35歳のシンデレラ 大道芸人編 27
私とリンダと、猿の太郎、そして、アムンゼンが、乗る、金色のロールスロイスが、走り続けた…
私が、つい、窓から、外の光景を見ると、ビックリする顔で、このロールスロイスを、見ている者が、いた…
きっと、このロールスロイスが、珍しいからだろう…
なにしろ、金色のロールスロイスだ…
滅多に、お目にかかれるものではない…
しかし、だ…
それにしても、わざわざ金色に塗装することは、ないんじゃないか?
私は、思った…
だから、
「…なあ、アムンゼン…」
と、言った…
リンダと太郎の向こう側にいる、姿の見えないアムンゼンに、言った…
「…なんですか? …矢田さん?…」
と、アムンゼンが、応じた…
「…なにも、このクルマを、金色に、塗ることは、ないんじゃないか?…」
私の質問に、アムンゼンは、
「…」
と、答えんかった…
すぐには、返答しなかった…
少し、考えて、
「…矢田さん…」
と、答えた…
「…これは、目印です…」
「…なんの目印だ…」
「…ボクが、ここにいる、目印です…」
「…なんだろ? …アムンゼン…オマエがいる目印だと?…」
「…そうです…」
「…それは、どういう意味だ?…」
「…金色は、金…つまり、ゴールドを表します…ゴールドは、富の象徴…金持ちの象徴です…つまり、金を持っていると、周囲の人たちに、見せる…そのために、このクルマの金色は、18金…本物の金です…」
「…なんだと?…」
私は、驚いた…
驚いたのだ…
たしかに、このロールスロイスの金色は、まばゆいばかりに、光っている…
よく、こんなにキレイに、塗装できるなと、内心、思っていた…
が、
まさか、18金とは、思わんかった…
まさか、本物の金を使っているとは、思わんかったのだ…
「…そして、それは、ボクを象徴します…」
「…なに? …オマエを象徴? …どういう意味だ?…」
「…このクルマが、現れるときは、ボクが、乗っている…そういうことです…」
「…なんだと?…」
「…この金色は、サウジの富を表します…」
「…なんだと?…」
私は、言葉がなかった…
つまりは、このアムンゼンは、自分が、登場するために、わざと、ロールスロイスを、18金に塗装して、乗っている…
そういうことだ…
そこまで、して、目立ちたいのか?
私は、思った…
私は、考えた…
が、
リンダが、いきなり、
「…それって、天皇陛下や、アメリカ大統領と同じよね…」
と、言った…
口を挟んだ…
「…どういう意味だ?…」
「…つまりは、公に現れるときは、豪華なクルマに乗っているということ…」
「…なんだと?…」
「…天皇陛下やアメリカ大統領だって、いつも、プライベートで、豪華なクルマに乗っているわけじゃないわ…アレは、公のときだけ…プライベートでは、他のクルマを使っているわ…」
「…」
「…でも、と、いうことは、アムンゼン…ひょっとして、このクルマの行く先は?…」
「…どこだと、思います?…」
「…サウジアラビア大使館?…」
「…ご名答…さすがに、リンダさんです…」
「…なに? …リンダ…どうして、わかった?…」
「…このアムンゼンが、堂々と、自分の身を晒して、動く…それは、公に活動をするということ…そして、このアムンゼンが、公に活動するということは、行き先は、公の場所…例えば、総理官邸とか?…」
「…総理官邸だと?…」
…バカな?…
…この矢田ですら、一度も、総理官邸など、行ったことはない…
…それが、まるで、近所のコンビニに行くように、軽く言うとは?…
…やはり、このアムンゼンは、ただ者ではない…
私は、あらためて、思った…
私は、あらためて、考えた…
そして、なぜか、このアムンゼンと私の因縁を考えた…
実は、この矢田は、散々、このアムンゼンをからかった…
いや、
散々どころか、つい、さっきも、睨みあった…
これは、あっては、ならんことだった!…
やっては、いかんことだった!…
このアムンゼンと、この矢田は、身分の違いがありすぎた…
天と地ほど、違い過ぎた…
今さらながら、気付いた…
だから、とっさに、
「…すまんかったさ…」
と、言った…
アムンゼンに詫びたのだ…
すると、リンダが、
「…なに? …お姉さん、いきなり?…」
「…リンダ…オマエにじゃないさ…アムンゼンに詫びたのさ…」
「…矢田さん、どうして、ボクに詫びるんですか?…」
「…オマエが、偉い人間だと、あらためて、思ったからさ…」
私が、言うと、かえって、アムンゼンが、戸惑った様子だった…
しばらく、無言だった…
それから、
「…矢田さんだから、いいんですよ…」
と、あっさりと、答えた…
「…私だから、いい? …どうして、だ?…」
「…同じ言葉でも、矢田さんが、言うから、いいんです…」
「…どういう意味だ?…」
「…矢田さん…考えてみて、下さい…」
「…なにを考えるんだ?…」
「…誰かが、例えば、ひとの悪口を言ったとします…でも、周囲の受け止め方は、違います…」
「…どうしてだ? …ひとの悪口を言ったんだろ? …同じじゃないのか?…」
「…違います…」
「…どう、違うんだ?…」
