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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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28/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 28

「…着きました…」


 と、いうアムンゼンの言葉で、私とリンダと、太郎、そして、当のアムンゼンが、18金で、塗装された、金色のロールスロイスから、降りた…


 が、


 開口一番、リンダが、


 「…アムンゼン…ここは、サウジアラビア大使館じゃないわ…どういうこと?…」


 と、聞いた…


 私は、わけが、わからんかった…


 なぜなら、到着した先は、立派なお屋敷…


 一戸建ての立派なお屋敷だったからだ…


 いわゆる、豪邸…


 お金持ちのお屋敷だった…


 が、


 リンダは、

 

 「…アムンゼン…ここは、サウジアラビア大使館じゃないわ…どういうこと?…」


 と、叫んだ…


 これは、一体、どういうことだ?


 私は、さっぱり、わけが、わからんかった…


 「…リンダ? …どういうことだ? …ここが、サウジアラビア大使館じゃないというのか?…」


 私は、聞いた…


 「…ええ…サウジアラビア大使館じゃないわ…大使館は、六本木のビルよ…」


 リンダが、答える…


 「…だったら、ここは、一体、どこだと、言うんだ?…」


 「…ボクの私邸です…」


 あっさりと、アムンゼンが、答えた…


 「…私邸だと? こ、これが?…」


 「…サウジアラビアの自宅に比べたら、オモチャみたいな家ですが、この日本では、これで、十分です…」


 「…なんだと?…」


 私は、目の前の大邸宅を見上げた…


 この矢田トモコ、35歳…


 生まれて初めて見る、巨大な豪邸だった…


 この矢田など、生涯、縁のないと、思われた豪邸だった…


 しかも、


 しかも、だ…


 その豪邸の主が、このアムンゼンとは?


 この159㎝の矢田よりも、はるかに、小柄な3歳の幼児にしか、見えん、アムンゼンとは?


 納得できんかった…


 アムンゼンは、小人症だから、背が低いのは、仕方ないかも、しれんが、納得できんかった…


 かといって、アムンゼンが、身長2メートルでも、納得できたかと、問われれば、それも、怪しい(苦笑)…


 とにかく、納得できんかった…


 納得できんかったのだ…


 なぜ、こんなチビが、こんな豪邸に住むのか?


 しかも、この大豪邸の主だ…


 居候でも、なんでもない…


 私は、頭に来た…


 頭に来た理由は、ただ一つ…


 アムンゼンに対する嫉妬だ…


 なぜ、こんなチビが、こんな大豪邸に住むのか?


 世の中、不公平じゃないか?


 いや、


 世の中が、不公平であることは、わかっている…


 が、


 これでは、いくらなんでも、不公平過ぎるんじゃないか?


 私が、言いたいのは、それだった…


 それだったのだ…


 だから、私は、嫉妬の目で、アムンゼンを見た…


 3歳の幼児を見た…


 イジメてやろうと、思った…


 が、


 なぜか、突然、


 「…キー、キー…」


 と、太郎が鳴き出した…


 鳴き出したのだ…


 「…どうした? …太郎?…」


 私は、リンダに抱かれた太郎の元に、駆け寄った…


 そして、リンダに、


 「…リンダ…オマエ、太郎になにか、悪さをしたわけじゃ、あるまいな?…」


 と、食ってかかった…


 が、


 リンダは、冷静だった…


 「…悪さをしたのは、お姉さんじゃ、ないの?…」


 と、反論した…


 「…なんだと? …私が、一体、どんな悪さをしたと、言うんだ?…」


 「…今、お姉さん、凄い目で、アムンゼンを見ていたでしょ? …きっと、お姉さんのことだから、アムンゼンが、こんな大豪邸に、住んでいるのが、許せないと、思ったんじゃないの?…」


