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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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46/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 46

私は、ひとりになると、葉尊の言葉を考え続けた…


 たしかに、葉尊の言うことは、わかる…


 わかるのだ…


 が、


 今も私の近くにいる、太郎を見ていても、どうしても、太郎が、ひとを襲うようには、見えんかった…


 いや、


 もし仮に、そんな真似をするようならば、果たして、太郎は、大道芸をするだろうか?


 ふと、そんなことに、気付いた…


 大道芸もまた、太郎は、誰かに、仕込まれたに決まっている…


 ということは、どうだ?


 太郎の元の飼い主は、大道芸の関係者となる…


 大道芸をなりわいにしているものということになる…


 考えた…


 考えたのだ…


 だから、もしかしたら、それを手掛かりにすれば、太郎の元の飼い主がわかるかも、しれん…


 いや、


 それは、ないか?


 なぜ、ないかと言えば、太郎の元の飼い主が、日本人とは、限らんからだ…


 それになにより、あのアンナ…


 太郎を最初に、私に見せた、あのアンナが、外国人だから、余計に、そう思える…


 そして、もし、そうならば、国内の大道芸人をいくら、探しても、ダメ…


 太郎は、外国で、育てられたのかも、しれんからだ…


 あるいは、サーカス…


 ふと、気付いた…


 サーカスで、育てられた可能性もある…


 いずれにしろ、エンターテインメント…


 人間を楽しませる仕事に就いていた可能性が、高い…


 私は、そう見た…


 私は、そう睨んだ…


 この矢田トモコの目は、節穴ではない…


 節穴ではないのだ…


 こんなことも、見抜けない矢田トモコではない!…


 舐めてもらっては、困る!…


 甘く見てもらっては、困るのだ!…


 なぜか、いつのまにか、私の心が昂った…


 昂ったのだ…


 そして、なぜか、


 …来るなら、くれば、いいさ!…


 …相手になってやるさ!…


 …私は、逃げも隠れもしないさ!…


 と、ケンカを売っていた…


 見えざる敵に、ケンカを売っていた(苦笑)…



 結局、それから、葉尊が言ったように、私は、昼間、太郎を連れて、歩くことにした…


 歩くといっても、ハッキリ言えば、散歩だ…


 ただ、ブラブラと町の中を、歩くだけ…


 ただの散歩だ…


 店に入ることも、なかった…


 数日前まで、大道芸をしていたときは、太郎を連れて、店の中にも、入った…


 アレは、ハッキリ言えば、自分の住む地域ではなかったからできた…


 それが、大きかった…


 誰でも、そうだが、自分の住む地域で、悪評がたったら、困る…


 変な噂が、たったら、困る…


 そういうことだ…


 とりわけ、私は、葉尊といっしょに、高級マンションに住んでいる…


 そして、私の素性を、知っている者も、多い…


 なぜなら、半年、ちょっと前に、私は葉尊と出会って、結婚した…


 そのときに、日本の平凡な家庭出身の私が、台湾の大財閥の御曹司と結婚したことで、世間の注目を浴びた…


 私が、35歳なので、35歳のシンデレラと呼ばれ、一躍時の人となった(爆笑)…


 そして、それは、なにより、私が、平凡であることが、35歳のシンデレラと、マスコミが、持ち上げた理由かも、しれんかった…


 私は、短大を卒業後、就職もせず、バイトや、派遣社員や契約社員で、この歳まで、生きてきた…


 いわゆる、就職氷河期だったからだ…


 景気が悪いから、企業が、ひとを採用しない…


 だから、大量の就職できない人間が、できた…


 いわゆる就職難民が、できた…


 私もまた、そのひとりだった…


 あるいは、就職出来ても、いわゆる、ブラック企業が、多かった…


 採用数が、少ないから、どんな企業にも、それなりに、応募者が殺到する…


 だから、ブラック企業に就職して、早々に、退職する人間も、多かった…


 そんなご時世で、この私が、台湾の大財閥の御曹司と、結婚できたことは、マスコミの格好の餌食になったと言うか…


 非常にわかりやすい、成功事例だったから、大きく取り上げた…


 世の中を明るくする、話題だから、誰もが、食いつくと思ったからだろう…


 事実、その通りになった…


 半年前は、ちょっとしたフィーバーだった…


 一躍、時のひとだった…


 有名人だった(爆笑)…


 だから、私は、顔バレしている…


 世間に知られている…


 いや、


 半年以上前のことだから、世間一般では、すでに忘れられているだろう…


 しかし、昔から、私を知っている、友人、知人、とりわけ、近所のひとたちは、忘れることは、ないだろう…


 そして、それは、今、私が、葉尊と住む、この高級マンションも同じ…


 同じ、だ…


 私は、今、住む、この高級マンションで、顔バレしている…


 ハッキリ言えば、この高級マンションに、どんな住人が住んでいるか、私には、わからんが、向こうは、皆、私を知っている(爆笑)…


 そういうことだ…


 いわゆる芸能人と同じ…