「…いつも、ひとの悪口を言っている者は、また、アイツ、誰かの悪口を言っていると、言われるものです…真逆に、それを言っても、全然、嫌みに聞こえないひとも、それなりに、存在します…矢田さんが、それに当てはまります…」
「…なんだと、私が、当てはまるだと?…」
「…要するに、人間性です…ひとの悪口を言おうと、その人間が、誰もが、性格が悪くないと、知っていれば、文句は、言いません…」
「…」
「…矢田さんは、ひとの悪口を言いますが、本質的には、善人です…それを、周囲の者は、皆、知っています…だから、矢田さんが、誰かの悪口を言おうと、誰にも、嫌われない…」
「…」
「…ひとの評価というものは、そんなものです…誰もが、同じように、そのひとを評価します…十人いれば、八人は、同じ評価です…一人二人が、違う評価をするものです…」
「…その一人二人は、どうして、違うんだ?…」
「…要するに、優れているか、劣っているかです…」
「…どういう意味だ?…」
「…優れている者は、例えば、対象の人間が、わざと隠していることや、本人も気付かない美点を、簡単に、見抜くことができる…」
「…」
「…真逆に、劣っている者は、誰もが、気付くことに、気付かない…そういうことです…」
うまいことを、言う…
私は、思った…
まるで、道徳だ…
道徳の教科書のようだ…
私は、思った…
「…そして、それが、頭の良さというものです…そして、それは、面白いことに、学歴と、関係ないことが、多々あります…」
「…なんだと? …学歴と関係ないだと?…」
「…矢田さんだって、その歳まで、色々な職場で働いたでしょ?…」
「…そうさ…働いたさ…」
「…ならば、わかるはずです…学歴が劣っていても、仕事ができたり、頭の回転が速い人間が、いるものです…真逆に、学歴が高くても、できないものは、できない…つまり、勉強ができる頭の良さとは、違う頭の良さがあるということです…」
「…」
「…そして、すべてを持って生まれた人間は、いません…」
「…どういう意味だ?…」
「…この日本では、東京大学が一番、頭がいいということですが、必ずしも、東京大学を出れば、一流企業に就職して、出世できるわけでは、ないでしょ?…」
「…それは、そうだが…」
「…就職した会社や、配属された部署が、自分に合わなかったり、仕事が合わなかったり、することが、誰にでも、あるものです…つまり、どこでも、どんなことでもできる、スーパーマンは、どこにも、いないということです…」
なんというか…
このアムンゼンが、初めて、この矢田の前で、まともなことを、言った…
この矢田を圧倒すべく、まともなことを、言った…
やはり、アラブの至宝と呼ばれた男…
外見は、3歳の幼児にしか、見えんが、すでに、この矢田を圧倒していた…
35歳の矢田を圧倒していた…
うーむ…
す、凄い…
が、
それは、やはり、アムンゼンの姿が見えないから、凄いと、感じたのだ…
私は、それに、気付いた…
いかに、アラブの至宝と呼ばれた男でも、誰もが、3歳の幼児にしか、見えん、男の話を聞いて、納得するわけがない…
だから、姿を見せては、ダメだ…
子供にしか、見えんからだ…
アムンゼンは、それが、痛いほど、よくわかっているのだろう…
だから、決して、公に、姿を見せない…
姿を見せれば、周囲の者に、軽んじられるからだ…
私は、今さらながら、その事実に、気付いた…
そして、そんなことを、考えると、つくづく見た目は、大事だと、思った…
この矢田も、何度も、言うが、短大を出て、就職もせず、さまざまな職場を転々とした…
就職氷河期で、就職できんかったからだ(涙)…
が、
そのおかげで、さまざまな人たちを見ることができた…
ひとつの職場にいては、一生会えんほどの多くの人間を見た…
そして、わかったことの一つは、見た目が思った以上に大事だということだ…
この場合の見た目というのは、美男美女のことを、言っているのではない…
ルックスのことを、言っているのではない…
単に、頼りがいがあるとか、仕事ができるとかいう、イメージの問題だ…
そのイメージがあると、職場で、人気が出る…
ルックスは、抜きにして、人気が出る…
要するに、実力以上に、その人間が、評価されるのだ…
もちろん、歳を取れば、違う…
十代、二十代の若い子とは、違う…
が、
十代、二十代でも、すぐに、相手の実力を見抜く者もいる…
そして、それは、学歴に直結はしない…
年齢にも、直結しない…
が、
やはりというか、学歴の有無で、それが、わかる、確率が変わる…
要するに、いくら、いい大学を出たり、歳を取っても、わからない人間は、いるには、いる…
しかしながら、大半は、学歴や年齢が、関係する…
やはり、学歴が高かったり、年齢が高かったりすれば、わかる人間が、多い…
が、
わからない人間も、少なからず、いる…
そういうことだ(苦笑)…
学歴や年齢が、低くても、わかる人間はいるが、学歴や年齢が高い人間に比べ、割合が少ないというだけだ…
私は、思った…
そして、そんなことを、思っていると、アムンゼンが、
「…着きました…」
と、告げた…




