35歳のシンデレラ 大道芸人編 41
そして、私が、そんなことを、考えていると、いきなり、
「…ハイ…お姉さん…」
と、リンダが、言って、私に太郎を返した…
私は、驚いた…
なにより、太郎は、重い…
猿だが、子猿ではない…
だから、普段は、あまり、太郎を抱いたことはない…
このリンダのマンションにやって来たときは、太郎を抱いたが、普段は、あまりない…
だから、いきなり、太郎をリンダから、渡されると、ドシッと、した…
まるで、重い荷物を、いきなり手渡されたようなものだからだ…
だから、驚いた…
また、なにより、リンダは、私より、はるかに、大柄…
この矢田は、身長159㎝…
片や、リンダは、175㎝…
カラダの大きさが、違う…
このリンダは、身長が、180㎝ある、あのバカ、バニラよりは、小さいが、女としては、大きい…
このリンダも、今は、ハリウッドのセックス・シンボルとして、世界中に知られているが、元は、あのバニラ同様モデル…
モデル上がりだ…
だから、背が高い…
カラダが、大きい…
だから、太郎を抱いていても、この矢田ほどの負担は、なかったろう…
要するに、太郎を抱いていても、この矢田ほど、太郎を重く感じないということだ…
私は、思った…
それから、
「…で、どうするの? …葉問?…」
と、リンダが、葉問に聞いた…
「…どうするって、どういう意味だ?…」
「…このお姉さんをどうするかって、こと…」
…なんだと?…
…この矢田をどうするか? だと?…
どういう意味だ?…
「…葉問…アナタ、このお姉さんを家に、連れ戻しにやって来たんでしょ?…」
「…なんだと?…」
私は、つい、声に出してしまった…
が、
リンダは、私を振り向かんかった…
リンダは、ただ、葉問を、見ていた…
「…リンダ…どうして、そう思う?…」
「…簡単よ…その方が、このお姉さんを守りやすい…ガードしやすいからよ…」
「…」
「…私の家にいるより、遥かに、守りやすい…だから、このお姉さんを、連れ戻しに来たんでしょ?…」
「…お見通しということか?…」
葉問が、苦笑した…
が、
私は、気に入らんかった…
なぜなら、この矢田が、家に帰るとなると、葉尊に会わなければ、ならなくなる…
私は、それが嫌だった…
葉尊に会わせる顔がないからだ…
だから、私は、
「…勝手に決めるんじゃないさ…」
と、怒鳴った…
「…私の意見は、どうなる?…」
「…お姉さんの意見?…」
と、リンダ…
「…そうさ…」
「…そんなものは、ないわ…」
「…なんだと?…」
「…いい、お姉さんは、狙われているの…だから、お姉さんを守らなきゃ、いけないでしょ? ここにいては、私は、お姉さんを守れない…だから、お姉さんは、家に帰るしかないの…」
「…家に、帰っても、ダメさ…」
「…どうして、ダメなの?…」
「…葉尊は、昼間、家にいないさ…だから、私を、守れんさ…」
葉尊=葉問…
目の前の葉問だ…
が、
葉問=葉尊…
葉尊は、日本の総合電機メーカー、クールの社長…
葉尊の父の葉敬が、クールを買収したからだ…
葉敬は、台湾の大企業、台北筆頭のオーナー社長…
一代で、台北筆頭を築き上げた、台湾の大金持ちだ…
その息子だから、葉尊は、まだ29歳の若さだが、日本の総合電機メーカー、クールの社長になれた…
だから、当たり前だが、普段は、家にいない…
クールの社長としての、仕事があるからだ…
帰って来るのは、原則、夜のみ…
土日や祭日は、原則、家にいるが、それでは、この矢田は、守れない…
私は、そう、思った…
すると、だ…
リンダが、
「…だったら、昼間は、お姉さんが、家から、一歩も出なければ、いいんじゃないの?…」
と、言った…
ある意味、当たり前のことだった…
が、
私は、その提案が、気に入らんかった…
言われてみれば、たしかに、その通りかも、しれんが、私は、束縛されるのが、嫌い…
一日中、家に閉じこもるのは、我慢ができん…
だから、
「…ダメさ…」
と、即答した…
「…どうして、ダメなの?…」
「…私は、一日中、家に閉じこもっている、女じゃないのさ…」
「…どういう意味?…」
「…一日中、家に、閉じこもっているのは、苦手さ…」
「…そんなこと、言われても…」
リンダが、不平を述べる…
すると、だ…
「…いい考えがある…」
と、今度は、葉問が、口を挟んだ…
「…いい考えだと?…」
私は、言った…
「…お姉さんの身近に、いいボディーガードがいる…」
「…ボディーガードって?…」
と、リンダ…
「…バニラさ…」
と、葉問が、言った…
…バニラだと?…
私は、驚いた…
あまりにも、意外な人選だった…
あまりにも、意外な名前だった…
まさか、ここで、バニラの名前が出て来るとは、思わんかった…
