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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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23/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 23

 「…リ、リンダ…オマエ、どうして、ここが?…」


 私は、驚いた…


 文字通り、驚愕した…


 まさか、こんなにも、呆気なく、私の居場所がわかるとは、思わんかったからだ…


 「…蛇の道はヘビというやつよ…」


 「…なんだと?…」


 私が、驚くと、背後から、アムンゼンが、現れた…


 「…ネットですね…」


 アムンゼンが、言った…


 「…ボクと矢田さん…なにより、太郎さんが、大道芸をしているところを、観客の方たちが、大勢、スマホで、撮影していました…それを、TikTоkか、ユーチューブのどちらかにアップしたのを、見たんでしょ?…」


 「…ご名答…」


 リンダ=ヤンが、言った…


 「…やはり、アムンゼン…アラブの至宝ね…」


 リンダが褒めると、アムンゼンが、


 「…そんなことは…」


 と、言って、顔を赤らめた…


 この矢田には、決して、見せん姿だった…


 私は、その姿をしっかりと、目に焼き付けた…


 私の細い目に焼き付けたのだ…


 そして、


 …やはり、この男は、ダメだ!…


 …ダメな男だ!…


 と、あらためて、思った…


 いかに、リンダ・ヘイワースが、ハリウッドのセックス・シンボルとまで、呼ばれる、とびきりの美女でも、今は、男装している…


 男の格好をしている…


 化粧も、せず、男物の服を着て、いる…


 にもかかわらず、顔を赤らめるとは?


 この矢田の前では、決して、見せん姿だった…


 私は、その姿を見て、


 …この男は、ダメだ!…


 …使い物にならん!…


 と、気付いた…


 アラブの至宝とまで、呼ばれる男だ…

 いつも、周囲のものに見られている…


 一挙手一投足を、観察されている…


 だから、自分の行動に、責任を持たねば、ならん…


 にもかかわらず、女にデレデレするとは?


 自分の置かれた立場も、考えん、究極のダメ人間だった…


 私は、そのことに、気付いた…


 今さらながら、気付いた…


 が、


 リンダも、また、それに、気付かん様子だった…


 きっと、自分が、モテるから、気にせんのだろうと、思った…


 リンダは、性同一性障害…


 カラダは、女だが、中身は、男というヤツだ…


 が、


 最初、この矢田と会ったときは、そんな説明ではなかった…


 リンダ・ヘイワースは、とびきりの美女…


 だから、どこに行っても、目立つ…


 それを避けるために、普段は、男装をしている…


 男の格好をしていると、言っていた…


 そして、私は、それを、信じた…


 男装をしている理由として、納得できたからだ…


 が、


 後になって、実は、性同一性障害と、告白した…


 つまり、最初のときと、証言を変えたのだ…


 だから、私は、今、このリンダの告白を信用していない…


 一応、納得は、している…


 だが、心の底からは、信用していない…


 そういうことだ…


 もっと、言えば、このリンダ・ヘイワースという女自体を、この矢田は、信用してないと、いうことだ…


 仲は、いい…


 これまで、色々、面倒は、見てもらった…


 が、


 心の底から、信用は、していない…


 そういうことだ…


 また、なにより、このリンダは、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれるほどの現在の地位を利用して、世界各国の重要人物と、繋がっている…


 その筆頭は、イギリス王室のウイリアム皇太子だ…


 ウイリアム皇太子を筆頭に、リンダのファンクラブを作っている…


 が、


 ただのファンクラブではない…


 ファンクラブは、隠れ蓑…


 実際は、セレブの情報網だ…


 世界中のトップクラスの人物たちの、秘密の情報網…


 このリンダが、なにを目的に、そんな情報網を作ったのか、この矢田の頭脳をもってしても、さっぱりわからん…


 だから、油断できんのだ…


 このリンダに、心を許すことが、できんのだった…


 私は、今、このリンダ=ヤンを前にして、あらためて、そう思った…


 私は、私の細い目をさらに、細くして、そう思って、このリンダ=ヤンを見た…


 見たのだ…


 すると、


 「…お姉さん…どうしたの? …そんな顔をして…」


 と、リンダ=ヤンが聞いた…


 私は、


 「…なんでもない…なんでもないさ…」


 と、慌てて言った…


 このリンダ…


 油断できん!


 油断できん女だからだ!…


 だから、私の返答を聞き、一瞬、きらりと凄まじい表情で、私を睨んだが、なにも、言わんかった…


 それよりも、アムンゼンを、見て、


 「…アムンゼン…サウジ本国のゴタゴタをどうするつもり?…」


 と、聞いた…


 直球で、聞いた…


 「…リンダさん…ご存知だったんですか?…」


 「…ええ…」


 「…だったら、正直に言いますが、ボクは、今度の争いに、関わりたくないんです…」


 「…どうして、関わりたくないの?…」


 「…父と、兄の抗争なんか、見るのも、聞くのも、まっぴらごめんです…」


 …なんだと?…


 …父と、兄の抗争だと?…


 私は、驚いた…


 まさか?