 そう、言われると、言葉もなかった…


 まさに、その通り…


 その通りだったからだ…


 「…このお猿さん、そんなお姉さんを見て、哀しんだんだと、思う…」


 「…太郎が?…」


 「…このお猿さんは、お姉さんが、好き…誰にも、優しい、お姉さんが、好き…だから、アムンゼンに、嫉妬の炎を燃やす、お姉さんを見て、哀しんだと、思う…」


 リンダが、太郎の心中を代弁した…


 太郎は、猿だから、しゃべれない…


 自分の心中をしゃべれない…


 だから、このリンダが、太郎の代わりに、しゃべった…


 そういうことだ…


 だから、本当は、太郎が、リンダの言ったように、思ったか、どうかは、わからない…


 が、


 リンダに抱かれた太郎が、哀しい目で、私を見ているのは、確かだった…


 だから、私は、太郎の頭を撫でながら、


 「…すまんかったさ…太郎、オマエを哀しませるような真似をして…すまんかったさ…」


 と、太郎に、詫びた…


 「…この通りさ…太郎…」


 と、言って、私は、太郎に頭を下げた…


 「…二度とアムンゼンを、変な目で、見ないさ…」


 と、太郎に誓った…


 「…すまんかったさ…太郎…」


 と、再度、私は、太郎に、詫びた…


 それを、見て、


 「…お姉さんは、ホントに、このお猿さんが、大切なのね…」


 と、感嘆したように、言った…


 「…当り前さ…リンダ…太郎は、私の恩人さ…太郎は、猿だから、恩猿さ…だから、太郎を哀しませることは、できんさ…」


 私は、断言した…


 「…私は、太郎のためには、どんなことも、するとは、言わんが、少なくとも、太郎を哀しませることは、しないつもりさ…」


 私は、太郎の頭を撫でながら、続けた…


 「…太郎…すまんかった…すまんかったさ…」


 私は、言った…


 すると、隣で、リンダと、アムンゼンが、互いに、顔を見合わせていた…


 「…矢田さんは、ホント、お優しいんですね…」


 アムンゼンが、言った…


 「…矢田さんが、ボクを羨むのは、わかります…誰でも、同じです…」


 「…なんだと? 同じだと?…」


 「…ボクが、こんな大豪邸に、住んでいると、知れば、誰もが、羨みます…ただ、それを、態度に出すか、否か、その違いだけです…」


 アムンゼンが、言った…


 すると、リンダが、笑いながら、


 「…アムンゼン…もしかして、試した?…」


 と、アムンゼンに聞いた…


 「…試しただと? …どういうことだ? …」


 私は、聞いた…


 「…わざと、六本木にある、サウジアラビア大使館には、行かず、この大豪邸に、私とお姉さんを招いて、どんな反応をするのか、試した?…」


 「…なんだと、どうして、そんな真似をするんだ?…」


 「…それは、アムンゼンに聞いてみたら?…」


 と、リンダが、いたずらっぽい顔で、言った…


 そして、そう言ったリンダは、物凄くチャーミングだった…


 男装しているにも、かかわらず、チャーミングだった…


 まるで、いきなり、リンダ・ヘイワースに変身したようだった…


 真紅のドレスを着て、レッドカーペットを歩く、ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースに変身したようだった…


 そして、それは、当然ながら、アムンゼンにも、伝わったようだ…


 「…リンダさん、ズルいです…」


 アムンゼンが、返答する…


 「…なにが、ズルいの?…」


 「…男装しているにも、かかわらず、そんなに、セックス・アピールを振りまいて…」


 アムンゼンが、言うと、リンダが、苦笑した…


 「…たしかに、リンダさんの言う通りです…お二人を試しました…」


 「…どういうことだ?…」


 私は、聞いた…


 「…わざと、大豪邸を見せて、どんな反応をするか、試す…それで、それで、その人の人間性を見ようと、試した…そうでしょ? …アムンゼン?…」


 「…その通りです…」


 「…で、結果は? …案外、予想通りじゃなかったんじゃないの?…」


 「…そこまで、見抜かれてましたか? …その通りです…」


 「…なんだと、どう、予想通りなんだ?…」


 「…私は、全然、動揺しない…そして、お姉さんは、動揺して、アムンゼンに嫉妬する…」


 「…」


 「…そう、予想して、いたんでしょ?…」


 「…ハイ…」


 「…なぜ、そんなことが、わかる?…」


 「…バカね…私は、世界中に知れたハリウッドのセックス・シンボル…お金持ちの家は、

散々、見たわ…だから、この大豪邸を見ても、動揺しない…庶民のお姉さんは、驚いて、動揺する…そして、こんな大豪邸に、住んでいるアムンゼンに嫉妬する…実に、わかりやすい(笑)…」


