35歳のシンデレラ 大道芸人編 33
…なんだか、凄い話になってきた…
私は、今さらながら、考えた…
私は、今さらながら、思った…
この平凡な矢田トモコが、なんだか、わからんが、サウジアラビアの王室の争いに、巻き込まれている…
今さらながら、気付いた…
そして、脳裏に、
…逃げるか?…
という、言葉が、浮かんだ…
…この場から、急いで、逃げ出すか?…
という、言葉が、浮かんだ…
同時に、
…巻き込まれては、いかん!…
…こんな大層な争いに巻きまれては、いかん!…
と、気付いた…
だから、私は、急いで、この場から、逃げ出すべく、足を止め、後ずさりした…
一刻も早く、この場から、逃げ出そうとしたのだ…
が、
できんかった…
なぜなら、ふと見ると、太郎が、哀し気な表情で、私を見ているのが、わかったからだ…
太郎は、鳴くことは、なかったが、哀し気な表情で、この矢田を見ているのが、わかった…
きっと太郎には、今すぐ、この場から、逃げ出そうとする、この矢田の行動が、手に取るように、わかったのだろう…
今すぐ、自分だけ、この場から、逃げ出そうとする、この矢田の気持ちが、わかったのだろう…
それに、気付くと、この矢田だけ、逃げ出すことは、できんかった…
なにより、太郎を、このまま、残すことは、できんかった…
太郎は、この矢田の恩人…
恩猿だ…
その太郎を残して、この矢田だけ、逃げ出すわけには、いかんかった…
だから、私は、太郎の顔を見ながら、
「…わかったさ…太郎…逃げたりせんさ…」
と、私は、心の中で、太郎に呟いた…
「…そんな目で、見るな…太郎…私は、決して、オマエを、置いて、一人だけ、逃げたりしないさ…約束するさ…」
と、私は、心の中で、太郎に約束した…
すると、どうだ?
太郎の表情から、哀し気な表情が、消えた…
むしろ、一瞬にして、嬉しそうな表情に変わった…
私は、驚いた…
まさか、こんな一瞬で?
私が、ビックリしていると、背後から、
「…矢田さんの心の内は、太郎さんは、お見通しです…」
と、いうアムンゼンの声が、聞こえた…
「…なんだと? …お見通しだと?…」
私は、つい、うっかり、アムンゼンの言葉に、反応してしまった…
「…矢田さん、今、この場から、逃げ出そうとしたでしょ?…」
「…なんだと?…」
「…隠しても、無駄です…」
「…どうして、わかる?…」
「…足ですよ…足…」
「…足だと?…足が、どうしたと、言うんだ?…」
「…足先が、ボクたちが、行こうとする反対の方に、向いてます…それを、見れば、誰でも、矢田さんが、この場から、逃げ出そうとしているのは、わかります…」
アムンゼンが、説明した…
私は、ぐうの音も、出んかった…
その通り…
まさに、その通りだからだった…
私とアムンゼンのやり取りを見て、リンダと、オスマンが、苦笑した…
声には、出さんが、苦笑した…
「…ホント、お姉さんらしい…」
と、リンダが、笑った…
「…いかにも、バレバレな行動をして…」
「…なんだと? …どうして、バレバレなんだ?…」
「…お姉さん、気が小っちゃいでしょ? …なにか、騒動が、起きかけると、急いで、逃げちゃうの…しかも、みんな、それがわかってる(笑)…」
リンダが、笑う…
「…だから、お姉さんを見てると、こんなときは、きっと、お姉さんは、逃げようとすると、考えていると、お姉さんは、その通りに、動く…まさに、期待を裏切らないというか…」
「…漫才のセオリー通りです…」
と、アムンゼンが、まとめた…
「…矢田さんが、ボケて、リンダさんが、突っ込む…お見事です…」
アムンゼンが、言うと、
「…キー」
と、太郎が、声をあげた…
嬉しそうに、声をあげた…
私は、なんと言っていいか、わからんかった…
本当は、怒るところだが、太郎が、楽しそうに、声をあげている…
太郎のことを、考えると、私は、怒るわけには、いかんかった…
太郎を哀しませることは、できんかった…
だから、私は我慢した…
この屈辱を我慢した…
が、
忘れることは、できんかった…
いつか、この太郎の見ていないところで、このリンダとアムンゼンに、意地悪をしてやろうと、心に決めた…
決めたのだ…
その後、私たち4人は、応接室に入った…
応接室は、豪華だった…
豪華そのものだった…
「…矢田さんも、リンダさんも、お座りください…」
と、アムンゼンが、言った…
それから、
「…太郎さんも…」
ち、付け加えた…
私たちは、アムンゼンの言葉に従って、席に着いた…
最初は、リンダは、太郎を抱いていたが、アムンゼンが、
「…リンダさん、いつまでも、太郎さんを抱いているのは、疲れるでしょ?…」
と、言って、太郎に、私たちと同じように、席に着かせた…
つまりは、太郎は、まるで、人間のように、扱われた…
が、
全然、違和感が、なかった…
なぜなら、
「…太郎さんは、この席で…」
と、アムンゼンが、言うと、太郎が、その通りにしたからだ…
私は、驚いた…
いや、
私だけではない…
驚いたのは、リンダも、オスマンも同じだった…
