った険のある目を持つ人間が、そうだ…


 周囲に、徹底的に嫌われるまでは、いかないが、すぐに、敵を作るだろう…


 要するに、その険のある目を持つ、人間を、嫌いな人間が、現れる…


 そういうことだ…


 が、


 敵といっても、数が少ない…


 要するに、いつも他人の悪口や、噂話を言っているから、それに、閉口して、敵ができるのだ…


 が、


 本人は、その事実に、気付かない…


 誰でも、そうだが、自分を、そんなに、性格が、悪いと思っている人間は、いない…


 例え、死刑囚でも、いないだろう(爆笑)…


 誰もが、自分に、甘い…


 自分の評価に甘いからだ…


 そして、その険のある目を持つ人間を、内心では、嫌いな人間は、たくさんいるかも、しれないが、それを態度に出すのは、少数…


 数えるほど、しかいない…


 内心では、誰もが、思っていても、誰もが、ゴタゴタを避けたい…


 それゆえ、態度に出さない…


 態度に出して、ゴタゴタするのは、嫌だからだ…


 だから、嫌われている本人は、気付かない…


 そういうことだ…


 どんな職場でも、学校でも、同じだろう…


 人間関係とは、そういうものだ(笑)…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…お姉さんは、不思議なひとです…」


 と、葉問が、言った…


 「…不思議なひとだと? …どういう意味だ?…」


 「…誰からも、好かれる…」


 「…なんだと?…」


 「…お姉さんは、労せずして、誰からも、好かれる…ですが、それを、見て、お姉さんに、嫉妬する人間も、ごく少数ながら、います…」


 …葉尊のことか?…


 私は、思った…


 今、この葉問は、わざと、葉尊のことを、言った…


 私は、そう、思ったのだ…


 だから、わざと、


 「…だったら、葉問…私は、どうすれば、いい?…」


 と、葉問に聞いた…


 葉問が、どう答えるか、知りたかったからだ…


 すると、葉問の答えは、意外だった…


 「…放って、置けば、いいでしょう…」


 「…なんだと? …ただ、放っておくのか?…」


 「…そうです…」


 「…でも、それでは?…」


 「…それで、いいんです…それで、その人間は、自滅します…」


 「…自滅だと?…」


 「…ハイ…」


 なんだか、凄いことを、この葉問は、言う…


 私は、そう、思った…


 自滅などと、いう言葉は、滅多に聞くことが、ないからだ…


 すると、だ…


 「…お姉さんを嫌い、お姉さんに嫉妬するものは、間違いなく、周囲のものに嫌われます…」


 「…なんだと?…」


 「…敵を作る者は、作る…真逆に、味方を作る者は、作る…そういうことです…」


 …だったら、葉尊は、どうなる?…


 いや、


 …葉尊は、どうする?…


 私は、それを、聞きたかった…


 が、


 さすがに、ストレートには、聞けない(笑)…


 だから、


 「…だったら、私を嫌いでも、それを、隠している人間は、どうだ?…」


 と、私は、聞いた…


 わざと、聞いた…


 すると、葉問が、フッと、笑みを見せた…


 「…きっと、お姉さんを、嫌いなことを、隠し続けるでしょう…」


 「…なんだと? …どうしてだ?…」


 「…自分が、嫌われるからです…」


 葉問が、至極、真っ当なことを、言った…


 「…誰もが、好きなお姉さんを自分だけが、嫌う…あるいは、嫉妬する…」


 「…」


 「…それを、周囲の者が、気付けば、その人間は、周囲の者から、間違いなく嫌われる…だから、隠す…お姉さんを、嫌いなことを、隠す…」


 葉問が、言った…


 そして、その答えが、意味深…


 実に、意味深だった…


 その葉問の答えを、額面通りに、受け取れば、ホントは、葉尊は、私が嫌いだと言っているのも、同じだからだ…


 だから、意味深だった…


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