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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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40/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 40

まさかとは、思うが、初めて、太郎に対する疑念が、生じた…


 そして、それは、ハッキリ言えば、この太郎が、この矢田ではなく、リンダを選んだからだった…


 この太郎は、この十日間、いつも、この矢田といた…


 この矢田のために、動いてくれた…


 だから、この矢田は、太郎に、頭が、上がらんかった…


 この矢田ができんことを、いともたやすく太郎が、やってくれたからだ…


 が、


 今、初めて、太郎に、疑念が湧いた…


 この十日間、いつも四六時中、いっしょにいた、この矢田ではなく、リンダを選んだからだ…


 これは、ハッキリ言えば、裏切り…


 この矢田に対する裏切りだった…


 太郎は、この矢田ではなく、リンダを選んだのだ…


 これが、裏切りでなく、なんだと、言うんだ?…


 私は、思った…


 これが、太郎が、人間の男だったら、浮気だ…


 浮気=不倫だ…


 これまで、この十日間、この矢田と大道芸の旅を続けてきたにも、かかわらず、この矢田よりも、少しばかり、美人の女を見れば、そっちに、行く…


 これが、この矢田に対する裏切りでなく、なんだと言うんだ!…


 私は、思った…


 だから、私は、それを、言うべく、葉問を見た…


 葉問に、私の考えを、応援して、もらいたかったからだ…


 「…なあ、葉問…」


 私は、言った…


 「…なんですか? …お姉さん?…」


 「…オマエ…太郎を見て、どう思う?…」


 「…どう思うと、言うと?…」


 「…太郎をどう、思うか? だ…率直な意見を言え!…」


 「…率直な意見ですか?…」


 「…そうさ…」


 「…だったら、言います…よく訓練されている…」


 「…なんだと?…」


 「…今、リンダが、涙を流したのを見て、すぐに舐めるのは、どうしてだと、思いますか?…」


 「…わからんさ…リンダが、涙を流したからだろ?…」


 「…それも、あります…でも、誰かが、涙を流したら、舐めるようにと、調教されたとしたら、どうですか?…」


 「…バカな? …考え過ぎだろ?…」


 「…たしかに、考え過ぎかも、しれません…でも、いかに猿でも、人間が、涙を流すのを見て、すぐに、それを舐めるでしょうか?…」


 葉問が、言う…


 たしかに、葉問の言うことは、わかる…


 いかに、目の前で、誰かが、泣いたとしても、それを、舐めることは、普通は、しないだろう…


 だから、もしかしたら、誰かが、太郎をそのように、仕込んだのでは? と、疑うのだ…


 ハウツー本ではないが、誰かが、なにかをしたら、どうすれば、よいか、あらかじめ、仕込まれたのではないか?


 そう、疑うのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…二人とも、考え過ぎ…」


 と、いうリンダの声がした…


 「…考え過ぎだと?…」


 と、私。


 「…そうよ…考え過ぎ…」


 リンダが、言った…


 太郎に、ペロペロと、涙を舐められながら、リンダが、嬉しそうに、言った…


 私は、それを、見て、


…やはり、この女は、ダメだ!…


…やはり、この女は、使いものにならん!…


と、見限った…


さっきの葉問の言葉ではないが、この矢田も、アムンゼンやウィリアム皇太子同様、このリンダを見限ることにした…


いかに、太郎に、自分の流した涙を舐めてもらおうと、それと、太郎の背後に誰かいるのでは?


と、考えるのを、止めにするのとは、違う…


例えば、それは、仮に、女が、それまで、散々、悪口を言っていた男が、実は、実家が金持ちで、しかも、自分を好きだと、言われたのと、似ている…


それまで、散々、その男の悪口を言っていたにも、かかわらず、その事実を知って、コロッと、態度が、変わる…


それと、似ている…


その場合も、この太郎と、同じ…


その男の能力は、変わらん…


ブザイクが、美男に変わるわけでも、なんでもない…


仮面ライダーやウルトラマンのように、変身するわけでも、なんでもない…


ただ、その男の背後関係を知って、急に、態度を変える…


その男の実家が、お金持ちと知って、もしかしたら、その男と結婚すれば、自分も、お金持ちになれるかも、と、考え、態度が、豹変する…


それと、似ている…


が、


私は、そんな人間は、信用せん…


今まで、見てきた男が、すべて…


この矢田が、見てきた男が、すべて…


いかに、金持ちでも、頭が良くても、この矢田が、見てきたものが、すべて、だ…


この矢田の細い目が、見てきたものが、すべて、だ…


現に、この葉問だ…


この葉問は、私の夫の葉尊の、もうひとりの人格…


本当は、この世に、存在しない、人格だ…


が、


この矢田は、この葉問が、好き…


葉問の存在を、認めている…


その理由は、ただ一つ…


それは、この葉問が、常に、この矢田のために、行動するからだ…


そして、それは、これまで、この葉問と、知り合ってから、一度も、ブレたことはない…


この葉問と、知り合ったのは、当たり前だが、夫の葉尊と知り合ったのと、同じ時期…


そのときから、この葉問は、必ず、この矢田を助けてくれた…


そして、そのことに対して、見返りもなにも、求めなかった…


いや、


見返りを、求めようもなかったのかも、しれない…


なんといっても、この矢田だ…


この葉問に、お礼もなにも、与えることは、できんからだ…


私は、今、この葉問を見ながら、そんなことを、考えた…


が、


リンダは、別のことを、考えていたようだった…


ぺロペロと、太郎に、涙を舐められながらも、


「…葉問…今日、どうして、いきなり、この家にやって来たの? …目的は、なに?…」


と、いきなり、聞いた…


至極、冷静に聞いた…


「…まさか、私に会うのが、目的って、わけじゃないでしょ?…」


リンダが、笑った…


私は、その言葉を聞いて、今さらながら、このリンダと葉問の関係を考えた…


この葉問と、リンダの関係は、長い…


リンダ=ヤンと、葉尊は、幼馴染(おさななじみ)…


学生時代からの友人だ…


ということは、どうだ?


