35歳のシンデレラ 大道芸人編 52
その夜、葉尊と夕食を食べていると、葉尊が、
「…どういうことですか? …お姉さん?…」
と、聞いて来た…
当たり前のことだ(笑)…
「…大体のことは、わかっているんですが、イマイチ、わからないこともあります…」
葉尊が、意味深に言う…
あるいは、
考えながら、言う…
だから、私は、
「…私にも、わからんのさ…」
と、答えた…
事実、私にも、わからんかった…
「…どうして、わからないんですか?…」
「…どうしてもと、言われても…」
私は、困った…
どう説明していいか、わからんかった…
そもそもの、きっかけは、バニラだった…
あのバカ、バニラとの大喧嘩だった…
あのバカ、バニラと大喧嘩をして、私は、家を出た…
このマンションから、逃亡した…
いわゆる、家出だ…
原因は、お義父さんにある…
今、私の目の前にいる、夫の葉尊の父、葉敬が、まもなく、台湾から、来日する…
そのときに、お義父さんに、あのバカ、バニラが、私のことを、あること、ないことを、告げ口されることを、恐れたのだ…
バニラは、お義父さんの愛人…
二人の間には、マリアと言う3歳の娘がいる…
だから、息子の嫁である、この矢田と、バニラのどっちを、選ぶかと、問われれば、お義父さんは、バニラを優先するだろう…
が、
それでは、この矢田の立場がない…
だから、お義父さんに、会わせる顔が、ないから、家出をした…
すると、偶然、その日、太郎に出会った…
太郎が、偶然、街を歩いていたのだ…
私は、すでに、太郎と面識があった…
それ以前に、バニラの娘のマリアの通う、セレブの保育園の行事で、動物園に向かう途中のサロンバスの中で、太郎と会ったのだ…
太郎は、アンナという金髪碧眼の女が、運んで来た…
アンナが言うには、この矢田と同じく、アンナもまた、太郎と、偶然、街で、出会い、アンナが、保護した…
それで、どうして、いいか、わからず、とりあえず、バスケットに入れて、動物園に連れて行き、動物園に預けるつもりだったと、言っていた…
それが、なぜか、バスケットから、太郎が逃げ出して、サロンバスの中を、太郎が、走り回った…
走り回って、この矢田の元に、やって来た…
それが、この太郎と矢田が初めて、会った瞬間だった…
そして、今も言ったように、私が、家出をした日に、偶然、出会った…
そして、私と太郎のやりとりを見た、歩行者が、太郎が、あまりにも、芸がうまいので、私を大道芸の芸人だと、勘違いした…
猿回しの芸人だと、勘違いした(爆笑)…
勘違いをして、お金をくれた…
私は、驚いたが、しめたと、思った…
とりあえず、勢いで、葉尊と住む、家を出た私に、行くところが、なかったからだ…
本当は、実家に帰れば、いいのだが、それも、できんかった…
台湾の大富豪の息子と結婚したにも、かかわらず、家に戻れば、親になんと、言われるか、わからんからだ…
いや、
家族だけではない…
近所の目もある…
私が、実家に戻ったことは、近所の家の人間たちには、すぐにバレる…
そうなれば、
「…やっぱり、身分が、違うから、ダメだったのね…」
とか、
「…最初から、この結果は、ミエミエだった…」
とか、
とにかく、悪口を言われ、近所で、笑いものにされるのが、わかっていたからだ…
だから、戻れんかった…
が、
その苦境を太郎が、救ってくれた…
太郎と、大道芸をやることで、お金が入り、実家に戻らずとも、生活できた…
私と太郎だけでは、十分過ぎるほどの、お金が、手に入ったからだ…
そして、アムンゼン…
あのチビだ!…
ホントは、30歳だが、小人症のため、外見は、3歳にしか、見えない…
それを、いいことに、マリアの通うセレブの保育園に、園児として、潜り込んでいる…
その目的は、この日本に、いる外国人のセレブの人間の動静を探ること…
マリアの通う、保育園は、この日本に在住する、セレブの外国人の子弟が、通う保育園…
そこにいれば、この日本にいる、外国人が、どんなひとたちで、どんなネットワークを、持っているか、わかる…
誰もが、セレブ=金持ち…
外国の有名企業の幹部や、日本にいる駐日大使の子弟たちの集まりだからだ…
だから、あのアムンゼンは、それを、探るために、あの保育園に身を潜めている…
そのアムンゼンが、なぜか、太郎と大道芸の旅を続ける場に、突然、現れた…
私は、驚いた…
「…どうして、この場所が、わかった? …アムンゼン?…」
と、聞くと、
「…蛇の道はヘビということです…」
と、偉そうに、答えた…
私は、その答えが、気に入らんかった…
そして、それは、太郎も、同じだった…
太郎が、頭に来て、アムンゼンが、頭にかぶったアポロキャップを、奪い取った…
それを、見た、アムンゼンが、当然、怒った…
「…返せ!…」
と、怒った…
怒って、太郎を追いかけた…
が、
それを見ていた観衆の面々は、それが、芸の一部だと勘違いした(笑)…
太郎を追いかけるアムンゼンに、
「…坊や、頑張って!…」
と、観衆の女子高生たちの黄色い声援が飛んだ…
実は、このアムンゼンは、アラブの至宝と呼ばれた、優れた頭脳の持ち主…
アラブ世界の実力者でも、ある…
だから、その黄色い声援に、当然、怒ったと思った…
気分を害したと、思った…
が、
違った…
実に嬉しそうだった…
私は、唖然とした…
どうしてだ? と、自問自答した…
そして、気付いた…
アムンゼンは、子供にしか見えないが、ホントは、中身は、大人…
30歳の成人男子だと、思い出したのだ…
つまりは、30歳の大人が、女子高生の黄色い声援に、思わず、嬉しくなった…
そういうことだった…
要は、ロリコンだ!…
ロリコン親父だ!…
私は、思った…
そして、それを思えば、以前から、思い当たるフシはあった…
このアムンゼンは、マリアが好き…
3歳のマリアが好き…
30歳のアムンゼンが、3歳のマリアに惚れてる…
これは、立派なロリコンでは、ないか?