思わんかったのだ(汗)…
私が、そんなふうに、考えていると、葉問が、
「…バニラは、今、暇なはずだ…」
と、言った…
「…どうして、わかるの?…」
と、リンダ…
「…まもなく、葉敬が、来日する…だから、バニラもそれに合わせて、モデルの仕事を控えている…だから、今は、暇だ…」
「…そうか…たしかに、私も葉敬が、来日するから、それに合わせて、仕事の予定を組んできたけれども…私では、お姉さんを守れないもの…」
…なぜか、知らんが、このリンダと、葉問が、勝手に話を進めていた…
当事者の私を置き去りにして、勝手に話を進めていた…
私は、頭に来て、なにか、言おうとした…
なにより、私のボディーガードが、あのバニラでは、納得できんかった…
納得できんかったのだ…
だから、私が、
「…バニラは、困るさ…あのバカ、バニラは、困るさ…」
と、言おうとした途端に、リンダが、
「…まあ、バニラは、格闘技オタクだから、お姉さんを守るのに、適任ね…」
と、付け加えた…
…格闘技オタクだと?…
…あのバカ、バニラが?…
私が唖然として、リンダを見ていると、
「…お姉さんも、覚えているでしょ?…」
と、リンダが、私に言った…
「…私が、なにを覚えていると、言うんだ?…」
「…バニラが、以前、オスマンと、殴り合いの闘いをしたこと…」
私は、リンダに言われて、思い出した…
たしかに、以前、あのバニラは、娘のマリアの通う、セレブの子弟の通う保育園で、オスマンと殴り合った…
結果は、バニラの負けだったが、かなり善戦した…
いかに、バニラが、身長が、180㎝あろうとも、ありえん展開だった…
オスマンも、身長は、180㎝を超えていたが、男女の差がある…
だから、普通は、勝負にならない…
が、
バニラは、善戦した…
たしかに、普通に考えれば、ありえん話だった…
私が、そんなふうに、考えていると、
「…バニラは、格闘技オタク…見るのも、やるのも好き…」
と、リンダが、言った…
私は、卒倒寸前だった…
あのバニラが、まさか、格闘技をやるとは?
そんな事実を事前に知っていれば、この矢田とて、あのバニラにケンカを売ることは、なかった…
なかったのだ…
私は思った…
思ったのだ…
すると、だ…
「…それに、なにより、バニラは、このお姉さんと仲がいい…きっと、全力で、お姉さんを守ってくれるわ…」
リンダが、言った…
…あのバカ、バニラが、この矢田と仲がいいだと?…
…言うに事欠いて、あのバカと、私が、仲がいいだと?…
ありえん!
ありえん話だった…
私は、文字通り、目が点になった…
私の細い目が、点になった…
「…一体、私とバニラの関係を、どこをどう見れば、仲がいいと、言うんだ?…」
私は、怒鳴った…
すると、
「…いつも、見ているからよ…」
と、リンダが、ほざいた…
「…オマエの目は節穴か?…」
私は、怒鳴った…
「…アレは、バカだ…バカ、バニラだ…あんなバカと、私が、仲がいいはずは、あるまい…」
「…いいえ、そう思っているのは、お姉さんだけよ…」
「…なんだと? …私だけ?…」
「…きっと、お姉さんとバニラ以外は、皆、二人は、仲がいいと思っているわ…」
「…なんだと? …仲がいいだと?…」
私は、唖然とした…
まさに、まさか? だ…
一体、なぜだ?…
一体、どうしてだ?
どうして、この矢田とバニラが、仲がいいと、思うんだ?
わけが、わからんかった…
いや、
きっと、わけがわからんではない…
このリンダが、バカなんだ!
元々、このリンダは、男か女かも、わからん女だ…
相手にしても、仕方がない…
だから、私は、葉問に聞くことにした…
「…葉問…オマエは、私とバニラが、仲がいいと、思うか?…」
私は、聞いた…
が、
笑みを浮かべるだけで、答えんかった…
だから、私は、
「…正直に言え…いや、言ってくれ…オマエの目から見て、どう思う?…」
と、聞いた…
が、
それでも、葉問は、笑みを浮かべるだけで、なにも、言わんかった…
が、
そこで、ようやく、私は、気付いた…
もしや?
もしや?
この葉問とリンダは、私とバニラを二人きりにして、どういう展開になるか?
楽しんでいるんだと、思ったのだ…
プロレスのデスマッチではないが、私とバニラを二人きりにして、どちらかが、死ぬまで、闘うのを、見届ける…
そう、思ったのだ…
私は、ようやく、この二人の意図に気付いた…
この二人の意図=目的に、気付いた…
これは、なんとか、せねば、ならん…
やはり、この矢田の身を守ることのできる者は、この矢田一人…
他人は、当てにできん…
頼れるのは、自分ひとりだけ…
今さらながら、それを思い知った…
この矢田トモコ、35歳…
35歳にも、なって、初めて、思い知った残酷な現実だった(涙)…




