35歳のシンデレラ 大道芸人編 5
「…あるといえば、ある…ないと、いえば、ない…」
葉問が、けむに巻くように答えた…
「…ごまかすね…葉問…私の目はごまかせんさ…」
私は、力強く、言った…
「…オマエが、現れたのが、その証拠さ…」
「…どういう意味ですか?…」
「…オマエは、葉尊ができないことをやる…」
「…葉尊ができないこと?…」
「…要するに、トラブル処理さ…だから、トラブルがありそうだと、オマエが現れる…」
「…」
「…だから、わかったのさ…」
私は、自信満々に告げた…
すると、だ?
葉問が、笑った…
まるで、私をあざ笑うかのように、笑った…
「…葉問…なんだ? …その笑いは?…」
私が、きつく問いかけると、
「…スイマセン…つい…」
と、葉問が、詫びた…
「…なにが、ついだ?…」
「…いえ、こうして、お姉さんと、会うのも、久しぶりだなと、思って…」
…そういえば、この葉問の言う通り、葉問と、会うのは、久しぶりだった…
この葉問は、滅多に現れない…
それは、この葉問が、夫の葉尊のもう一つの人格だから…
要するに、葉尊と葉問は、同じカラダを使っている…
葉尊と葉問は、同一人物…
だから、同時に、現れることができない…
それゆえか、葉問は、滅多に、現れない…
現れるのは、ハッキリ言えば、私の危機のとき…
あるいは、私が、危機に陥る前に、警告の意味で、現れる…
または、私を慰めるときに、現れる…
現に、私が、葉尊と結婚した当初は、葉尊との関係で悩んだ私の前に現れ、私を慰めてくれた…
だから、変な話、この葉問は、私のボディーガードというか、守護神…
私を守るために、存在するといってもいい…
だからこそ、真逆に考えれば、もしや、これから、私が、危機に陥るかも、しれん…
どんな危機だか、わからんが、危機に陥るかも、しれんのだ…
そして、そんなことを、私が、考えていると、
「…お姉さん…」
と、葉問が、私の名前を呼んだ…
「…なんだ?…」
「…お姉さんと、こうして、会えて、本当に嬉しいです…」
「…そうか?…」
「…ですから、お姉さんも、自分の行動に、慎重になってください…」
「…慎重にだと? …どういう意味だ?…」
「…お姉さんは、今や、重要人物…色々な意味で、キーマン…鍵を握る人物になっているんです…」
「…私が、鍵を握る人物だと?…」
「…そうです…」
「…一体、私が、どんな鍵を握っていると、いうんだ?…」
「…アムンゼン殿下…」
「…アムンゼン殿下だと?…」
…あの小人症のクソガキか?…
私は、思った…
本当は、30歳のくせに、小人症だから、外見が、3歳にしか、見えないから、保育園にいる、とんでもないガキだ…
おまけに、本当は、30歳のくせに、マリアに恋している…
ロリコンオヤジだ…
だが、その正体は、サウジアラビアの現国王の腹違いの弟…
そして、その存在を知るものは、王族でも、ごく限られた人間のみ…
いわば、その存在は、サウジ王室のトップシークレット…
なぜなら、あのクソガキが、小人症だから…
だから、公にすることが、できない…
が、
あのクソガキは、カラダに恵まれない代わりに、頭脳に恵まれた…
アラブの至宝と呼ばれるほど、頭脳に恵まれた…
いわば、アラブ世界の隠れたリーダーの一人…
私は、それを、思い出した…
思い出したのだ…
すると、葉問が、
「…思い出しましたか、お姉さん…」
と、聞いて来た…
だから、私は、
「…思い出したさ…」
と、答えた…
「…ホントは、30歳のくせに、カラダが、ちっちゃいから、子供のフリをして、保育園に通っている、とんでもない、ガキだろ?…」
私の答えに、葉問は、苦笑した…
「…たしかに、お姉さんの言う通りですが、アムンゼン殿下には、あの保育園にいる目的があります…」
「…目的だと? …どんな目的だ?…」
「…あの保育園には、日本に在住する、セレブの外国人の子弟が、数多く、通ってます…だから、あの保育園に、殿下は、身を潜めることで、今、この日本にいる、世界のトップクラスのセレブの子弟といっしょにいることができます…」
「…それが、どうした?…」
「…つまり、殿下は、今、この日本に、どんなセレブがいるのか、あの保育園にいることで、知ることが、できるのです…」
「…どういうことだ?…」
「…行事です…保育園の…」
「…行事だと?…」
「…そこまで、いかなくても、保育園の通園で、セレブの親が、子供を送り迎えしている…それを、密かに、撮って、どんなセレブの親がいるのか、分析していると、思います…」
「…なんだと?…」
「…つまり、殿下は、あの保育園に身を隠すことで、この日本にいる、外国人のセレブの動静を掴んでいるということです…」
葉問が、言った…
私は、驚いた…
実に、驚いた…
単なる3歳児にしか、見えん、クソガキが、そんなことを、していたとは?