いや、
アムンゼンも、同じだった…
「…このお猿さん…ホントに、よく訓練されているわね…」
と、リンダが、感嘆した…
「…たしかに…」
オスマンも、同意する…
「…まるで、人間みたいです…」
アムンゼンが、まとめた…
「…おそらくは、才能ある猿を、見つけ、うまく調教したに違いありません…」
「…才能ある猿だと? …アムンゼン、それは、どういう意味だ?…」
私は、聞いた…
「…人間でも、猿でも、鳥でも、同じです…皆、それぞれ、生まれ持った能力が、違います…才能が違います…人間でも、同じように、教えても、この日本では、東大に、行けるわけでは、ありません…サッカーをやれば、誰でも、プロになれるわけでは、ありません…」
「…」
「…おそらく、この太郎さんを、仕込んだのは、多くの猿の中から、一番、才能のある猿を見つけて、調教したに、違いありません…」
「…」
「…それとも、これは、考え過ぎでしょうか?…」
アムンゼンが、呟いた…
「…たしかに、考え過ぎかも、しれません…ですが、ボクは、この太郎さんを見ていると、どうしても、そうとしか、思えない…たまたま、才能のある猿が、偶然、この太郎さんだと、いうことは、思えない…」
アムンゼンが、自問自答した…
アムンゼンが、首をひねった…
私は、それを、聞いて、考えた…
何度も、言うように、この太郎の持ち主は、アンナ…
セレブの保育園の社会見学で、動物園に行く、サロンバスの中で、偶然、アンナのバスケットから、太郎が逃げ出したのだ…
それゆえ、サロンバスの中に、猿が、いるのが、わかって、大騒ぎになり、太郎は、偶然、この矢田の元にやって来た…
しかも、
しかも、だ…
私は、初めて、太郎に会ったにも、かかわらず、この太郎は、私になついた…
これは、単なる偶然だろうか?
謎がある…
あのとき、アンナのバスケットから、この太郎が、逃げ出して、この私の元にやって来たのは、偶然だろうか?
偶然にしては、出来過ぎているのでは、ないだろうか?
それとも、あのアンナは、事前に、この太郎を調教して、この矢田の元に、やって来るように、仕向けた?
これは、考え過ぎだろうか?
頭の良い、太郎なら、調教すれば、それも、できるかも、しれない…
私は、考えた…
そして、
そして、だ…
あの後、動物園に、行って、あのアンナが、太郎を、きちんと、動物園に預けたのか、どうか?
この矢田は、知らない…
アンナに言わせると、この太郎は、拾ったと言っていた…
だから、動物園に預けると、言っていた…
それゆえ、あの日、アンナは、この太郎をバスケットに入れて、連れて来たと、言っていた…
だから、アンナの言葉を信じるならば、あの後、この太郎は、動物園に預けられたはずだ…
が、
現実は、この通り、今は、この矢田の隣にいる…
偶然、この矢田が、街を歩いていたときに、この太郎と会ったのだ…
太郎が、一人で、街を歩いていたのだ…
それゆえ、太郎と再会した…
この矢田が、あのバカ、バニラと大喧嘩をして、夫の葉尊と住む、マンションから、逃げ出した…
その直後に、この太郎と、街で、再会したのだ…
そして、この太郎と、この矢田のやり取りを、偶然、見た人たちが、私を大道芸人だと、間違え、お金をくれた…
それが、今から、一週間ちょっと前…
それから、この一週間ちょっと、この太郎と、大道芸を見せで、観客から、お金を、もらって、生きてきた…
だから、太郎は、恩人だった…
いや、
猿だから、恩猿だった…
が、
それは、すべて、偶然だろうか?
誰かが、シナリオを書いているのでは、ないだろうか?
そう、考えるのは、うがちすぎだろうか?
そう、考えるのは、考え過ぎだろうか?
私は、思った…
そして、私が、そんなふうに、考えるのは、すべて、太郎のせい…
太郎が、かしこすぎるからだ…
太郎が、優秀過ぎるからだ…
だから、疑る…
太郎を疑る…
いや、
太郎を疑るのではない…
誰が、太郎をしつけたか、疑るのだ…
私は、思った…
そして、それは、ちょうど、このアムンゼンと会ったときと、同じだった…
何度も言うように、このアムンゼンは、小人症…
ホントは、30歳にもかかわらず、外見は、3歳にしか、見えない…
だから、あのセレブの保育園に、このアムンゼンは、身を隠したが、誰も、気付かなかった…
が、
当然、周囲の園児たちと、このアムンゼンは、うまくいかない…
周囲の園児たちと、このアムンゼンは、なじめない…
当然だ…
30歳のれっきとした大人が、3歳の保育園児たちといっしょの立場に、なじめるはずが、ないからだ…
それで、このアムンゼンが、実は、大人であることに、私は、気付いた…
それと、この太郎の場合も、同じかも、しれない…
要するに、違和感…
拭いきれない違和感を、感じたのだ…
だから、太郎には、謎がある…
いや、
太郎に謎があるのではない…
太郎が、なぜ、この矢田の前に現れたか?
その経緯に、謎があるのだ…
私は、思った…
今さらながら、考えた…




