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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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35/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 35

結局、その後は、どうでもよい、よもやま話というか…


 とりとめのない話をして、別れた…


 私は、リンダと太郎と共に、アムンゼンの私邸を出ると、どうして、いいか、わからんかった…


 すでに、迎えのクルマを用意して、くれていたので、帰ることは、できたが、どこに帰っていいか、わからんかった…


 まさか、葉尊のいる、自宅には、帰れんかったからだ…


 私は、太郎を私の膝の上に、置いたまま、悩んだ…


 どこに、帰っていいか、悩んだ…


 そして、そんな私の悩みが、見て取れたのだろう…


 隣に、座る、リンダが、


 「…私の自宅に…」


 と、運転手に告げた…


 「…自宅? …どこですか?…」


 「…それは…」


 リンダが、詳しい住所を告げた…

 

 それから、私に、


 「…お姉さんも、しばらく、私の家で、暮らせばいいわ…」


 と、付け加えた…


 「…いいのか?…」


 私は、とっさに、言った…


 「…だって、お姉さん…そのお猿さんと、いっしょに、泊まれる、ネットカフェを探すのも、大変でしょ?…」


 「…それは、そうだが…」


 「…お姉さん…すごく、落ち込んで見えるわ…」


 「…そうか?…」


 「…だから、アムンゼンは、私を呼んだのよ…」


 「…なんだと? …アムンゼンが、リンダ…オマエを呼んだだと?…」


 「…だって、考えて見て、お姉さん…お姉さんが、どこにいるかなんて、どうして、私にわかるの?…」


 リンダが、笑った…


 私は、考えた…


 たしか、あのとき…


 私と太郎と、アムンゼンが、ネットカフェから出てきたときに、このリンダが、突然、目の前に現れた…


 突然、リンダが、目の前に現れたことに、驚いた私は、


 「…リンダ…どうして、オマエ、ここがわかった?…」


 と、聞くと、


 「…蛇の道は、蛇というやつよ…」


 と、このリンダが、答えた…


 そのリンダの返答を聞き、アムンゼンが、


 「…ネットですね?…」


 と、すぐに、言った…


 「…ネットに、太郎さんと矢田さんが、大道芸をしているところが、アップされてます…TiKTоKか、ユーチューブにアップした映像を見て、居場所が、わかったのですね…」


 と、説明した…


 私は、それを聞いて、


 …だからか?…


 と、内心、思った…


 …だから、ここが、わかったのか?…


 と、考えた…


 私が、どうして、ここにいるか、わかったのか?


 と、思ったのだ…


 アムンゼンの説明は、完璧だった…


 誰が、聞いても、十分納得のできるものだった…


 だから、その説明を信じた…


 が、


 まさか、本当は、アムンゼン自身が、このリンダに、自分たちの居場所を告げたとは、思わんかった…


 まさに、まさか、だ…


 が、


 一体、どうして、アムンゼンは、そんなことを、したのだろう?


 謎がある…


 だから、私は、


 「…どうして、アムンゼンは、そんなことをしたんだ?…」


 と、リンダに聞いた…


 「…お姉さんが、心配だったからでしょ?…」


 呆気なく、リンダが、答えた…


 「…私が、心配?…どうして、心配なんだ?…」


 「…お姉さんが、好きだからに、決まっているじゃない!…」


 「…私が、好き?…」


 「…お姉さん…知らなかったの?…」


 「…知らんかったさ…」


 「…さっきだって、お姉さんと、アムンゼンが、母子に、見られると、言ったら、アムンゼン、嬉しそうだったわ…」


 「…嬉しそう?…」


 …ウソだ?…


 明らかに、アムンゼンは、戸惑っていた…


 いきなり、この矢田とアムンゼンが、母子に見られると、言われて、戸惑っていた…


 だから、


 「…私には、そうは、見えんかったが…」


 と、言った…


 わざと、言ったのだ…


 「…たしかに、お姉さんの言う通り…嬉しそうな表情は、見せなかった…でも…」


 「…でも、なんだ?…」


 「…嫌そうでも、なかったでしょ?…」


 「…」


 「…たぶん、アムンゼンも、いきなり、お姉さんと母子に見えると言われて、どう反応していいか、わからなかったんでしょ?…」


 リンダが、まとめた…


 「…でも、たぶん、今は、嬉しがっているわ…」


 「…どうして、わかる?…」


 「…さっきも言ったように、アムンゼンは、お姉さんが好きだからよ…」


 「…私が、好き?…」


 「…だから、いつまでも、このお猿さんと、大道芸を、観客に見せて、生活をさせるわけには、いかないと、思って、私に連絡をくれたの…」


 …なるほど、そういうわけか?…


 私は、思った…


 今さらながら、思った…


 「…そして、今、さっき、私とお姉さんをアムンゼンの私邸に、連れて行ったのも、そう…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…だって、いきなり、私が、お姉さんを迎えに行って、さあ、家に帰りましょう、と、お姉さんに言っても、家に戻らないでしょ?…だから、一旦、アムンゼンの私邸に行って、みんなで、お茶して、それから、私に、お姉さんを、連れて帰らせるつもりだったの…」


 …そうか?…


 …そうだったんだ?…


 今さらながら、アムンゼンの行動に気付いた…


 「…お姉さんを好きだから、心配だったのよ…いつまでも、このお猿さんと大道芸をさせているわけには、いかないでしょ?…」


 リンダが、繰り返した…


 「…だからよ…」


 リンダが、説明した…


 そして、リンダに、そう説明されると、私は、ぐうの根も出んかった…


 たしかに、アムンゼンのいうことは、わかる…


 私とて、この一週間ちょっと、太郎と大道芸の旅をしながら、不安で、不安で、仕方がなかった…


 いつまで、こんな生活を続けているのか?


