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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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31/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 31

まあ、しかし、それも、仕方ないのかも、しれん…


 私は、思い直した…


 悩みのない、人生など、ないからだ…


 考えても、仕方がない…


 クヨクヨしても、仕方がない…


 なるように、なれだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…なにを、しているの? …お姉さん?…」


 と、いうリンダの声が聞こえた…


 「…早く来て…」


 と、続けた…


 私は、


 「…わかったさ…」


 と、答えて、リンダたちの後を追った…


 すぐに、リンダたちに、追いついた…


 そして、私は、リンダではなく、リンダに抱かれた太郎を見た…


 太郎が、心配だったからだ…


 「…太郎…大丈夫か?…」


 私は、つい、太郎を見て、そんなことを、言った…


 なぜか、口に出てしまった…


 なぜかは、わからんかった…


 きっと、今、あのアンナのことを、考えたからかも、しれんかった…


 だから、リンダではなく、リンダに抱かれた太郎のことが、心配になったのかも、しれんかった…


 太郎は、リンダに抱かれたまま、ジッとしていた…


 まるで、赤ん坊のように、ジッとしていた…


 私は、それを、見て、安心した…


 それを見て、心の底から、安心した…


 「…よかったさ…」


 思わず、呟いた…


 「…リンダ…オマエに、礼を言うさ…」


 私が、言うと、リンダが、笑った…


 「…お姉さん…もう、何度、礼を言うの?…よっぽど、このお猿さんが、大切なのね…」


 「…当り前さ…太郎は、恩人さ…だから、太郎のことが、気になるのは、当然さ…」


 もう、何度、言ったか、わからない言葉を繰り返した…


 「…太郎がいなければ、この一週間、生きてゆけんかったさ…」


 私は、言って、太郎の頭を撫でた…


 太郎は、リンダに抱かれて、安心しきっていた…


 「…リンダ…頼むゾ…」


 「…エッ? …なにを、頼むの?…」


 「…太郎のことさ…」


 「…このお猿さんのこと? …でも、このお猿さんは、お姉さんに、なついて…」


 「…それでもさ…」


 「…それでもって?…」


 「…太郎は、オマエに抱かれているのが、一番、安心しているみたいだからさ…」


 私が、断言した…


 「…だからさ…」


 私とリンダのやりとりを、アムンゼンとオスマンの二人が、足を止めて、見ていた…


 そして、ポツリと、


 「…お二人とも、実にお優しいんですね…」


 と、アムンゼンが、呟いた…


 「…どうして、そんなことが、わかるの?…」


 と、リンダ。


 「…動物は、人間以上に、その人間が、どういう人間か、わかるものです…嫌な人間には、近寄りませんよ…」


 アムンゼンが、答える…


 私は、それを、聞いて、考えた…


 …やはり、そうか?…


 …そうだったか?…


 と、いうことは、どうだ?


 やはり、この太郎は、あのアンナが、嫌な人間だから、逃げ出そうとしたのか?


 そう、気付いた…


 そして、そう、考えていると、


 「…さあ、お二人とも、早く中に…」


 と、いうアムンゼンの言葉で、私の思考が、中断した…


 仕方なく、歩き出した…


 

 アムンゼンの豪邸は、ある意味、ありきたりのものだった…


 たしかに、豪華なのだが、特色がないというか…


 サウジアラビアの王族だから、どうしても、サウジアラビアの特色というか…


 アラブ世界の特色を探してしまう…


 が、


 そんな特徴は、どこにもなかった…


 しいていえば、金持ちの家という感じ…


 そして、それを、感じたのは、リンダも、同じだったようだ…


 「…ちょっと、アムンゼン…」


 「…なんですか? …リンダさん?…」


 「…この家に、サウジアラビアとか、アラブの特色が、ないのは、どうしてなの?…」


 「…そんなものは、必要ありません…」


 「…必要ないって?…」


 「…ここは、ボクの私邸…とりあえず、見た目が、豪華なら、いいんです…」


 「…どういうこと?…」


 すると、


 「…オジサンは、ケチなんです…」


 と、オスマンが、口を挟んだ…


 「…ケチ?…」


 「…余計なものに、お金をかけないんです…だから、この家も、以前は、美術館でした…オジサンは、自分の身の回りのものを、少しばかり、持ち込んだに過ぎません…」


 「…美術館?…」


 「…ハイ…」


 「…どうして?…」


 「…リンダさん…ここは、何度も言うように、ボクの私邸です…サウジアラビアの公邸ではない…まして、ボクの存在は、極秘中の極秘…滅多に、ひとを、招くこともない…だから、お金をかけるだけ、野暮というものです…」


 「…野暮?…」


 「…そうです…」


 私は、その言葉を聞きながら、街の飲食店を、思い出した…


 これと、同じような例があることを、思い出した…


 …そうだ!…


 …居抜きだ!…


 わかりやすい例で言えば、街のラーメン屋でも、食堂でも、前に、その店をやっていた、ほぼそのままも状態で、次に別のオーナーが、営業する…


 椅子も、テーブルも、そのまま…


 その方が、お金が、かからないからだ…


 と、同時に、


 …コイツ、せこい!…


 と、思った…


 アラブの至宝だ、なんだと、呼ばれても、せこいと、思った…


 そして、私が、そう思っていると、


 「…オジサンは、ケチなんです…」


 と、オスマンが、繰り返した…


 「…物事を、合理的に、解釈するというか…無駄なものに、金は出さない(笑)…」


 「…」


 「…ですが、メンツもある…だから、この家は、以前、使っていた美術館を少し、改装したものです…美術館だから、絢爛豪華だけれども、ある意味、豪華なだけで、特色がない…」


