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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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33/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 33

…なんだか、凄い話になってきた…


 私は、今さらながら、考えた…


 私は、今さらながら、思った…


 この平凡な矢田トモコが、なんだか、わからんが、サウジアラビアの王室の争いに、巻き込まれている…


 今さらながら、気付いた…


 そして、脳裏に、


 …逃げるか?…


 という、言葉が、浮かんだ…


 …この場から、急いで、逃げ出すか?…


 という、言葉が、浮かんだ…


 同時に、


 …巻き込まれては、いかん!…


 …こんな大層な争いに巻きまれては、いかん!…


 と、気付いた…


 だから、私は、急いで、この場から、逃げ出すべく、足を止め、後ずさりした…


 一刻も早く、この場から、逃げ出そうとしたのだ…


 が、


 できんかった…


 なぜなら、ふと見ると、太郎が、哀し気な表情で、私を見ているのが、わかったからだ…


 太郎は、鳴くことは、なかったが、哀し気な表情で、この矢田を見ているのが、わかった…


 きっと太郎には、今すぐ、この場から、逃げ出そうとする、この矢田の行動が、手に取るように、わかったのだろう…


 今すぐ、自分だけ、この場から、逃げ出そうとする、この矢田の気持ちが、わかったのだろう…


 それに、気付くと、この矢田だけ、逃げ出すことは、できんかった…


 なにより、太郎を、このまま、残すことは、できんかった…


 太郎は、この矢田の恩人…


 恩猿だ…


 その太郎を残して、この矢田だけ、逃げ出すわけには、いかんかった…


 だから、私は、太郎の顔を見ながら、


 「…わかったさ…太郎…逃げたりせんさ…」


 と、私は、心の中で、太郎に呟いた…


 「…そんな目で、見るな…太郎…私は、決して、オマエを、置いて、一人だけ、逃げたりしないさ…約束するさ…」


 と、私は、心の中で、太郎に約束した…


 すると、どうだ?


 太郎の表情から、哀し気な表情が、消えた…


 むしろ、一瞬にして、嬉しそうな表情に変わった…


 私は、驚いた…


 まさか、こんな一瞬で?


 私が、ビックリしていると、背後から、


 「…矢田さんの心の内は、太郎さんは、お見通しです…」


 と、いうアムンゼンの声が、聞こえた…


 「…なんだと? …お見通しだと?…」


 私は、つい、うっかり、アムンゼンの言葉に、反応してしまった…


 「…矢田さん、今、この場から、逃げ出そうとしたでしょ?…」


 「…なんだと?…」


 「…隠しても、無駄です…」


 「…どうして、わかる?…」


 「…足ですよ…足…」


 「…足だと?…足が、どうしたと、言うんだ?…」


 「…足先が、ボクたちが、行こうとする反対の方に、向いてます…それを、見れば、誰でも、矢田さんが、この場から、逃げ出そうとしているのは、わかります…」


 アムンゼンが、説明した…


 私は、ぐうの音も、出んかった…


 その通り…


 まさに、その通りだからだった…


 私とアムンゼンのやり取りを見て、リンダと、オスマンが、苦笑した…


 声には、出さんが、苦笑した…


 「…ホント、お姉さんらしい…」


 と、リンダが、笑った…


 「…いかにも、バレバレな行動をして…」


 「…なんだと? …どうして、バレバレなんだ?…」


 「…お姉さん、気が小っちゃいでしょ? …なにか、騒動が、起きかけると、急いで、逃げちゃうの…しかも、みんな、それがわかってる(笑)…」


 リンダが、笑う…


 「…だから、お姉さんを見てると、こんなときは、きっと、お姉さんは、逃げようとすると、考えていると、お姉さんは、その通りに、動く…まさに、期待を裏切らないというか…」