 不安で仕方がなかった…


 それが、人間だろう…


 少し、おおげさに、いえば、ホームレスと同じだった…


 いや、


 おおげさでなく、同じだった…


 太郎が、いなければ、私は、ホームレスと、同じだった…


 太郎が、大道芸を見せてくれたから、私は、生活できた…


 普通に、生活できた…


 太郎の芸を、見た観客が、それなりのお金を、私に払ってくれたからだ…


 だから、生活できた…


 普段と同じように、普通にコンビニに入り、普段と同じように、普通に、ネットカフェに泊まった…


 だから、この生活に不満はなかった…


 なんの不満もなかった…


 が、


 しかし、だ…


 将来に不安があった…


 いつまで、こんな生活を続けているのか?


 と、いう不安があった…


 当たり前のことだ…


 そして、その不安も、太郎が、少しばかりだが、癒してくれた…


 これも、どんな人間もいっしょだが、ひとりぼっちでは、寂しい…


 だから、犬でも、猫でも、身近にいれば、癒される…


 よく、独身の男女が、家で、犬や猫を飼うのと同じだ…


 一人では、寂しいから、動物を飼う…


 相手は、動物だから、しゃべれない…


 相手は、人間では、ないから、しゃべれない…


 でも、誰もいないより、まし…


 一人でいるよりも、楽しい…


 一人で、いるよりも、心が安らぐからだ…


 私も同じだった…


 太郎のおかげで、心が安らいだ…


 太郎がいたおかげで、ホッとした…


 だから、考えれば、考えるほど、私にとって、太郎は、恩人だった…


 まさに、恩猿だったのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…でも、そのお猿さん…」


 と、いきなり、リンダが、切り出した…


 「…なんだ? …太郎がどうかしたのか?…」


 「…随分、かしこいわね…」


 リンダが、私の思っていることと、同じことを言った…


 「…一体、誰に飼われていたんだろ?…」


 私は、なにも、言わなかった…


 「…」


 と、答えんかった…


 それから、さらに、リンダが、続けた…


 「…このお猿さんが、お姉さんの元にやって来たのは、偶然? 偶然なの?…」


 言いながら、リンダは、私の顔を、見た…


 私は、なにも、言わんかった…


 「…」


 と、答えんかった…


 すると、リンダは、私に顔を寄せ、


 「…お姉さん…偶然だと、思う?…」


 と、さらに、聞いてきた…


 それでも、私は、


 「…」


 と、答えんかった…


 答えんかったのだ…


 が、


 リンダはしつこかった…


 「…ねえ…」


 と、さらに、私に顔を近付け、聞いて来た…


 だから、さすがに、私も、答えざるを得んかった…


 「…そんなことは、どうでも、いいのさ…」


 私は、言ってやった…


 「…どうでも、いい?…」


 リンダが、キョトンとした表情になった…


 「…そうさ…」


 「…どうして、どうでもいいの?…」


 「…太郎は、恩人さ…猿だから、恩猿さ…私は、太郎に世話になった…太郎に、面倒をみてもらった…だから、どうでもいいのさ…」


 私は、言ってやった…


 断言してやった…


 ここまで、断言すれば、このリンダも、これ以上、言って来ないと、思ったのだ…


 が、


 リンダは、続けた…


 意外な話題を振った…


 「…お姉さんの言うことは、わかる…でも…」


 「…でも、なんだ?…」


 「…もし、もしもよ…このお猿さんの飼い主が、突然、現れたら?…」


 「…どういうことだ?…」


 「…このお猿さんは、それまで、誰かに飼われていたことは、間違いない…誰が、見ても、野性の猿じゃない…野生の猿ならば、こんなに、人懐っこくはない…」


 「…」


 「…つまり、訓練されている…人間に、調教されている…」


 「…リンダ…なにが、言いたい?…」


 「…私が言いたいのは、このお猿さんが、お姉さんになつき、お姉さんに気に入られる…つまり、お姉さんの懐に入る…」


 「…私の懐に入るだと?…」


 「…今、お姉さんは、このお猿さんに、全幅の信頼を置いている…でも、このお猿さんの前に、以前の飼い主が、現れれば、どうなるか?…」


 「…どうなると、言うんだ?…」


 「…以前の飼い主が、このお猿さんに、なになにをしろと、命じる…真逆に、お姉さんは、そんなこと、しちゃ、ダメだと、お猿さんを、止める…そのとき、このお猿さんは、どっちの命令に従うと、思う?…」


 …そんなことは、考えたことは、なかった…


 …そんな事態は、想定したことがなかった…


 だから、答えれんかった…


 なんと、言っていいか、わからんかった…


 「…いずれにしろ、今回、サウジの一件もある…アムンゼンが、言った、サウジアラビアの王室の争いもある…まさかとは、思うけれども、このお猿さんが、その争いに、関わっているかも、なんて…」


 リンダが、冗談ぽく、笑った…


 が、


 私は、笑えんかった…


 まさかとは、思うが、その可能性は、否定できん…


 そもそも、この矢田が、街を歩いていて、偶然、太郎と知り合うことなど、あろうか?


 そんな、偶然があるのか?


 誰かが、仕組んでいると、考えるのが、正しいのではないか?


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考え続けていると、やがて、リンダの家に、クルマが、到着した…


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