 …なるほど、そういうことか?…


 私は、思った…


 それなら、納得する…


 たしかに、こんな大きな豪邸は、普通はない…


 都会で、個人の私邸では、ありえない…


 が、


 この豪邸が、元は、美術館と言えば、納得できる…


 だから、この美術館を買い取って、不要なものは、処分して、住めるように、改装したのだろう…


 私は思った…


 と、同時に、このオスマンの言う通り、つくづく、合理的な男だと、このアムンゼンを見て、思った…


 余計なことに、金をかけない…


 そして、そんなことを、考えると、あらためて、このアムンゼンの性格を思った…


 非常に、用心深く、ずるがしこい…


 それは、このアムンゼンが、小人症で、外見が、3歳の幼児にしか、見えないから、セレブの保育園に通っていることから、わかる…


 木を隠すのは、森の中の例えではないが、セレブの保育園の中に、紛れ込めば、わかりにくい…


 アムンゼンの通う保育園は、日本に駐在する世界中のセレブの子弟が、通う保育園…


 だから、なにか、あったときに、彼らを、アムンゼンは、人質に取れる…


 あるいは、セレブの保育園に通う、子弟の親を調べれば、その親たちが、どんな人間たちか、わかるし、情報を得ることも、できる…


 どんな人間かというのは、世界中の金持ちだけれども、会社経営者か、重役か、大使館の職員か、など、いづれにしても、この日本にいる、金持ちの外国人たちだ…


 だから、セレブの保育園に通うことで、さまざまな情報を得ることが、できる…


 そして…


 そして、だ…


 子供は、敏感…


 大人のできないことが、できる…


 ひとの善悪を見極めることができる…


 要するに、一目見て、子供たちが、その人間になつくか、否か?


 それで、その人間の善悪を判断することができる…


 これは、子供の持つ、もっとも、優れた武器の一つ…


 誰もが、子供のときは、持っているが、大人になるにつれ、徐々に失われていく…


 だから、人の善悪が、一目見ては、わからなくなる…


 ひとの善悪を見抜くのは、直観…


 直観に他ならない…


 そして、そんなことを、考えれば、考えるほど、このアムンゼンのずるさというか…


 用心深さが、わかる…


 その一方、このアムンゼンが、あのバニラの娘のマリアに恋しているのは、間違いない…


 間違いのない事実だ…


 このアムンゼンは、マリアが好き…


 それは、セレブの保育園に馴染めないアムンゼンの面倒を見てくれるから…


 何度も言うように、このアムンゼンは、小人症…


 本当は、30歳だが、外見は、3歳の幼児にしか、見えない…


 だから、当たり前といえば、当たり前だが、周囲の子供たちに、うまく溶け込むことなど、できるはずもない…


 だが、それは、このアムンゼンが、ホントは、30歳だと、知っているから、わかること…


 子供たちには、わからない…


 が、


 その子供たちの中で、マリアだけは、率先して、アムンゼンの面倒を見てくれた…


 それが、アムンゼンは、嬉しかったのだろう…


 マリアに頭が上がらなくなった…


 常に、マリアの下僕というと、おおげさだが、マリアの機嫌を取るようになった…


 アムンゼンの気持ちは、わかる…


 自分のために、動いてくれるマリアが、嬉しくて、たまらないのだ…


 アムンゼンは、大物…


 アラブの至宝と呼ばれるほどの、アラブ世界の重鎮の一人…


 が、


 裏を返せば、アムンゼンの持つ権力を目当てに、近付いてくる輩(やから)も、多いに違いない…


 そして、そんな連中を、アムンゼンは、嫌というほど、見たに違いない…


 それゆえ、アムンゼンは、マリアが好きなのだろう…


 3歳のマリアには、なんの下心がない…


 アムンゼンに取り入ろうとする下心がない…


 それを知っているからこそ、余計に、アムンゼンは、マリアが好きなのだ…


 私は、思った…


 そして、それを、考えると気付いたことがある…


 マリアが、意図せずとも、マリアは、自分が、意識するにしろ、しないにしろ、このアムンゼンを、自分の味方につけたということだ…


 ということは、どうだ?


 クール、いや、台北筆頭は、アムンゼンの庇護を受けたということだ…


 アムンゼンを味方につけたということだ…


 もちろん、遠い未来のことは、わからない…


 例えば、20年後、マリアは、23歳になる…


 おそらくは、母親のバニラ同様、長身の美人に成長するだろう…


 それは、今のマリアを、見れば、わかる…


 3歳の子供ながら、目鼻立ちの整った美人であることは、誰の目にも、わかる…


 普通に考えれば、母親のバニラ同様、美人になるだろう…


 バニラは、嫌いだが、この矢田も、バニラが、美人であることは、認めざるを得ん事実だった…


 バニラは、嫌いだが、認めざるを得ん事実だった…


 事実だったのだ(怒)…


 そして、それを、思えば、なぜか、むかっ腹が立った…


 あのバニラのことを、思い出したからだ…


 あのバカ、バニラのことを、思い出したからだ…


 あのバカ、バニラ…


 今度、会ったら、ただでは、すまんさ…


 地獄に落としてやるさ…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 そして、そんなことを、考えていると、


「…実は、サウジアラビアの父と兄のケンカは、リンダさんと、バニラさんが、関係しているんです…」


と、突然、アムンゼンが、呟いた…


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