これが、ロリコンでなくて、なんだと言うんだ?
私は、思った
思ったのだ…
そして、その後、このアムンゼンと、大道芸を続けていたかと、思ったが、すぐに、リンダが、現れた…
突然、現れたリンダに、驚いた私は、
「…リンダ? …どうして、ここが、わかった?…」
と、聞くと、さっきのアムンゼン同様、
「…蛇の道はヘビというヤツよ…」
と、はぐらかせた…
今、思えば、もしかしたら、アムンゼンが、リンダに連絡したかも、しれん…
そう、気付いた…
アムンゼンは、リンダのファン…
少なくとも、そう、本人は、言っている…
が、
私は、それを、まったく信じていない(笑)…
アムンゼンの単なる社交辞令に過ぎないと、思っている…
なぜなら、アムンゼンが、リンダを、憧れの目で、見たことが、ないからだ…
本当に、アムンゼンが、リンダのファンなら、視線が、違う…
接する態度が、違う…
これは、誰もが、同じだろう…
好きな相手には、態度が、変わるものだからだ…
だから、私は、アムンゼンが、リンダのファンだというのは、眉唾物だと、思った…
思ったのだ…
そして、アムンゼンや、アムンゼンを守るボディーガードたちと、いっしょに、泊まったネットカフェから、出てきたところに、このリンダが、現れたわけだ…
それから、アムンゼンの私邸に、行った…
私邸といっても、豪邸…
この矢田が、見たこともない、豪邸だった…
そして、初めて、アムンゼンの口から、アムンゼンの母国である、サウジアラビアで、実父の元の国王と、兄である、現国王が、反目しあっている事実を聞いた…
親子の間で、争っていることを、聞いた…
そして、サウジアラビア国内にとどまらず、アラブ世界の間で、アムンゼンが、実父か兄か、どちらにつくのか、密かに話題になっていることを、知った…
アムンゼンは、外見は3歳の子供ながら、実際は、30歳の大人…
その優れた頭脳は、アラブの至宝と呼ばれるほどだ…
が、小人症で、子供にしか、見えないから、外に出れない…
世間に出れない…
だから、その実態が、わからないから、余計に、実力よりも、大きく見える…
サウジアラビア一国に、とどまらず、アラブ世界の間で、有名…
一般の庶民の間にも、その名前は、知られている…
が、
本人の姿は、誰も知らない…
見たことも、ないからだ…
だから、日本で言えば、都市伝説のような存在なのだろう…
そして、そのアムンゼンが、この矢田の元にやって来た目的は、なんと、この矢田を守るためだった(笑)…
なぜ、この矢田を守るのか?
実は、この矢田は、なぜか、アムンゼンのお気に入りだった…
なぜか、アムンゼンに好かれた…
理由は、わからんかった…
が、
アムンゼンは、この矢田を好きだった…
そして、今も言ったように、このアムンゼンの、祖国のサウジアラビアで、アムンゼンの父と兄が、争っている…
その父と兄のどちらに、アムンゼンが、加担するのか、話題になっている…
それゆえ、アムンゼンのお気に入りの、この矢田をうまく、取り込めば、アムンゼンを味方にできると、アムンゼンの父や兄の一部の側近たちが、考えて、動き出した…
そんな噂を掴んだから、急いで、アムンゼンは、私を守るべく、急遽、私の元にやって来た…
そして、なぜか、この矢田と太郎と共に、大道芸をしていた…
それが、現実だった…
わけがわからないが、現実だった…
そして、今、それを、どう目の前の葉尊に説明すれば、いいのか、わからんかった…
わからんかったのだ…
だから、悩んだ…
どう言っていいか、わからんから、悩んだ…
が、
葉尊は、辛抱強く、私の説明を待っていた…
だから、なにか、言わざるを得なかった…
私は、悩んだ末、
「…要するに、風が吹けば桶屋が儲かるというヤツだ…」
と、私は、言った…
葉尊は、面食らった…
明らかに、たじろいだというか、動揺した…
「…それは、どういう…」
「…今、サウジアラビアで、国王と、その父親の元の国王が争っていてな…」
「…それが、一体、今回のお姉さんの行動と、どういう関係が…」
「…一見、なんの関係もないさ…でも、実は、あるのさ…」
「…どういうことですか?…」
「…アムンゼンという男がいてな…それが、サウジアラビアの王族で、サウジアラビアで、隠然たる力を持っているのさ…」
「…それが、お姉さんとなんの関係が?…」
「…実は、私は、そのアムンゼンと仲が良くてな…だから、今、サウジアラビア国内で、争っている現国王の勢力と、元の国王の勢力の一部が、私に接触しようとしている情報を、アムンゼンが、掴んだのさ…」
「…なんで、お姉さんに?…」
「…私と仲良くすることで、アムンゼンを味方に引き入れることが、できると、思ったらしい…我ながら、バカバカしいというか…笑ってしまうさ…そうだろ? …葉尊?…」
私は、葉尊に、問いかけた…
が、
葉尊は、笑わなかった…
葉尊は、真剣だった…
真剣に考え込んでいた…




