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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ 大道芸人編 36

リンダの家にやって来るのは、久しぶりだった…


 一体、いつ、やって来たのか?


 すぐには、思い出せんかった…


 それほど、久しぶりだった…


 リンダの住む、高級マンション…


 実に、久しぶりだった…


 私は、嬉しかった…


 なにより、住む場所が、見つかったのが、嬉しかったのだ…


 私は、太郎と共に、リンダの家に入り、


 「…良かったさ…太郎…」


 と、言って、太郎を抱き締めた…


 すると、太郎もまた、


 「…キー」


 と、嬉しそうに鳴いた…


 「…やっと、住むところが、見つかったさ…」


 思わず、涙が出そうだった…


 私の細い目から、涙が、どっと溢れそうだった…


 そんな私を見た、リンダが、


 「…お姉さん…おおげさね…」


 と、笑った…


 が、


 私は、笑えんかった…


 笑えんかったのだ…


 やはり、家はいい…


 自分の家ではないが、家は、いい…


 安心できる…


 私が、そう、考えていると、


 「…お姉さん…そのお猿さんのことだけど…」


 と、切り出した…


 「…太郎が、どうかしたのか?…」


 「…一度、私の知り合いに、預けてみて、くれないかな?…」


 「…なんだと?…」


 「…私の知り合いに、猿というか、動物に詳しいひとがいるの…だから、そのひとに預ければ、このお猿さんが、これまで、どんな環境で、育ったのか、わかるかも…」


 リンダが、私と太郎を見ながら、言った…


 …このリンダの狙いは、それか?…


 私は、今さらながら、リンダの狙いに気付いた…


 まさか…


 まさか、リンダが、太郎を狙っているとは、露ほども、考えんかった…


 考えんかったのだ…


 「…ダメさ…」


 私は、答えた…


 「…ダメ?…」


 「…そうさ…」


 「…どうしても、ダメ?…」


 「…どうしても、ダメさ…」


 私は、返答した…


 私は、キッと、リンダを睨んだ…


 すると、リンダも、キッと、この矢田を睨み返した…


 互いに、睨み合った…


 私と、リンダが、真正面から睨み合った…


 こんな場面が、以前にあった…


 私は、それを、思い出した…


 いつ以来だろうか?


 考えた…


 そうだ…


 半年前だ…


 半年前に、このリンダと、この矢田が、闘った…


 この矢田の得意な分野…


 書道で、闘った…


 結果は、互角…


 その後、このリンダと、酒の勝負をし、この矢田が、勝った…


 そして、仲良くなった…


 互いの実力を認め合ったのだ…


 それ以来だった…


 その後、急速に、このリンダと、親しくなったが、実は、この矢田は、このリンダに、気を許すことがなかった…


 表面上は、ともかく、心の底から、気を許すことは、なかった…


 なぜなら、怪し過ぎるからだ(爆笑)…


 このリンダの素性が、怪し過ぎるからだ…


 このリンダは、普段は、いつも、男装している…


 男の格好をしている…


 そして、ヤンと名乗っている…


 今も、そうだ…


 それは、プライベートのときは、リンダ・ヘイワースの格好をしていると、ファンに見つかると、大騒ぎになり、困るからだと、以前、私に告げた…


 そして、私は、それを、信じた…


 が、


 それが、いつのまにか、リンダは、カラダは、女だが、心は、男…


 性の不一致…


 性同一性障害だと、言い出した…


 その証拠に、現在、29歳にも、かかわらず、処女だと、私の夫の父、葉敬に告げたのを、聞いた…


 私は、驚いた…


 その事実を聞いて、仰天した…


 今の時代、29歳で、処女でも、一般人ならば、構わない…


 しかし、リンダは、違う…


 ハリウッドのセックス・シンボルだ…


 世界中の男たちの憧れだ…


 そのリンダが、まさか、処女とは?


