35歳のシンデレラ 大道芸人編 29
…誰だ?…
とっさに、思った…
誰が、
「…お姉さん…お久しぶりです…」
と、言ったのか、知りたかった…
私が慌てて、その声のする方向に、カラダを向けようとすると、それより、速く、
「…オスマン?…」
と、リンダが、驚いた声を上げた…
「…お久しぶりです…」
オスマンが、少し、はにかんだように、言った…
私は、それを、見逃さんかった…
このオスマンは、イケメン…
長身のイケメンだ…
本当は、このオスマンこそ、アラブの至宝という名前にふさわしい…
なぜなら、ルックスが、抜群だからだ(笑)…
このオスマンは、以前、サウジアラビアの国王から、密かに、アラブの至宝こと、アムンゼンを、監視するために、派遣された…
なぜなら、以前、アムンゼンは、クーデターを起こした…
現国王を、倒して、自分が、実権を握ろうとした…
その際に、このオスマンを、国王にして、自分は、オスマンを陰から、操ろうとした…
何度も言うように、アムンゼンは、小人症…
本当は、30歳だが、3歳の幼児にしか、見えない…
だから、人前に出れない…
だから、国王になりたくても、なれない…
それゆえ、自分の代わりに誰かを立て、自分は、その人物を陰から操る…
それ以外、アムンゼンが、実権を握る手段がなかった…
だから、このオスマンを国王にしようと、画策した…
が、
あえなく、失敗した…
そして、二人は、サウジアラビアから、日本に、事実上、追放された…
が、
それは、形だけ…
実際は、このオスマンは、国王に通じていた…
オスマンは、クーデター以前から、問題児とされ、現国王は、アムンゼンに、オスマンを預けた…
が、
それは、形だけ…
実際は、オスマンの役割は、アムンゼンの監視だった…
再び、クーデターを起こしかねないアムンゼンへの監視だった…
そして、その事実に気付いたアムンゼンが、このオスマンを追放しようとした…
それゆえ、以前、アムンゼンと、バニラの娘のマリアの通う、セレブの保育園で、ひと悶着あった…
それを、思い出した…
思い出したのだ…
そして、このリンダもまた、オスマンとは、初対面ではなかった…
ひと悶着あった、セレブの保育園に、リンダも、また、いたのだ…
だから、二人は、初対面ではない…
にも、かかわらず、このオスマンは、リンを見て、はにかむとは?
…一体、どういうことだ?…
まるで、憧れの女優に会うような、感じだった…
まさか?
まさか?
このオスマンは、リンダに恋をしたわけでは、あるまいな?
私は、ふと、気付いた…
いかに、リンダが今、男装しているとはいえ、その美貌は隠せん…
リンダ・ヘイワースの美貌は、隠せん…
だから、このオスマンも、リンダに久しぶりに会って、欲情したのかも、しれん…
恋に落ちたのかも、しれん…
私は、それに、気付いた…
気付いたのだ…
だから、私は、自分の細い目を、さらに、細くして、オスマンを見た…
見たのだ…
すると、リンダも、私の視線に気づいた…
「…どうしたの? …お姉さん…そんな細い目をして、オスマンを見て?…」
と、聞いた…
これに、いつもは、
「…なんでもない…なんでもないさ…」
と、言って、ごまかすところだが、今日は、違った…
「…いや、このオスマンが、リンダ…オマエに気があるように、見えてな…」
と、言った…
わざと言った…
リンダの反応を見るためだ…
「…エッ? …なに、お姉さん? …なにを突然?…」
リンダが、慌てた…
「…なあ、そうだろ? …オスマン?…」
私は、わざと聞いた…
オスマンの反応を見るためだ…
すると、だ…
オスマンが、
「…この世界の男で、リンダ・ヘイワースを好きじゃない男がいたら、お目にかかりたいぐらいです…」
と、笑いながら、言った…
「…きっと、3歳の幼児でも、リンダ・ヘイワースの魅力を間近にしたら、男が目覚めますよ…」
と、冗談を言う…
が、
その冗談は、禁句だった…
なぜなら、アムンゼンが、3歳にしか、見えないからだ…
が、
アムンゼンは、なにも、言わなかった…
動揺する形跡が、一切なかった…
これは、意外と言えば、意外だった…
当然、怒るものかと、思ったからだ…
が、
オスマンも、さすがに、この冗談は、マズいと思ったらしい…
すぐに、
「…このお猿さんも、そうです…リンダさんの魅力で、参ってます…」
と、冗談を飛ばした…
が、
さすがに、これは、笑えんかった…
太郎は、別に、参っているわけでも、なんでもなかったからだ…
「…そこまでに、しておけ…」
アムンゼンが、怒りを押し殺した声で、言った…
明らかに、怒っていた…
そして、その声を聞くと、途端に、オスマンが、
「…ハイ…」
と、返答した…
まるで、青菜に塩というか…
リンダ相手に、冗談を飛ばした、今さっきまでと、態度が、全然、違った…
そして、それに、気付いたリンダが、
「…オスマン…更生したんだ?…」
と、からかった…
「…まるで、刑務所の受刑者みたい…アムンゼンは、刑務所の刑務官?…」
と、からかった…
すると、だ…
「…いえ、このオスマンは、在日サウジアラビア大使館の公使代理です…」
と、アムンゼンが、真面目な顔で、告げた…
「…公使代理? …なんだ、それは?…」
私は、聞いた…
「…単なる、肩書です…」
アムンゼンが、答えた…
「…肩書だと?…」
「…そうです…」
「…偉いのか?…」
私は、直球に、聞いた…
「…名目上は、在日のサウジアラビア大使館の№3です…」
「…名目上だと? …どういう意味だ?…」
「…大使館では、一番、偉いのは、大使…二番目に偉いのは、公使です…ですから、このオスマンを、公使代理に、したのです…」
アムンゼンが、あっさりと言った…
が、
私は、意味が、わからんかった…
たしかに、アムンゼンの説明で、このオスマンが、在日サウジアラビア大使館で、3番目に偉いのは、わかる…
だが、それが、どうして、名目上なのか?