 「…漫才のセオリー通りです…」


 と、アムンゼンが、まとめた…


 「…矢田さんが、ボケて、リンダさんが、突っ込む…お見事です…」


 アムンゼンが、言うと、


 「…キー」


 と、太郎が、声をあげた…


 嬉しそうに、声をあげた…


 私は、なんと言っていいか、わからんかった…


 本当は、怒るところだが、太郎が、楽しそうに、声をあげている…


 太郎のことを、考えると、私は、怒るわけには、いかんかった…


 太郎を哀しませることは、できんかった…


 だから、私は我慢した…


 この屈辱を我慢した…


 が、


 忘れることは、できんかった…


 いつか、この太郎の見ていないところで、このリンダとアムンゼンに、意地悪をしてやろうと、心に決めた…


 決めたのだ…



 その後、私たち4人は、応接室に入った…


 応接室は、豪華だった…


 豪華そのものだった…


 「…矢田さんも、リンダさんも、お座りください…」


 と、アムンゼンが、言った…


 それから、


 「…太郎さんも…」


 ち、付け加えた…


 私たちは、アムンゼンの言葉に従って、席に着いた…


 最初は、リンダは、太郎を抱いていたが、アムンゼンが、


 「…リンダさん、いつまでも、太郎さんを抱いているのは、疲れるでしょ?…」


 と、言って、太郎に、私たちと同じように、席に着かせた…


 つまりは、太郎は、まるで、人間のように、扱われた…


 が、


 全然、違和感が、なかった…


 なぜなら、


 「…太郎さんは、この席で…」


 と、アムンゼンが、言うと、太郎が、その通りにしたからだ…


 私は、驚いた…


 いや、


 私だけではない…


 驚いたのは、リンダも、オスマンも同じだった…


 いや、


 アムンゼンも、同じだった…


 「…このお猿さん…ホントに、よく訓練されているわね…」


 と、リンダが、感嘆した…


 「…たしかに…」


 オスマンも、同意する…


 「…まるで、人間みたいです…」


 アムンゼンが、まとめた…


 「…おそらくは、才能ある猿を、見つけ、うまく調教したに違いありません…」


 「…才能ある猿だと? …アムンゼン、それは、どういう意味だ?…」


 私は、聞いた…


 「…人間でも、猿でも、鳥でも、同じです…皆、それぞれ、生まれ持った能力が、違います…才能が違います…人間でも、同じように、教えても、この日本では、東大に、行けるわけでは、ありません…サッカーをやれば、誰でも、プロになれるわけでは、ありません…」


 「…」


 「…おそらく、この太郎さんを、仕込んだのは、多くの猿の中から、一番、才能のある猿を見つけて、調教したに、違いありません…」


 「…」


 「…それとも、これは、考え過ぎでしょうか?…」


 アムンゼンが、呟いた…


 「…たしかに、考え過ぎかも、しれません…ですが、ボクは、この太郎さんを見ていると、どうしても、そうとしか、思えない…たまたま、才能のある猿が、偶然、この太郎さんだと、いうことは、思えない…」


 アムンゼンが、自問自答した…


 アムンゼンが、首をひねった…


 私は、それを、聞いて、考えた…


 何度も、言うように、この太郎の持ち主は、アンナ…


 セレブの保育園の社会見学で、動物園に行く、サロンバスの中で、偶然、アンナのバスケットから、太郎が逃げ出したのだ…


 それゆえ、サロンバスの中に、猿が、いるのが、わかって、大騒ぎになり、太郎は、偶然、この矢田の元にやって来た…


 しかも、


 しかも、だ…


 私は、初めて、太郎に会ったにも、かかわらず、この太郎は、私になついた…


 これは、単なる偶然だろうか?


 謎がある…


 あのとき、アンナのバスケットから、この太郎が、逃げ出して、この私の元にやって来たのは、偶然だろうか?


 偶然にしては、出来過ぎているのでは、ないだろうか?


 それとも、あのアンナは、事前に、この太郎を調教して、この矢田の元に、やって来るように、仕向けた?


 これは、考え過ぎだろうか?


 頭の良い、太郎なら、調教すれば、それも、できるかも、しれない…


 私は、考えた…


 そして、


 そして、だ…


 あの後、動物園に、行って、あのアンナが、太郎を、きちんと、動物園に預けたのか、どうか?


 この矢田は、知らない…


 アンナに言わせると、この太郎は、拾ったと言っていた…


 だから、動物園に預けると、言っていた…


 それゆえ、あの日、アンナは、この太郎をバスケットに入れて、連れて来たと、言っていた…


 だから、アンナの言葉を信じるならば、あの後、この太郎は、動物園に預けられたはずだ…


 が、


 現実は、この通り、今は、この矢田の隣にいる…


 偶然、この矢田が、街を歩いていたときに、この太郎と会ったのだ…


 太郎が、一人で、街を歩いていたのだ…


 それゆえ、太郎と再会した…


 この矢田が、あのバカ、バニラと大喧嘩をして、夫の葉尊と住む、マンションから、逃げ出した…


 その直後に、この太郎と、街で、再会したのだ…


 そして、この太郎と、この矢田のやり取りを、偶然、見た人たちが、私を大道芸人だと、間違え、お金をくれた…


 それが、今から、一週間ちょっと前…


 それから、この一週間ちょっと、この太郎と、大道芸を見せで、観客から、お金を、もらって、生きてきた…


 だから、太郎は、恩人だった…


 いや、


 猿だから、恩猿だった…


 が、


 それは、すべて、偶然だろうか?


 誰かが、シナリオを書いているのでは、ないだろうか?


 そう、考えるのは、うがちすぎだろうか?


 そう、考えるのは、考え過ぎだろうか?


 私は、思った…


 そして、私が、そんなふうに、考えるのは、すべて、太郎のせい…


 太郎が、かしこすぎるからだ…


 太郎が、優秀過ぎるからだ…


 だから、疑る…


 太郎を疑る…


 いや、


 太郎を疑るのではない…


 誰が、太郎をしつけたか、疑るのだ…


 私は、思った…


 そして、それは、ちょうど、このアムンゼンと会ったときと、同じだった…


 何度も言うように、このアムンゼンは、小人症…


 ホントは、30歳にもかかわらず、外見は、3歳にしか、見えない…


 だから、あのセレブの保育園に、このアムンゼンは、身を隠したが、誰も、気付かなかった…


 が、


 当然、周囲の園児たちと、このアムンゼンは、うまくいかない…


 周囲の園児たちと、このアムンゼンは、なじめない…


 当然だ…


 30歳のれっきとした大人が、3歳の保育園児たちといっしょの立場に、なじめるはずが、ないからだ…


 それで、このアムンゼンが、実は、大人であることに、私は、気付いた…


 それと、この太郎の場合も、同じかも、しれない…


 要するに、違和感…


 拭いきれない違和感を、感じたのだ…


 だから、太郎には、謎がある…


 いや、


 太郎に謎があるのではない…


 太郎が、なぜ、この矢田の前に現れたか?


 その経緯に、謎があるのだ…


 私は、思った…


 今さらながら、考えた…


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