 リンダが、笑った…


 私は、言葉もなかった…


 まさか、そこまで、見抜かれているとは、思わんかったからだ…


 そして、それが、わかると、


 「…ズルいゾ…リンダ…」


 と、私は、言った…


 「…お姉さん…なにが、ズルいの?…」


 「…最初から、オマエが教えてくれれば、私も、驚かんフリをしたさ…」


 私が、言うと、リンダが、


 「…」


 と、なにも、言わず、苦笑した…


 すると、アムンゼンが、


 「…別に、そんなこと、どうでも、いいじゃ、ありませんか?…」


 と、口を挟んだ…


 「…矢田さんが、驚こうと、驚くまいと、どうでも、いいじゃ、ありませんか?…」


 「…よくは、ないさ…」


 「…どうして、よくはないの?…」


 今度は、リンダが、口を挟んだ…


 「…私は、クールの社長夫人さ…日本を代表する総合電機メーカー、クールの社長夫人さ…」


 「…それが、どうかしたの?…」


 と、リンダ…


 「…どうか、したじゃないさ…クールは、日本を代表する企業さ…その社長夫人が、豪邸を見たぐらいで、ビビったと、世間にバレれば、世間の笑いものさ…だから、ビビっちゃ、いけなかったのさ…」


 「…そんな、お姉さん…」


 「…私だって、こんなことは、言いたくないさ…でも、私にも、立場があるのさ…」


 私は、言った…


 言いながら、いつのまにか、私は、足を広げ、威厳を保つために、両腕を組んだ…


 すると、


 「…キー、キー…」


 と、悲鳴のような声が聞こえた…


 太郎だった…


 太郎が、私を見て、哀しそうな表情を見せた…


 「…ほら、お姉さん…このお猿さんが、鳴いているわ…」


 「…太郎が…」


 私は、言って、太郎を見た…


 太郎が、まるで、今にも、泣き出しそうな表情で、私を見た…


 この矢田を見た…


 「…このお猿さん…さっきも言ったけれども、お姉さんの威張った姿を見たくないんだと、思う…」


 「…そんなことを、言われても、私もクールの社長夫人の立場というものが…」


 私は、力なく、言った…


 太郎が、哀しむのも、わかるが、私の立場もあった…


 だから、どうして、いいか、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 すると、


 「…矢田さん…別に、いいじゃないですか?…」


 と、アムンゼンが、私に話しかけた…


 「…よくはないさ…」


 「…ここにいるのは、このボクと、リンダさんと、太郎さんと、矢田さんだけです…だから、ボクとリンダさんが、矢田さんが、ボクの家を見て、動揺したことを、話さなければ、世間に知られることは、ありません…」


 アムンゼンが、言った…


 たしかに、言われてみれば、その通り…


 その通りだった…


 「…ボクは、矢田さんが、動揺したことを、誰にも、話しません…リンダさんも、です…だから、いいじゃ、ありませんか? ねっ、リンダさん…」


 「…そうよ…お姉さん…お姉さんが、ビビったことを、誰にも、言わないわ…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 が、


 二人をよく見ると、笑いを押し殺しているのが、わかった…


 私は、頭に来た…


 思わず、怒鳴りかけようとしたが、そんな私を見ていたのだろう…


 またも、


 「…キー、キー…」


 と、太郎が鳴いた…


 悲しげに、鳴いた…


 途端に、私は、二人を怒鳴るのを、止めることにした…


 太郎を哀しませることは、できん…


 できんかった…


 「…すまんかったさ…太郎…」


 私は、リンダに抱かれた太郎の元へ、行き、太郎の頭を撫でた…


 「…私の立場など、どうでも、いいさ…オマエが、哀しむ顔は、見たくないさ…」


 私が、言うと、太郎の顔が、徐々に、穏やかになった気がした…


 そして、それは、二人も、同じだった…


 リンダと、アムンゼンの二人も、同じだった…


 いつのまにか、至極、真面目な表情で、私を見ていることに、気付いた…


 「…どうした? …オマエたち、なにを見ている?…」


 私が、聞くと、リンダと、アムンゼンが、互いに、顔を見合わせた…


 そして、リンダが、


 「…このお猿さんに、負けたわ…」

 

 と、呟いた…


 「…負けた? …なにが、負けたんだ?…」


 「…すべてよ…」


 「…すべてだと?…」


 「…ボクも、リンダさんも、できないことが、この太郎さんには、できる…」


 アムンゼンが、言った…


 「…完敗です…」


 アムンゼンが、言うと、太郎が、


 「…キー…」


 と、声を上げた…


 が、


 その声は、以前とは違って、哀しくなかった…


 私は、ホッとした…


 実に、ホッとした…


 と、そのときだった…


 「…お姉さん…お久しぶりです…」


 と、いう声が、近くでした…


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