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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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32/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 32

…サウジアラビアの国王と、国王の父親のケンカの原因が、リンダと、バニラだと?


 それは、一体、どういう意味だ?


 私は、思った…


 だから、私は、


 「…それは、どういう意味だ?…」


 と、聞こうとしたが、私が聞く以前に、


 「…アムンゼン…それは、どういう意味?…」


 と、リンダが、聞いた…


 なにしろ、当人だ…


 自分の名前が、思いがけず、出てきたから、聞きたくなるのが、当たり前だ…


 「…それは…」


 アムンゼンが、言い淀んだ…


 そして、アムンゼンは、オスマンの顔を、見た…


 きっと、言おうか、どうか、悩んで、オスマンの顔を見たのだ…


 アムンゼンの意を察したオスマンが、


 「…リンダさんと、バニラさんの、どっちが、好きかという話です…」


 と、答えた…


 「…エッ? …私とバニラのどっちが、好きって、なに?…」


 リンダが、驚いた…


 当たり前のことだ…


 「…二人とも、台北筆頭のイメージガールです…お二人が、写真に写っているものも、多い…だから、誰もが、リンダさんと、バニラさんのどっちが、好みか、聞きたくなる…質問したくなる…」


 「…それが、一体、どうして?…」


 「…それが、ボクの父と祖父…サウジアラビアの現国王と、前の国王の間で、起こったことが、原因です…」


 オスマンが、断言した…


 私は、空いた口が塞がらんかった…


 思わず、


 「…ウソだろ?…」


 と、言いたくなった…


 いや、


 言ってしまった…


 「…ウソだろ?…」


 と、言ってしまった…


 「…いえ、ホントです…」


 と、アムンゼンが、答えた…


 「…残念ながら、事実です…」


 と、付け加えた…


 「…でも、どうして? …どうして、そんなことが、きっかけで…」


 リンダが、聞いた…


 当たり前のことだ…


 「…いえ、それは、きっかけに過ぎません…」


 アムンゼンが、答えた…


 「…どういうことだ?…」


 と、私が、口を挟んだ…


 すると、アムンゼンが、


 「…要するに、ただのきっかけです…ほら、よくあるでしょ? …恋人や、夫婦が、別れたり、離婚したりする…そのきっかけは、なにかと、言えば、例えば、今朝、食べた、食事の中に、オレの嫌いなピーマンが入っていた…オレは、子供の頃から、ピーマンが、嫌いで、オマエも、それを知ってるはずだ…だから、これは、オレに対する嫌がらせか?と、男が、キレる…すると、女は、大人なんだから、出されたものぐらい、食べなさいよ、と、言って、それをきっかけに、互いに、相手のことを、罵りあう…」


 と、一気呵成に、言った…


 なんというか…


 あまりにも、バカバカしいというか…


 ありえん話だった…


 たしかに、このアムンゼンの説明は、わかる…


 日本のどこのカップルや家庭でも、今、アムンゼンが説明したようなことは、起きているだろう…


 いや、


 世界中、どこでも、起きているに違いない…


 が、


 それが、サウジアラビアの王室で、起こっていたとなると、話が、違う…


 なにしろ、王室…


 世界に名だたる、サウジアラビアの王室だ…


 それが、こんなことで、争うとは?


 話は、わかるが、立場というものがある…


 地位というものがある…


 まさか、そんな偉い人間が?


 言葉もなかった…


 すると、


 「…要するに、私とバニラのどっちが、好きかと、いうことを、きっかけに、サウジの国王と前国王が争って、それを、きっかけに、仲たがいしたということね…」


 と、リンダが、まとめた…


 「…その通りです…」


 アムンゼンが、力なく、答えた…


 「…バカげた話ですが、それを、きっかけに、父と兄の関係が、険悪になりました…」


 「…」


 「…ホントに、バカげた話です…ですが、それは、きっかけに、過ぎません…元々、父と兄は、折り合いが悪いところがありました…どっちが、いいとか、悪いとか、いうのではなく、ただ、折り合いが、悪いのです…なにより、二人とも、頑固で…似た者同士というか…」


 アムンゼンの告白を受けて、オスマンが、


 「…祖父も、父も、似たところがあります…まあ、なんといっても、父子ですから…」


 と、笑って、付け足した…


 「…これは、どこの家庭でも、起こることですが、問題は、これが、サウジの王室で、起きているという、ことです…これを、きっかけに、下手をすると、サウジ国内を、二分する争いに発展するかも、しれないと、いうことです…」


 「…そんな大げさな…」


 リンダが、口を挟んだ…


 「…いや、おおげさじゃない…」


 オスマンが、言った…


 「…祖父も、現国王の父に、国王の称号を譲ったとはいえ、国内に、隠然たる力を持っている…下手をすれば、内乱が、勃発しても、おかしくない…」


 「…な、内乱?…」


 私は、ビックリした…


 そんな大変なことが、たかだか、リンダとバニラのどっちが、好きかと、いうことが、きっかけで、起きるなんて?