 仰天の告白だった…


 が、


 リンダが、性同一性障害ならば、それが、事実でも、おかしくない…


 見かけと中身が、違えば、それも、納得できる…


 さらに言えば、このリンダは、特別の情報網を持っている…


 いわゆる、リンダ・ヘイワースのファンたちの情報網…


 その中でも、特別にセレブのファンの情報網を持っている…


 その代表は、イギリスのウィリアム皇太子だ…


 ウイリアム皇太子を、筆頭とする、セレブのファンクラブを、作って、世界中のセレブの間に、情報網を持っている…


 つまり、世界中のセレブ=金持ちの動静を掴んでいるということだ…


 だから、きっと、さっき、アムンゼンの口から、サウジアラビア本国で、アムンゼンの腹違いの兄である、現国王と、その父である、前の国王が争っているという情報も、このリンダは、とっくに掴んでいた可能性もある…


 私は、それに、気付いた…


 そして、今も言ったように、このリンダが、そんなふうだから、イマイチ、信用できんかった…


 心の底から、信用できんかった…


 そして、そんなだから、今、このリンダが、いきなり、


 「…このお猿さんを私の知人に預けてみて…」


 と、突然、言っても、驚かんかった…


 いや、


 驚かんわけではなかったが、心の底から、驚いたわけではなかった…


 デジャブというか…


 デジャブ=既視感というか…


 このリンダが、この矢田を裏切ることがあっても、驚きがなかった…


 だから、思わず、


 「…オマエの狙いは、それか!…」


 と、叫んだ…


 「…エッ? …ナニ? 狙いって?…」


 「…この太郎が、オマエの狙いかと、聞いているのさ…」


 「…どういうこと?…」


 「…私と太郎を、この部屋に招いたことさ…私と太郎を油断させ、私から、太郎を引き離すつもりだろ?…」


 「…お姉さん…それは、考え過ぎじゃ…」


 「…ウソをつくんじゃないさ…オマエの狙いは、お見通しさ…」


 私は、断言した…


 「…オマエは、私をうまく騙したつもりかも、しれんが、私は、騙されんさ…」


 私は、言ってやった…


 「…オマエは、いつも、そうさ…私を油断させ、私を陥れるつもりさ…」


 「…そんな…お姉さん…」


 「…帰るさ…」


 私は、言った…


 「…お姉さん…帰るって?…」


 「…ここを、出て行くさ…」


 「…ここを、出て、一体、どこに行くと言うの?…」


 「…わからんさ…でも、オマエといるよりは、マシさ…」


 「…マシ?…」


 「…そうさ…信用できんヤツといっしょにいるよりは、はるかにマシさ…」


 私は、言って、部屋を出て行くことにした…


 当たり前だ…


 こんなところに、いては、私は、太郎と別れることに、なるかも、しれん…


 それは、嫌だった…


 どうしても、嫌だったのだ…


 私が、太郎を抱いたまま、出て行こうとすると、


 「…お姉さん…」


 と、リンダが、私の背中に、声をかけた…


 が、


 私は、振り向かんかった…


 「…リンダ…オマエと私は、もはや、他人さ…縁もゆかりもない他人さ…私が、オマエと二度といっしょに、いることは、ないさ…」


 「…そんな…お姉さん…」


 「…そんなも、こんなもないさ…」


 「…」


 「…ひとは、信頼を失っちゃ、おしまいさ…ひとから、信じてもらえなく、なっちゃ、おしまいさ…オマエは、信じるに値しない女さ…私は、今、それが、わかったのさ…」


 「…私は、信じるに、値しない女…」


 「…そうさ…だから、オマエを信じて、この家にやって来た私が、バカだったと、いうことさ…」


 私は、言った…


 力なく、言った…


 「…私は、愚かだったさ…オマエを、少しばかり信用した自分に腹が立つさ…オマエを少しばかり信じた自分がバカだったさ…」


 私は、言った…


 「…サラバさ…オマエは、台北筆頭のキャンペーンガール…だから、私が葉尊と離婚しない限りは、どこかで、会うかも、しれんさ…でも、プライベートで、オマエと二度と会うことは、ないさ…」


 「…お姉さん…」


 「…サラバさ…」


 私は、言って、太郎を抱いたまま、リンダの部屋を出ようとした…


 が、


 できんかった…


 なぜなら、私が、部屋から出ようとすると、入ってきた人間が、いたからだ…


 その人間は、私より、はるかに、大柄だった…


 159㎝の私より、はるかに、大きかった…


 が、


 私は、女…


 入ってきた人間は、男だった…


 だから、女の私より、大きいのが、当たり前だった…


 だが、私が、驚いたのは、そんなことではない…


 私は、その人物に見覚えがあった…


 いや、


 見覚えがあるどころでは、ない…


 私は、その人物が誰だか、知っていた…


 その大柄な人物が、誰か、知っていた…


 当たり前だった…


 その男の名前は、葉尊…


 私の夫だった…


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