それが、わからんかった…
だから、
「…名目上とは、どういうことだ?…」
と、私は、聞いた…
アムンゼンに聞いた…
すると、代わりに、リンダが、
「…つまり、アムンゼン…アナタの傍に、このオスマンを置くのに、肩書をつけたということね…」
と、口を挟んだ…
「…その通りです…」
アムンゼンが、答える…
「…ボクが、ここにいて、オスマンは、ボクの世話をする…そのために、このオスマンに、肩書があった方が、なにかと都合がいいんです…」
アムンゼンの言葉に、私は、少し、考え込んだ…
この矢田も、アルバイトや、派遣社員で、さまざまな会社で、働いたことがある…
主任、課長、部長等、誰もが、知る役職がある…
課長代理、部長代理等も、そうだ…
要するに、肩書が、必要だから、与えているといえば、語弊があるが、なぜ、この役職なのか?
と、首をひねることもある(苦笑)…
その役職に、どんな権限があるのか?
と、考えることがある…
そんなことを、考えていると、
「…まあ、名目ですよ…」
と、当の、オスマン自身が、呟いた…
「…オジサンの世話をするのに、なんの肩書も、なければ、やはり、マズいと思って、父が…」
と、苦笑した…
その言葉で、このオスマンと、アムンゼンが、血の繋がった、実の叔父と、甥という関係であることを、思い出した…
3歳の幼児しか、見えん、アムンゼンが、叔父であり、長身のイケメンのオスマンが、甥…
実際は、オスマンの子供にしか、見えない、アムンゼンが、実は、オスマンの叔父…
オスマンは、現国王の息子の一人…
そして、アムンゼンは、現国王の腹違いの弟…
だから、実は、歳は、このオスマンとアムンゼンは近い…
ゆえに、血の繋がりは、叔父と甥だが、本当は、従妹の関係に近いのかも、しれない…
父親や母親が、兄弟、姉妹という関係に近いのかも、しれない…
そして、それを思えば、以前、このオスマンと、接して感じたことの一つに、アムンゼンに対する、近さというか…愛情を感じた…
私は、それを、思い出した…
本当は、このオスマンは、父である、国王の甥で、叔父のアムンゼンを監視していたのだが、それだけとは、言えない…
なんというか、このオスマンが、アムンゼンに対して、愛情を持っているのが、感じられたのだ…
あるいは、それは、同情だろうか?
あるいは、それは、憐憫だろうか?
誰よりも、優れた頭脳の持ち主にも、かかわらず、容姿に恵まれない…
普通は、この場合の容姿とは、女なら、美人やブスに生まれたことを、表すが、このアムンゼンの場合は、小人症…
大人に見えない…
3歳の幼児にしか、見えない…
これは、キツイ…
普通は、ありえんことだからだ…
だから、普通のことが、できない…
人前に出れない…
それを、このオスマンは、同情しているのだろうか?
いや、
悲しんでいるのかも、しれんかった…
なまじ、優れた頭脳をもってしても、その頭脳を正々堂々生かせない…
堂々と人前に出て、権力を使う立場に立てない…
それに、同情したのかも、しれんかった…
そして、そんなオスマンの気持ちに、アムンゼンも、気付いている…
だから、以前、このアムンゼンが、クーデターを起こしかけたときに、オスマンが、力を貸したのかも、しれんかった…
アムンゼンが、腹違いの兄である、現国王を倒して、代わりに、このオスマンを、国王に据える…
そして、自分は、このオスマンを陰から、操る…
そんな提案に乗ったのかも、しれんかった…
私は、今、このアムンゼンとオスマンの会話を聞いて、今さらながら、二人の関係を思った…
思ったのだ…
そして、そんなことを、考えると、この二人の関係も、以前と違って見えてくる…
単なる、国王の腹違いの弟と、甥という関係ではなく、もっと、強い絆が、二人の間にあるように、思えてくる…
そして、もしかしたら?
もしかしたら、それゆえ、この二人は、サウジのことを、心配しているのかも、しれん…
同じように、心配しているのかも、しれん…
私は、思った…