当然、この葉問もまた、このリンダ=ヤンと、同じくらい長い付き合いのはず…


だから、このリンダ=ヤンと、葉問の会話は、熟年夫婦というか…


すでに、長く付き合ったカップルのような間柄だ…


だから、二人の会話は、親密さというか…


長く付き合いのある間の人間にしか、できない、距離感がある…


距離感=親密さがある…


そして、そのリンダの質問に、葉問は、


「…」


と、答えなかった…


なにも、言わんかった…


それは、まるで、リンダに、


…自分で、考えろ!…


とでも、言っているようだった…


そして、それは、リンダに伝わったようだった…


なにしろ、長い付き合いだ…


相手が、なにを、考えているか、わかる…


当たり前のことだった…


まもなく、


「…答えないって、ことは、自分で、考えろってこと?…」


と、リンダが、聞いた…


「…その通りだ…」


「…どうして、私に考えさせるの?…」


「…オレが、なぜ、この場にやって来たのか、わからないようじゃ、この先も、オマエとの関係も、考えなきゃ、ならんだろ?…」


「…」


「…こんな簡単なことも、わからない、おバカさんを相手には、できんからな…せいぜい、ろくでもない、男に引っかかって、哀れな人生を送れ!…」


葉問が、滅茶苦茶、厳しい言葉を、リンダに浴びせた…


が、


リンダは、少しも、気分を害した様子は、なかった…


ただ、葉問の言葉を受け、真剣な表情で、考え込んでいた…


それから、すぐに、


「…お姉さんね?…」


と、言った…


「…わ、私?…」


思わず、声を上げた…


まさか、いきなり、この矢田の名前が、ここで出るとは、思わんかったからだ…


「…このお姉さんを守るために、現れたんでしょ?…」


「…ご想像にお任せする…」


葉問が笑った…


それから、リンダが、


「…それは、ひょっとして、アムンゼンからの指示?…」


と、意外なことを、言った…


私は、仰天した…


そんなことは、考えたことも、なかったからだ…


「…ひょっとして、葉問…アナタ…アムンゼンと繋がっている?…」


リンダが、指摘した…


が、


この質問には、葉問は、答えんかった…


私は、なぜ、葉問が、答えんのか?


考えた…


それは、アムンゼンが、いるからだ…


と、悟った…


この質問に答えるには、アムンゼンの許可がいる…


そう思ったのかも、しれない…


これは、変な話、芸能人の恋愛に似ている…


例えば、芸能レポーターが、交際が噂される男女のどちらかに、


「…〇〇さんと、お付き合いされてますね?…」


と、直撃されたとする…


その場合、当然、答えられない…


なぜなら、相手が、どう答えるか、わからないからだ…


芸能人は、人気商売…


付き合っていても、答えられない場合も、多いだろう…


さらに言えば、芸能人の場合は、事務所の関係もある…


イメージ商売ゆえに、所属する事務所に、お伺いを立てなければ、ならないだろう…


つまりは、そんな諸々の手続きをクリアして、初めて、付き合っていると、世間に発表できる…


それと、似ている…


私は、思った…


私は、考えた…


そして、私が、そんなことを、考えていると、


「…葉問…どうして、答えないの?…」


と、リンダ=ヤンが、面白そうに、言った…


「…答えないのは、私の指摘が当たっているということよ…」


「…ご想像にお任せする…」


葉問が、答える…


「…そう…」


と、言って、リンダが、笑った…


勝ち誇った笑いだった…


そして、私は、それを、見て、似た者夫婦だと、思った…


似た者同士だと、思った…


だから、二人は、気が合うのだろうと、思った…


お互いが、騙し合うというと、語弊があるが、互いの心を探り合うところがある…


決して、本音を明かさない…


が、


それが、互いに、ホッとするのかも、しれない…


仮に、互いに、本音を語っていても、気が合わない者は、合わない…


そういうものだ…


だから、決して、本音を語らずとも、気が合うに、越したことはない…


なにより、二人は、バカではない…


それもまた、あるのかも、しれない…


マンガではないのだから、例えば、東大を出た男や女と、偏差値40の高校を出た、男や女が、結婚できるわけがない…


仮に、結婚したとしても、結婚が、続くわけがない…


頭が、違うからだ…


だから、互いが、普段、話す話が、違う…


普段、話す内容が、違う…


そして、それは、東大とまでは、言わなくても、誰もが、身近な高校で、その地域の一番、頭の良い高校出身の子供と、偏差値40の子供が、結婚すると、考えれば、良い…


とてもではないが、うまくいかないことは、誰でも、わかる…


それと、同じだ…


この葉問と、リンダも、それと、同じだ…


頭の程度が、互いに、同じだから、話が合う…


頭の程度が、互いに、同じだから、気が合う…


そういうことだ…


私は、この葉問とリンダのやりとりを見て、今さらながら、そう、気付いた…


この矢田トモコ、35歳…


伊達に、これまで、生きてきたわけではない…


ただの胸の大きな女でもない…


優れた頭脳の持ち主だ!…


ただ、私の優れた頭脳が、あまり世間で、評価されないだけだ(涙)…


私は、思った…


思ったのだ…


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