 まさに、ありえん…


 ありえん話だった…


 「…それに…」


 と、オスマンは、続けた…


 「…さらに、問題なのは、祖父と、父の妻、ボクにとっては、祖母と母の折り合いも、悪いということです…だから、前国王と、現国王が、争えば、祖父と父の争いに、それぞれの妻が、加わる…そして、祖母も母も、サウジの有力部族の出身です…」


 「…有力部族?…」


 私は、聞いた…


 「…なんだ、それは?…」


 「…サウジは、他民族国家というか…部族が、いっぱいあります…それを、まとめるためにも、現王室は、各部族の有力者の子供たちを、王族の子供たちと結婚させている…それで、バランスをとっているというか…要するに、有力部族を、うまく、現王室に、取り込んで、味方に引き入れているんです…」


 「…」


 「…そして、問題なのは、父である、現国王と、祖父である、前の国王の、それぞれの妻たちは、部族が、異なるという事実です…」


 「…なんだと? …異なるだと?…」


 と、私。


 「…でも、それが、当たり前なんです…」


 と、オスマン。

 

 「…どうして、当たり前なんだ?…」


 「…今も説明したように、サウジアラビアには、部族が、多い…だから、王室は、多くの子弟が、各有力部族の子弟と婚姻関係を結んで、王室を安定させようとする…婚姻関係を結ぶというのは、日本でいえば、親戚になるということ…つまりは、自分の味方になってくれるということを、意味します…」


 オスマンが、丁寧に、説明した…


 「…だから、王族の主要メンバーは、皆、サウジアラビアの有力部族のリーダーの一族と縁戚関係を築いています…これは、ヨーロッパの王族もまた同じ…」


 「…どう、同じなんだ?…」


 「…イギリスの王室も、ギリシアの王室も、ベルギーの王室も、皆、親戚です…何百年も前から、互いに、子弟を結婚させて、縁戚関係を築いている…なにか、あったら、自分の味方になってくれると、思うからです…」


 「…」


 「…お姉さんも、知っている、先日亡くなったイギリスのエリザベス女王…女王の夫は、ギリシア王室の出身です…」


 「…なんだと?…」


 「…ひとは、皆、考えることは、いっしょです…日本でも、戦国時代は、戦国大名は、皆、各地の有力な戦国大名と、縁戚関係を結んだと聞きます…有名な豊臣秀吉と、徳川家康も、互いの息子と孫娘を結婚させたとか…」


 オスマンが、言った…


 すると、横から、


 「…それって、もしかして、豊臣秀頼と千姫のこと?…」


 と、リンダが、口を挟んだ…


 「…ええ、そうです…」


 オスマンが、答える…


 私は、この二人のやりとりを聞いて、このオスマンとリンダは、実に、この日本史に詳しいと、思った…


 なにしろ、この二人は、外人…


 リンダは、台湾出身…


 オスマンは、サウジアラビア出身…


 にも、かかわらず、この矢田よりも、日本史に詳しそうだった…


 が、


 この矢田トモコは、日本人…


 この4人の中で、ただ、一人の日本人だった…


 だから、負けては、いかん!…


 遅れをとっては、いかん!…


 そう、気付いた…


 ここで、この矢田が、誰よりも、詳しい、日本の歴史を披露して、この3人を驚かせてやろうと、思った…


 だから、私は、いつのまにか、足を広げ、腕を組んだ…


 威厳を出すためだ…


 この場にいる、ただひとりの日本人として、威厳を出すためだ…


 「…実は、私も、それを、今、言いたかったのさ…」


 と、私は、言おうとした…


 が、


 その直前に、太郎が、


 「…キー…」


 と、哀しげに泣いた…


 突然、泣き声を上げたのだ…


 私は、驚いたが、それは、皆、同じだった…


 とりわけ、太郎を抱いたリンダが、驚いた…


 「…どうしたの?…」


 と、言って、太郎を見た…


 すると、太郎が、哀し気な表情で、私を見ていることに、気付いた…


 途端に、


 「…お姉さん…また、なにか、やろうとしたでしょ?…」


 と、リンダが、言った…


 私は、


 「…知らんさ…」


 と、とっさに答えた…


 「…私は、なにも、知らんのさ…」


 私は言った…


 自信を持って言った…


 私が、なにを、考えていたか、バレるわけがないからだ…


 だから、自信が、あった…


 すると、そんな私を見て、またも、太郎が、


 「…キー」


 と、哀し気に泣いた…


 私は、どうしていいか、わからんかった…


 太郎を騙すことは、できんかった…


 すると、


 「…矢田さん、ウソは、いけません…」


 と、アムンゼンが、言った…


 「…太郎さんは、すべてを、見抜いていますよ…」


 「…太郎がすべてを、見抜いている?…」


 「…矢田さん、今も、無意識に足を広げて、腕を組んで、なにか、言おうとしたでしょ?…」


 「…」


 「…太郎さんは、そんな威張った矢田さんが、嫌いだと、さっきも、言ったはずです…」


 だからか?


 アムンゼンの指摘で、気付いた…


 太郎は、私が、威張った態度を取るのが、嫌い…


 私が、無意識に、足を広げ、腕を組んだのを見て、鳴いたに違いない…


 そう、気付いた…


 だから、


 「…すまんかったさ…」


 と、太郎に詫びた…


 「…太郎、オマエが、哀しむことは、もう、しないさ…」


 と、言って、腕を組むのも、足を広げるのも、止めた…


 「…この通りさ…許してやってくれ…」


 と、私は、太郎に頭を下げた…


 すると、


 「…矢田さんは、ホントに、この太郎さんが、大事なんですね…」


 と、アムンゼンが、感心したように、言った…


 「…当り前さ…何度も言うように、太郎は、恩人さ…太郎は、猿だから、恩猿さ…太郎に受けた恩を忘れちゃ、人間じゃないさ…」


 私が、呟くと、空気が一変したというか…


 あたりが、シーンとなった…


 「…父も、兄も、矢田さんのような心を持てば、争わなくて、すむのに…」


 アムンゼンが、落ち込んだ声で、言った…


 「…いえ、矢田さんのように、ならなくてもいい…サウジの王室にも、矢田さんが、欲しい…矢田さんが、いれば、王室の潤滑油になり、争いがなくなる…」


 アムンゼンが、呟いた…


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