 まさか、そんな凄い展開になるとは、思ってもみんかったからだ…


 「…でも、それを止められるのは、アムンゼン…アナタだけでしょ?…」


 リンダ=ヤンが、言った…


 が、


 アムンゼンは、答えんかった…


 「…」


 と、なにも、言わんかった…


 「…ボクは、嫌なんです…」


 と、首を横に振った…


 「…肉親の争いに、首を突っ込むのは、ゴメンです…」


 「…だから、その現実から、逃げるために、お姉さんと猿と、いっしょに、いるわけだ…」


 「…それは?…」


 「…アムンゼン…」


 「…なんですか?…」


 「…これは、アナタにしか、できないことでしょ?…」


 「…それは…」


 「…ほかの誰にでも、できることじゃない…そうでなくて?…」


 「…」


 「…一体、アナタが、やらなくて、誰がやるの!…」


 リンダ=ヤンが、声は、低いが、明らかに、怒りを含んでいた…


 現実に、目をそむけている、アムンゼンに我慢がならない様子だった…


 が、


 それでも、アムンゼンは、なにも言わなかった…


 「…」


 と、黙ったままだった…

 

 業を煮やしたリンダが、


 「…アムンゼン…アナタ…いつまで、逃げてるの?…」


 と、怒った…


 が、


 それでも、アムンゼンは、


 「…」


 と、なにも、言わんかった…


 「…」


 と、黙ったままだった…


 それから、ポツリと、


 「…リンダさん…」


 と、漏らした…


 「…なに?…」


 「…父と兄が、ケンカをすれば、どうなるか、わかりますか?…」


 「…」


 「…現国王と、前の国王の争いです…日本で言えば、天皇陛下と、前の天皇陛下の争いです…」


 「…」


 「…それは、大きな争いになります…それぞれの側近を巻き込んで、下手をすれば、国を二つに、割るかも、しれない、とてつもなく、大きな争いになるかも、しれないのです…」


 「…」


 「…だから、ボクは、今、迂闊に動くわけには、いかないんです…」


 アムンゼンが、苦悶の表情で、告白した…


 私は、それを、聞いて、

 

 「…だから、ボクは、今、迂闊に動くわけには、いかないんです…」


 と、いう言葉が、引っかかった…


 つまりは、

 

 「…今、迂闊に動くわけには、いかないんです…」


 と、言っているわけだ…


 その言葉の意味を裏読みすれば、


 …今は、動かない…


 でも、

 

…いずれは、動く…


と、言っているわけだ…


 つまりは、


 今すぐには、動かないと、いう意味に違いない…


 私は、そう、気付いた…


 朝の8時に、ネットカフェの前で、私とアムンゼン…そして、猿の太郎と、二人と、一匹…


 それが、リンダ=ヤンと、立ち話をして、気付いた…


 サウジアラビアの危機について、語ったのだ…


 誰も、朝の8時に、ネットカフェの前で、サウジアラビアという国家の危機について、語っているとは、思うまい…


 正直、私も思わんかった(笑)…


 が、


 事実だった…


 真実だった…


 朝の8時に、ネットカフェの前で、他国の危機について、語ったのだ…


 まさか、本当のこととは、思わんかった…


 事実とは、思わんかった…


 が、


 真実だった…


 私は、猿の太郎の首についたヒモを持ち、隣には、アムンゼンがいた…


 まさに、3歳の幼児にしか、見えん、アムンゼンがいた…


 アムンゼン=アラブの至宝がいた…


 さらに、その前には、リンダが、いた…


 ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースが、男装をしていた…


 つまりは、このネットカフェの前に、世界中に知られた、美人女優が男装をしていて、その前には、3歳にしか見えないが、アラブ世界の実力者がいたわけだ…


 そして、その前には、平凡、そのものの、この矢田トモコと、猿の太郎がいた…


 なぜか、いた…


 うーむ…


 正直、わけが、わからんかった…


 今、サウジアラビアという大国の内政について、ハリウッドのセックス・シンボルと、アラブの至宝が、語っていた…


 が、


 なぜか、その場に、この矢田と太郎がいた…


 これは、例えば、江戸時代であれば、将軍と、老中のようなお偉いさんが、いっしょに、国家の大事について、語っているようなものだ…


 なぜか、その場に、この矢田と、猿の太郎が、いた…


 麻生太郎では、ない…


 吉田茂の孫ではない…


 猿の太郎だ…


 これは、実にありえんことだった…


 まさに、驚天動地の出来事だった…


 私は猿の太郎の首についたヒモを持ちながら、そんなことを、考えた…


 そして、次に、


 …こんなことに、巻き込まれては、堪らん…


 と、気付いた…


 こんなことに、巻き込まれては、命がいくつあっても、足りんと、気付いたのだ…


 だから、遅まきながら、それに、気付いた私は、さっさと、その場を去ることに、決めた…


 こんなことに、巻き込まれては、命がいくつあっても、足りん…


 それに、気付いた私は、この場から、逃げるべく、密かに、後ずさりした…


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