 木村拓哉や、北島三郎を知らない日本人は、いない…


 が、


 当たり前だが、木村拓哉や北島三郎は、日本人全員を知っているわけではない…


 それと、似ている…


 話が若干長くなったが、だから、今、私が、住む、この高級マンション界隈で、私は、知らなくても、私を知っている人間は多い…


 だから、迂闊なことは、できん…


 そういうことだ…


 太郎といっしょに、大道芸をしているときは、自分とは、縁もゆかりもない地域だったので、平気で太郎を連れて、歩くことが、できた…


 いわゆる、旅の恥は搔き捨てというか…


 素性が、バレない以上、なにをやっても、構わないという心理が、心の底にあったのかも、しれん(爆笑)…


 が、


 それは、今は、できん…


 ご近所だから、顔バレしている…


 なにより、私は、葉敬に、迷惑をかけることを、恐れている…


 私の夫、葉尊の父、葉敬は、私の恩人…


 何度も言うように、この平凡な矢田トモコと、葉尊の結婚を認めてくれた恩人だからだ…


 だから、その葉敬に迷惑をかけては、ならんと、いつも、肝に銘じている…


 おおげさに言えば、肝に銘じて、生きている…


 そういうことだ…


 だから、迂闊なことは、できん…


 私が、下手なことを、しでかして、葉敬に迷惑をかけては、ならんからだ…


 葉敬に恥をかかせては、ならんからだ…


 それに、それに、だ…


 太郎と大道芸の旅をしているときは、どこかで、食事をする必要があった…


 家がなかったからだ…


 いわゆる、ホームレス状態だったので、太郎といっしょに、店に入った…


 が、


 今は、その必要がない…


 家に帰ったからだ…


 葉尊と住む、高級マンションに帰ったからだ…


 だから、太郎といっしょに、店に入る必要がなかった…


 だから、散歩に専念できた…


 そういうことだ(笑)…


 しかしながら、散歩に専念するといっても、やはり目立つのは、困る…


 今も、言ったように、なにか、ことを起こして、葉尊の実父、葉敬に迷惑をかけては、いかんからだ…


 だから、今も私は、太郎と共に、近所を散歩しながら、周囲の反応を窺い、用心深く、行動した…


 が、


 それが、いかんかった…


 私が、太郎といっしょに、外出した、初っ端から、いきなり、女子高生が、数人、私と太郎を取り囲んだ…


 私は、ビックリした…


 いかに、この矢田トモコとて、女子高生に囲まれた経験など、なかったからだ…


 私は、焦った…


 焦りまくった…


 私より、二十歳近く、年下の女子高生相手に、なにを、しゃべっていいか、わからんかったからだ…


 だから、私が、なにか、言おうとすると、その前に、女子高生が、太郎を取り囲んで、


 「…やっぱり、可愛い…」


 とか、


 「…ネットで、見たけれど、本物は、もっと、カワイイね…」


 と、言い出した…


 私は、唖然とした…


 そして、つい、


 「…オマエたち、太郎を知っているのか?…」


 と、聞いた…


 「…知っているかって? もちろんです、お姉さん…」


 「…なんだと?…」


 「…お姉さんと、太郎ちゃんの大道芸は、ネットでアップされて、今、再生数が、ダントツですよ…」


 「…ダ、ダントツ?…」


 「…日本だけでなく、世界中で、話題になっています…」


 「…せ、世界中?…」


 いかん…


 それでは、当然、台湾でも、話題になっているに違いない…


 台湾で、話題になれば、当然、お義父さんの耳にも、入る…


 すると、お義父さんにも、恥をかかせることになる…


 万事休す!…


 最悪の事態だ!…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 が、


 そんな私との気持ちとは、裏腹に、女子高生たちが、


 「…お姉さん…凄い!…」


 と、私のことを、褒め出した…


 「…凄い? …なにが、凄いんだ?…」


 「…だって、お姉さん…35歳のシンデレラでしょ? …半年ちょっと前に、世間で、話題になった…」


 女子高生が、あっけらかんと言った…


 あっけらかんと、私の素性を喝破した…


 私は、呆然とした…


 呆然として、頭の中が、空白になった…


 まさか?


 まさか、私と太郎の大道芸の動画が、ネットにアップされているのは、知っていたが、私の素性まで、バレているとは、思わんかった…


 思わんかったのだ…


 いや、


 思わん私が、バカだった…


 思わん私が、愚かだった…


 私は、半年ちょっと前に、35歳のシンデレラとして、世に出た…


 世間に注目された…


 だから、ネットに太郎といっしょに、大道芸をしている姿をアップされれば、私の素性に、気付くものが、いても、おかしくはない…


 すでに、私の顔は、世間に、顔バレしている…


 だから、太郎といっしょに、大道芸をしているのが、この矢田だと、バレても、おかしくは、なかった…


 なかったのだ…


 この私としたことが…


 この矢田トモコとしたことが…


 まさに、痛恨のミスだった…


 余人なら、いざ知らず、この矢田トモコとも、あろうものが、痛恨のミス…


 まさに、ありえんミスだった…


 なんということだ…


 私は、自分を責めた…


 責めまくった(涙)…


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