全然、気付かんかった…
が、
私の口からは、なぜか、
「…葉問…そんなことは、オマエに言われずとも、ずっと、前から、気付いていたさ…」
と、言った…
なぜだかは、わからんかった…
たぶん、私は、そういう人間だからだろう…
そして、その私の返答を聞くと、葉問は、ニヤリと笑った…
私は、頭に来た…
葉問が、私をバカにしたと、思ったからだ…
「…葉問…なんだ? …その笑いは?…」
「…いえ、さすがは、お姉さんだと、思ったんです…」
「…そうか?…」
「…だったら、お姉さん…これも、ご存知でしょう?…」
「…なにを、だ?…」
「…お姉さんの力をです…」
「…私の力?…」
「…そうです…」
「…どんな力だ?…」
「…アラブの女神…」
「…なんだ、それは?…」
「…お姉さんは、今、世界中のセレブの間で、密かに、そう呼ばれています…」
「…なんだと?…」
「…アムンゼン殿下…殿下は、アラブの至宝と呼ばれ、アラブ世界に、圧倒的な力を有します…現国王も、殿下の力を買っています…」
…あのクソガキが、そんな力を?…
…私の目には、ただの3歳児にしか、見えんかったが…
「…殿下は、お姉さんも、知っているように、小人症です…ですから、アラブの至宝と呼ばれても、その正体を知るものは、ごくわずかです…ですが、それゆえ、その実態以上に、大きな力を有します…」
「…どういう意味だ?…」
「…決して、姿を人前に現わさない…その正体を誰も知らない…そうすることで、神秘的というか…かえって、ミステリアスで、より力を大きく見せることができます…」
「…」
「…おそらく、殿下は、その効果を狙っているのだと、思います…」
「…そうか…」
「…そして、お姉さんは、その殿下のお気に入りです…」
「…私が殿下の?…」
「…殿下の力は、葉敬の力どころでは、ありません…アラブ世界に、圧倒的な力を有します…その殿下が、お姉さんの後ろ盾についたとの噂が、世界中のセレブの間に、瞬く間に広がってます…」
「…ウソ?…」
「…ウソでは、ありません…その証拠に、葉敬も、来日します…」
「…なんだと? …お義父さんの来日と、私が、関係があるというのか?…」
「…たぶん…」
「…たぶんだと?…」
「…ボクも、真相は、わかりません…」
「…なんだと?…」
「…ですが、そういう噂は、聞きました…」
「…そうか?…」
「…ですが、噂に過ぎませんが、お姉さんは、すでに、重要人物です…行動には、くれぐれも、気を付けて下さい…」
そう言って、葉問は、消えた…
いつものことだ…
私は、相変わらず、おおげさなヤツだと、思った…
たいしたことでも、ないのに、実に大げさに騒ぐ…
所詮は、その程度の人物に過ぎんと思った…
だから、葉問から、葉尊に戻っても、私は、騒がんかった…
「…お姉さん…」
と、生真面目な葉尊が、口を開いた…
「…なんだ?…」
「…今、なにか、あったんですか?…」
「…なんでもない…なんでもないさ…」
私は、言った…
葉尊には、悪いが、今、葉問と話したことを、いちいち、この葉尊に説明するのは、面倒臭い…
だから、私は、つい、
「…なんでもない…なんでもないさ…」
と、言ってしまったのだ…
すると、葉尊が、
「…今度、父が来日します…」
と、さっき、言ったことを、繰り返した…
私は、
「…知っているさ…」
と、答えたかったが、答えんかった…
さっき、葉問が、現れた…
が、
いつから、葉問に代わったか、わからんかったからだ…
最初は、葉尊であることは、わかった…
が、
いつから、葉問に入れ替わったか、わからんかったからだ…
だから、
「…そうか…」
と、だけ、言った…
すると、葉尊は、続いて、
「…これは、トップシークレットなんですが…」
と、切り出した…
「…トップシークレットだと? …なんだ、それは?…」
「…実は、バニラが、今度、極秘で、ハリウッドの映画のオーディションを受けるらしいんです…」
「…バニラが?…」
「…そうです…バニラは、お姉さんも、知っているように、リンダに憧れてます…リンダも、元は、モデル…それが、女優に転身して、成功した…バニラも、リンダのように、なりたいんです…」
「…そうか…」
私は、答えた…
実は、私も、それは、知っている…
なぜなら、モデルは、寿命が、短いからだ…
だから、最初は、モデルから始めて、女優に転身する例が多い…
それは、日本で、いえば、雑誌のグラビアアイドルから始めて、テレビに出て、世間に顔を知られるようになり、やがては、女優に転身するのと、似ている…
つまり、最終目標は、女優…
おおげさに、言えば、女優に年齢制限はない…
孫やひ孫がいても、おばあちゃん役で、活躍できるからだ…
まさか、孫やひ孫がいて、モデルや、グラビアアイドルは、できない…
だが、女優は、一生できる仕事だからだ…
そういうことだ…
と、ここまで、考えて、気付いた…
今、この葉尊とは、義父の葉敬が、来日する話をした…
それが、どうして、バニラのオーディションの話になるんだ?
わけが、わからんかった…
だから、
「…葉尊?…」
と、呼んだ…
「…なんですか? …お姉さん?…」
「…今、お義父さんの話をしていたのに、なんで、バニラの話になるんだ?…」
「…それは、父が、葉敬が、バニラのことを、心配して、今回、来日するからです…」
「…心配? …どうして、心配なんだ?…」
「…バニラは、お姉さんも、承知のように、父と親密な関係にあります…なにより、娘のマリアは、父とバニラの間に生まれた娘です…その母親のバニラが、ハリウッドのオーディションに出るとなると、やはり、父も心配なのでしょう…」
「…それは、つまり、バニラが、リンダのように、ハリウッドで、女優になるのは、お義父さんは、反対なのか?…」
「…それは、ボクにも、わかりません…ただ、バニラは、まだ若い…まだ21歳です…まだ、家庭に入る歳ではありません…ですが…」
「…ですが、なんだ?…」
「…バニラは、マリアの母親でも、あります…それが、リンダのように、ハリウッドで、女優になれば、今以上に、忙しくなるのは、目に見えてます…父は、それが、心配なのでしょう…」
葉尊が、これも、心配そうに、言った…
話が、思わぬ方向に、展開してきた…
そう思った瞬間だった…




